043 返済方法
「失敗っつーか、火力が足りなかった」
「「それを失敗というんじゃないか」」
俺と戸塚のセリフが被る。
「黙ってろ!」
霧島は戸塚にだけ言い返した。
「俺のユニークスキルも使ったが、それでも火力が足りなくて反撃された。武器の生成は防げたが、普通に殴られた。それで俺が脇腹をやられて、早川も腕を折られた」
「防具まで新調したし、今日こそはと思ったんですけど……」
「最後の最後に締まらないんだよね、早川」
アヤが言うと、早川はシュンとした。
だからなのか、アヤは続けて優しい言葉をかけた。
「でも、生きて帰ってこられてよかったじゃん。次があるよ」
「そうですよね!」
「まあ、勝利は勝利だ。思ったよりくらったのは認める。だが、問題ない」
霧島が誇らしげな顔で俺を見る。
「そうか! 報告ありがとう! そして、おめでとう!」
俺が大げさに拍手すると、霧島は「ふん」と鼻を鳴らした。
「吉岡、明日は第4だ。まさか逃げないだろうな?」
「そりゃあ、俺は逃げないけど……霧島隊はもう1回第3階層でレベル上げしたほうがよくないか? きつくない? 早川以外、防具がGランクだろ?」
「このあと防具を買いに行く。ただ、俺は金がきつい。早川、2,000Gくらい貸してもらえないか? 5日で返す」
「いいですよ! 俺、防具も更新済みですし!」
「助かる」
「また借りるのかよ、霧島! 借金しまくりだな!」
俺が笑うと、霧島は「うるせぇ」と面白くなさそうに言った。
「先行投資だ。お前風に言えばレバレッジを掛けてんだよ。それに昨日借りた400Gはもう返済している」
「霧島くん、2,000Gくらいでは貸付条件として成立しません。金額を確定させる必要があります」
佐伯が言うと、霧島は「なら2,000Gだ」と言い直した。
「お前のほうはどうだったんだよ、吉岡。こっちに報告させたんだ。お前も報告しろ」
「もっともな意見だ!」
そう言うと、俺はユズの手を二度ぎゅぎゅっと握ってから離した。
ユズは満足げな笑みを浮かべており、特に何も言わない。
「では、ナナ、吉岡隊の報告を!」
「はい! 今日は第3階層を全8攻略したあと、第1階層も全8攻略しました!」
次の瞬間、霧島が固まった。
「……今、なんつった?」
霧島が信じられないといった顔でナナを見る。
「えっと、第3階層と第1階層を全8です……!」
「本当か?」と反応したのは相良だ。
「はい、本当です! 第3階層を攻略してギルドに戻った時点で13時30分頃でした」
サキが思わず「早っ」と反応する。
「吉岡くん、過去最速じゃない?」とリカも笑う。
「早く帰ってこられたのは、出発が早かったからか?」
相良が確認すると、ナナは「いえ!」と首を振った。
「出発は10時頃でした」
「戦闘と往復込みで3時間30分程度か」
「どんなペースで進んでるんだよ。俺らの競争相手、バグってない?」
梶原が苦笑する。
霧島は言葉を失っていた。
「第3階層ですが、私たちのほうは転移してすぐに水晶モールの奇襲を受けました」
ナナが今日の活動内容を報告していく。
途中、佐伯が「レジェンド級の魔法は強力ですね」と言った。
「その後、吉岡先輩が敵との距離を詰めて、敵の攻撃を避けながら魔法を撃ち続けて勝利しました! 第1階層には、余った時間を使って私の攻略証明を取得しに行きました。それから……」
ナナは体をユズに向けると、遠慮がちに、それでも真っ直ぐユズを見て言った。
「私もアユの串焼きを食べました!」
「……へぇ、ナナ、やるじゃん」
ユズは頬を少し膨らまして拗ねている。
しかし、先ほどの手つなぎが効いているのか余裕があった。
腕を組み、「私、余裕ですから」と言いたげな表情だ。
「ユズ、余裕そうに見せたいなら、もう少し普通にしていることね」
リカが笑いながらからかう。
「う、うるさい! 余裕だし! 拗ねてないし!」
「昨日みたいに喚かなくて大丈夫?」とサキがニヤニヤ。
「サキまで! もう! からかわないでよ! 恥ずかしくなるじゃん!」
「……ユズは、素直」
ミオがボソッと呟く。
その口元からは笑みがこぼれていた。
「戦闘の報告は以上だ! 第1から戻った後、装備の新調に行った! 見ての通りトンファーを捨て、俺は令和の佐々木小次郎になった! カッコイイだろ、この大太刀!」
俺は立ち上がり、大太刀を皆に見せる。
「それだけ大きいと重そうだな」と相良。
「たしかに重い! それにトンファーほど細かい動きは無理だ! だが、リーチがあってカッコイイ! つまり、俺に相応しい!」
「吉岡くん、うっかりナナを巻き込まないように気をつけてね」
カホが笑いながら言う。
「そこは気をつけないとな! ちなみに、俺のレベルは8になったよ! ナナはいくつだっけ? 6?」
「7です! 名前と同じ7です!」
「え、ナナまでレベルそんなにあるの!? 私と早川ですらレベル6なのに!」
ユズが驚く。
「私はまだ5だよ」
サキの言葉に、梶原が「俺もだ」と続く。
霧島は黙っていたが、おそらくレベル4だろう。
「今日は普段より頑張ったから、ちょっと注目を集められると思ったのだが……吉岡くんの後だとかすむな」
相良が苦笑する。
「お! 相良、珍しいな! 頑張ったのか!」
「ああ。俺たちも二つの階層に行ってきた」
場がどよめく。
霧島も「なんだと」と驚いていた。
「といっても、第1全8、第2は通常種のみだ。第1を攻略したあと、宮坂以外の5人も武器をFランクにした。だから、第2階層に挑んだ。終わって戻ってきたのが17時頃。怪我はしていない」
「通常種を狩ったならボスまで行けただろ。もったいねーな」
霧島が口を挟む。
「それは俺も思ったな」と宮坂が頷く。
「だが、最初から通常種だけという話だった。相良の判断は間違っていない」と黒瀬。
「別に間違ったとは思っていねぇよ」
宮坂も不満はないようだ。
「到達階層では吉岡くんたちに劣るものの、回った階層の数では勝る予定だった」
相良の言葉に、俺は笑った。
「相良、申し訳ない! この男・吉岡、霧島と違って魔法で無双できちまう故、つい飛ばしすぎた! 見せ場を奪うつもりはなかったが、自分の強さが憎い!」
「謝る気ないだろ」と梶原が笑う。
「気にしなくていい。俺が吉岡くんの立場でも、おそらく第1全8をこなしていた」
「ところで霧島、借りた金はどうやったら返済できるんだ? カホさんに350Gを返したいが、返し方がわからないから教えろ」
宮坂が言った。
「それは――」
「あ、返せた。もういい」
「おい。ふざけてんのか」
霧島がテーブルを叩く。
それを無視して、佐伯が口を開いた。
「返済方法は二つあります。一つは返済期限を迎えることです。その場合は自動的に返済されます。二つ目は今のように、貸主に返済意思を伝えることです。宮坂くんの発言をカホさんが聞いていたため、返済が行われたものと考えられます」
「たしかに350G返ってきた」とカホが頷く。
「助かった。ありがとう」
「いいよ。こっちこそ返してくれてありがとう」
「さて、これで残すはリカ隊だ! 色気ムンムンのリカ率いるガールズチーム! 安全第一のカホがいるから、今日は第1全8だと思うが、相良隊みたいにそのあと第2にも挑んだかい?」
俺が尋ねると、リカは「ふふ」と得意げに笑い、見えるように脚を組み直した。
黒パンストを纏った長い脚が優雅に動き、俺の視線を釘付けにする。
「残念だけど吉岡くん、その推測は外れよ。第1全8でも、複数階層でもないわ。私の隊は第2全8」
「マジで!?」
俺は身を乗り出した。
他のサークルメンバーも驚いている。
とりわけ相良は驚愕していた。
「……本当なのか? リカ」
「本当よ、相良。第2全8。そうよね? カホ」
「うん。リカ隊は第2全8で間違いないよ」
「リカ……いや、リカ隊の装備は武器、防具ともにGランクのはず。今もそうだ。レベルも低かった。それで第2を全8したというのか」
相良が確認すると、リカは余裕ありげに「そうよ」と笑みを浮かべた。
「第2のボス・白樹トレントは、あまりにも私のユニークスキルと相性が良すぎた」
リカが今日の活動内容を語り始めた。




