044 リカの戦術
「第2階層を選んだのは、吉岡隊や霧島隊の報告を聞いて、私のユニークスキルとボスの相性が良さそうだと感じたから。ボス戦では実際に私の勘が合ってるか試して、違っていたらそこで撤退する決まりだった」
「……どちらかというと、問題は危険個体のほうだった」
ミオが呟くと、カホとスミレが静かに頷いた。
「そうね。危険個体のほうが大変だったわ。でも、私たちは最初から第2階層を丁寧に攻略するって決めていたから、そこも大きな問題にはならなかった。戦闘のたびにユニークスキルを惜しみなく使い、戦闘後はクールタイムが終わるまで休むことを徹底していたから」
「なるほど。ところで、リカのユニークスキルってどういう効果なんだ?」
「そっか、吉岡くんには教えていなかったわね。私のユニークスキルは【紅蓮の審判】という設置型の攻撃スキルよ」
「設置型?」
「そう。発動時に、対象の敵1体の真下に炎の円環を設置する。円環の大きさは半径1メートルで、そこに対象の敵が留まっている限り、スキルは解除されず、敵に持続ダメージを与え続ける。与えるダメージは敵が留まる時間に応じて加速度的に上がっていく。あと、10秒ごとに1回大剣が落ちて大ダメージを与えられるわ」
「聞いている限りかなり強いな!」
「嵌まればね。癖も強いわ。円環は動かせないし、円環から敵が完全に出た瞬間、スキルが自動で解除される。しかも、クールタイムはスキルの解除から10分。半径1メートルの円環の中に敵を留め続けられる環境があるなら無類の強さを発揮するわ」
「第2階層のトレントは自力で動けない。だからリカのスキルと相性が良かったわけだな!」
リカは「そういうこと」と笑みを浮かべた。
「スキルの射程は20メートル。これは発動するための射程ね。発動後は離れても大丈夫。吉岡隊の報告で、敵の射程も同じくらいだと分かっていた。だから、一瞬だけ近づいてスキルを発動し、その後は離れて敵が死ぬのを見ていたわ」
「おー、やるなぁ! 俺より効率的な戦い方じゃねぇか!」
「そうでしょ? 今日は終始安定していたし、装備を更新できるだけのお金も稼いだ。私たちの場合、ボスはこの戦い方で簡単に倒せる。だから、武器より先に防具を買うことに決めたわ。このあと、隊員たちと防具屋に行く予定よ」
「ボスを嵌めて倒せるなら妥当だろう!」
「いい戦い方だ。参考にしたいが、他では真似できないな」
相良の言葉に、リカが「でしょ?」と笑う。
「これは私だけの戦術。吉岡隊と霧島隊が競っているなら、こっちは相良隊と競うから。負けないわよ?」
リカが言うと、相良は少し口元を緩めた。
「明日は俺たちも第2階層を攻略する。競うつもりはないが、負けるつもりもない」
「勝負ね」
「おいおい! 相良隊とリカ隊も競争かよぉ! しかもウチよりいい勝負しそうじゃん! こっちの相手は青息吐息で脱落寸前だぞ!」
「誰が脱落寸前だよ」
霧島が俺を睨む。
「自覚あるじゃねぇか! 霧島、まさに君だ! 第4階層の敵は今日よりもレベルが高い! さすがに苦しいぜ!」
「補足しますと、第4階層の敵のレベルは8~14です。吉岡くんの指摘は妥当です」
「うるせぇ! ボスと戦う頃には俺だってレベル5以上になってる。なら敵とのレベル差は10未満だ。レベル差補正は1段階しか発動しねぇ! 今日と大して変わらねぇよ!」
霧島が吠える。
俺の概算でも、霧島がボスと戦う頃にはレベル5以上だ。
そのため、言い分としては理解できる。
ただし、今日と大して変わらない=問題ないではない。
むしろ、明日も今日と同じような危険な戦いをする前提でいる。
(止めても聞かないだろうし、どこかで酷い失敗をするまで進ませるしかないよな)
おそらく相良、カホ、戸塚、ミオあたりは同じことを思っている。
特にカホは、心配そうな顔で霧島を見ていた。
「すみません、リカさん、一点だけ確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
おもむろに佐伯が手を挙げた。
「何かしら?」
「本日の第2階層攻略では、リカさんだけが攻略証明を取得できた……という認識でよろしいでしょうか? 先ほどの報告を聞いた限りですと、他の方は有効参加条件を満たしていないと思いますが」
「いや、全員が取得できたわ。そこは工夫したのよ」
「工夫ですか」
「カホのゴーレムにはボスの位置を探してもらった。それで偵察認定。ミオ、アヤ、スミレには、私がボスへ近づく際にユニークスキルを使ってもらった。私の安全度を高める目的でね。結果的に三人のスキルがボス戦に貢献したかといえば微妙だけど、有効参加条件を満たす形にはなったみたい」
「そうでしたか。その条件で取得できたということは、判定基準は結果としての寄与ではないのでしょう。たとえ空撃ちになったとしても、ボスの行動次第では意味のある行為になり得た……そう判定されたのだと推測できます」
「もっとも、別に今日は取得できなくても問題なかったわ。明日以降に取得すればいいだけだから」
佐伯は静かに頷き、メガネをくいっと上げた。
「報告会は以上でいいだろう。編成の変更は……必要なさそうだな」
相良が言うと、リカが「そうね」と頷いた。
「俺も今のままでいい」と霧島。
しかし、俺は違っていた。
「異議あり!!!!!!! 変更を要請する!!!!!!!」
「吉岡くん、編成を変えるのか」
相良が驚いた顔で俺を見る。
ナナはそれ以上に驚いていた。
「ナナとは昨日・今日と組んだ! 次のイイ女と組む時間だ!」
「そういう理由?」とサキが笑う。
「吉岡くんらしいわね。でも、それだとウチの隊から引き抜くことになるけど?」
リカが笑う。
「引き抜きではなく、トレードだ!」
「吉岡先輩、私を放出するのですか……?」
「そんなペットショップのチワワみたいな顔をしてもダメだ! これはユズ隊員も辿った道である!」
「そうだそうだ! ナナ、ユズ隊員の気持ちが理解できたか!」
ユズが謎のドヤ顔で言う。
「たしかに……そうですね……」
ナナは残念そうにしながらも納得した。
「承諾したわけじゃないけど、聞くだけ聞いてあげるわ。吉岡くん、ナナと誰をトレードしたいの? こっちは全員レベル4よ。第4階層に挑むには荷が重いと思うけど」
「そこは吉岡パワーでどうにかする! ただし、レベル7でクロスボウの使い手且つ索敵能力も備えた俺の輝く一等星ちゃんを放出するのはかなり痛い! これは苦渋の決断だ!」
「吉岡先輩、それなら無理に放出しなくても……」
「いや! 放出する! ナナ、俺には優先順位があるんだ」
「優先順位……?」
「最重要なのは、吉岡ハーレムランドの建国だ。つまり、一人でも多くのイイ女とイチャイチャすること。これは日本に帰るよりも大事である。レベル上げやら霧島隊との勝負ってのは、優先度で言えば上から5番目か6番目くらいだ」
「お前なめてんのか!」
霧島がテーブルを叩く。
強く叩きすぎて脇腹の傷が疼いたらしく、勝手に「うっ」と顔を歪めた。
「なめてなどいない! 正気、本気、大真面目だ! 俺は好色家の吉岡! イイ女が大好きだ! そして、アンチテーゼの女子は漏れなくイイ女! 異世界転移という非日常をきっかけに、全員を吉岡ハーレムランドの一員にするのが俺の最重要目標なのだ! ずっとナナと組んでいるわけにはいかない!」
「そんなにはっきり宣言すること!?」
サキはテーブルを叩いて大ウケする。
「吉岡くん、今の発言は聞き捨てならないな。リカも含まれているのか?」
相良が険しい顔で俺を睨む。
「スミレを含めるな! スミレは他の女とは違う!」
宮坂が吠える。
「言い方はともかく、宮坂と同意見だ」
黒瀬が腕を組みながら俺を見る。
「吉岡くん、男子の大半を敵に回してるよ」とアヤが笑う。
「相良、すまない……! リカはイイ女だ……! ゆくゆくはお尻ペンペンをしたいと願ってやまない……」
宮坂なら吠える場面だが、相良は眉間に皺を寄せるだけで何も言わなかった。
「吉岡くんの願望はわかったわ。でも、私の質問には答えていないわよ。誰とトレードしたいの? 先に言っておくけど、私は無理よ? 隊長だもの」
「隊長じゃなかったら応じていた?」
「考慮はしたかもね」
リカが髪を掻き上げて笑う。
それを見た相良が「リカ?」と呟いた。
なお、リカは答えなかった。
「ここは効率よく行こう。例えば俺が誰か希望を言ったとして、相手方が拒否すればトレードは成立しない。だから、まずは吉岡隊に移籍してもいいよという女性に挙手してもらうというのはどうかな!?」
「吉岡くんの提案は合理的です。それであれば、無駄なく進められます」
唯一の味方、中立の男・佐伯が援護射撃をしてくれる。
「私もそれなら問題ないわ。ナナのスキルは私の隊でも貢献できる。レベルも高いし、吉岡隊での経験も心強いわ。今の隊員たちも全員頼りにしているけど、本人が了承するならかまわないわ」
「では、吉岡隊に移籍してもいいという方、挙手をお願いします」
佐伯が言うと、ミオ、アヤ、スミレが挙手した。
「スミレ? 冗談だよな?」
宮坂の顔が凍りついた。




