042 霧島隊の第3階層
「太刀ですか!」
ナナが言った。
「おうよ! しかもかなり大きい! 大太刀だ! 最高にカッコイイだろ! もうコイツで決定だ!」
青い刀身と、黒色を基調としたデザイン性の高い鞘は、とてもFランクに見えない。
これはお値打ち品だと俺の本能が告げていた。
「たしかにカッコイイですが……かなり重そうですよ!?」
「両手で振り回すから問題ないさ! 太刀と魔法で無双するぞ! 今日から俺は令和の佐々木小次郎だ!」
俺は迷うことなく大太刀を購入した。
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【支払ログ】
武器:[F]雫石の大太刀
支出:3,000G
所持金:7,403G → 4,403G
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購入を済ませると、さっそく装備する。
「どうよ、ナナ! これが新しいレジェンド吉岡だ!」
「トンファーからのギャップがすごいです! なんか本当に佐々木小次郎っぽいです!」
「ありがとう! これが令和の佐々木小次郎、男吉岡だ!」
俺は大満足でステータスを確認した。
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【名前】吉岡
【レベル】8 EXP:652/780
【所持金】4,403ゴールド
【ユニークスキル】オール・レジェンド(P)
【技能①】[F]スター・ストライク(レジェンド)
【技能②】未登録
【技能③】未登録
【武器】[F]雫石の大太刀
【防具】[F]ブルファムレザーの軽装備
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装備が更新され、レベルも上がった。
お金にも余裕があり、文句のない仕上がりだ。
「さあ、報告会の時間だ! 思ったより長居してしまった! みんなを心配させていそうだ!」
「たしかに……! 急ぎましょう!」
「遅れるなよ、ナナ!」
「はい!」
俺たちは店を飛び出し、ギルドに向かって駆け出した。
◇
ギルドに戻ってきたのは19時になる直前のことだった。
エリナは受付で他の冒険者と話していたが、俺に気づくと一瞬だけ微笑んだ。
男心を理解しているイイ女である。
口説く時間がないので、ナナと二人で奥の集合用スペースに向かう。
区切られたエリアを通り、アンチテーゼの面々が集まる区画へ近づく。
「全8なんだから問題ねぇだろ! いちいちうっせぇな!」
間仕切りの向こうから霧島の声が聞こえてきた。
報告会はすでに始まっているようだ。
セリフから察するに、霧島隊は第3全8を達成したようだ。
ただ、安全な攻略ではなかったのだろう。
霧島の怒声がそれを証明している。
「誰と話しているんだろうな?」
「カホ先輩でしょうか?」
「お前みたいな臆病者じゃねぇんだよ! 俺たちは!」
「相手は戸塚だな。間違いない」
ナナも「ですね」と笑った。
盗み聞きする趣味はないので、俺は気にすることなく報告会に加わった。
「待たせたな! 野郎ども! イイ女たち!」
相良が「無事だったか」と安心したように呟く。
佐伯は「おかえりなさい」とだけ言ってメガネをくいっと上げた。
「おせぇんだよ」
そう言って俺を見た霧島だが、装備が変わっていることに気づくと目を丸くした。
「……装備を変えたのか」
「おう! 武器と防具を新調した! トンファーは卒業! 時代は大太刀だ! ということで、遅くなってすまんな! 一言声をかけておくべきだった!」
そう言いつつ、俺はどこに座ろうか見回した。
相良隊とリカ隊が長いテーブルの両端を確保している。
昨日と同じく隊ごとにまとまっているようだ。
霧島隊は中央あたりにいた。
そして、ユズだけが霧島隊の向かいに座っている。
「吉岡くん、ここ! ここ!」
ユズが隣に座れと椅子を叩く。
「はいよ」と苦笑しつつ、俺はユズの隣に座る。
ナナは俺のもう片方の隣に座った。
「霧島、怒声が漏れてたぞ! 戸塚と言い争ってたんだな!」
「相良さんに結果を聞かれて報告したら、危険だの何だの言われたんだよ」
「実際に危険だったろ。お前と早川の怪我は、治療所の回復魔法でも完治していない」
戸塚の発言で、俺とナナの視線が霧島と早川に向く。
霧島の怪我は、座ったまま見る限りではわからなかった。
一方、早川は包帯と添え木で左腕を固定していた。
「あらまー、ずいぶん派手にやられたな! 怪我を織り込んでいるとは言っても、今日中に治らないんじゃ効率が落ちるんじゃないか?」
そう言いつつ、俺はテーブルの下でこっそりユズと手をつないだ。
その瞬間、ユズが顔をパッと明るくして俺を見る。
で、小さな声で「許す」と呟いた。
何を許すのかは不明だが、どうやら俺の選択は正しかったようだ。
「問題ねぇ。明日の朝にもう1回治療を受ければ回復する。その後なら狩りに行ってもいいと治療所の担当者にも言われた。効率は落ちない」
「そっか! なら、よかった! 怪我でパフォーマンスが落ちて負けました、なんて言われても困るしな!」
「言わねぇよ! 明日こそ勝つ。その様子だと、そっちも第3を全8なんだろ?」
「そうなんだけど、霧島の話をもう少し聞かせてくれよ! 第3階層、結構きつかったろ? よく攻略できたな! 正直、そろそろきついと思ってたぜ!」
「なめんなよ。余裕だ」
「いや、余裕じゃなかったでしょ」と梶原が苦笑する。
「今日の霧島はちょっとよくなかったね」
サキも真顔で言った。
「隊員にまで言われてるじゃねぇか。何があったんだ? 朝はいい感じだったろ?」
俺が尋ねると、霧島は「ふん」と鼻を鳴らした。
「通常種は余裕だった。配置は依頼と同じ順だ。スライム、バット、コボルト……ってな」
「モールは苦労しなかったのか? 地中に隠れていただろ? 俺たちは少し危なかったぜ。なぁ、ナナ」
ナナが「はい」と真面目な表情で頷く。
俺とユズがテーブルの下で手をつないでいることには気づいていない。
「あんなの苦労するか?」
霧島が首をかしげる。
梶原たちが口を挟まないので、どうやら本当に楽勝だったようだ。
配置との相性もあるのだろう。
「まあいい。それで、危険個体の大きいサソリがいるだろ」
「裂岩スコーピオンですね」と佐伯が補足する。
「アイツと水晶バジリスクが広い場所で待っていた。同時だ。そこで俺が少し削られた」
「問題はその削られ方でしょ。私の【ミラージュ・ドレス】がもうすぐ使えるようになるから、それまで休憩しようって話だったのに、霧島が先を急いで、クールタイムが終わる前に突っ込んだ」
サキが不満そうに言う。
「そのことなら謝っただろ。何度も言うな」
「なら、謝ったことも報告に含めなよ。隠したから指摘したんでしょ」
「……隠したわけじゃねぇよ。このあとで言うつもりだった」
霧島の歯切れが悪くなる。
サキは「どうだか」と鼻で笑った。
「サキの言うとおり、俺が急いだ。それで俺が削られた。でも、もう謝ったことだ。同じミスはしねぇ」
「そこはもうわかった。今のところ順調じゃないか。すると、派手にやられたのはボス戦か」
霧島は「そうだ」と頷いた。
「最初は梶原の風刃で目潰し、そのあと突撃する予定だった。仮に防がれたら、サキの幻影でかく乱してから突撃する考えだった」
「風刃で目潰し……どこかで聞いた作戦だなぁ」
俺はニヤニヤしながら梶原を見る。
「認めたくないけど、今のところ一番有効な使い方なんだよな。実際、今日も通用したしな」
梶原は苦笑すると、頭の後ろで手を組んだ。
「だから作戦通りに突撃した。あのボスは雷が苦手だから、全員でユズの果実爆弾を投げた。黄色だ」
「ユズ隊員は今日も活躍したってこと!」
ユズが俺を見てにぃと笑う。
「そのようだ。さすがはユズ隊員だ! ご褒美をあげよう!」
俺はユズの頬にキスする。
それから耳元で、「ユズっぱいが恋しいなぁ」と囁いた。
「……ばか。キスだけなら笑顔になれたのに。恥ずかしいじゃん」
ユズが顔を真っ赤にする。
「でも、昨日よりいっぱい褒めてくれた! だから許す!」
「なるほど、昨日は褒め足りなかったわけか」
「そうだよ! いっぱい頑張ったらいっぱい褒めてほしいの! ユズ隊員はそういう子!」
ユズが頬を膨らませて「わかった?」と俺を睨む。
「覚えておこう」と頷き、テーブルの下でユズの手をぎゅっと握る。
ユズは満足そうに「ふふん」と笑った。
「報告を聞きたいならイチャイチャすんのは後にしろ」
霧島はそう言うと、続きを話した。
「ユズの爆弾も効果があった。あとは作戦通りに総攻撃だ。事前の情報で、ボスが水で武器や盾を作ることはわかっていた。だから、そうする余裕を与えずに仕留める予定だった」
「いい作戦じゃないか。怪我をしたってことは、失敗したのか?」




