038 第3階層
その日、俺とナナは肉体関係を持った。
ことの詳細は大人の事情で内緒だ。
そんなこんなで夜が明け、異世界生活4日目が始まった。
「吉岡先輩、起きてください。朝ですよ」
ナナの声で目が覚めた。
目を開けると、彼女は俺の腕の中で幸せそうにしていた。
少し乱れた髪が、昨夜の余韻を醸し出している。
「もう朝か。今日も頑張らないとな!」
「はい! 今日は第3階層攻略です! ちょっと不安ですけど……吉岡先輩と一緒なら大丈夫な気がします!」
「なーに、大丈夫じゃないときは死ぬだけだ! 気楽に行こうぜ!」
「それ、気楽に行けませんよ!」
「がっはっは」
俺たちはベッドを出ると顔を洗い、宿屋を後にした。
◇
朝食は道中の飲食店で食べた。
冒険者専門店なので、料金設定はギルド内の食堂と同じだ。
武器の購入に向けてお金を節約したいので、シンプルセットを選ぶ。
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【支払ログ】
食事:シンプルセット
支出:350G
所持金:2,921G → 2,571G
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思えばギルドの食堂以外の店で食べるのはこれが初めてだ。
店が違えば内容も違うもので、ここのシンプルセットはパンとミルクだった。
パンは見た感じバゲットだが、中に蜂蜜らしきものが入っている。
「甘くて美味しいですね! このパン、気に入りました!」
「ミルクも濃厚でいい感じだ! いけるぜ!」
量は少し控えめだが、朝食としては悪くない。
「同じ店にばかり通ってたらいけないな!」
「ですね! もっと色々なお店に行きたいです! 吉岡先輩と……!」
「俺と一緒がいいんだ?」
「ダメですか?」
ナナが恥ずかしそうに頬を膨らませる。
「ダメじゃないさ。こうして他の店に行くのは楽しいしな!」
朝食を満喫すると、いよいよギルドに向かった。
◇
ギルドに到着した。
狩場へ赴く前に、手続きをせねばならない。
時刻は9時45分。
まずは愛しのエリナを口説いて――。
「……って、いないじゃん! エリにゃん!」
受付にエリナの姿がなかった。
そのせいか、どの窓口にも同じくらいの長さの列ができている。
「あ、吉岡くんだ」
適当な列に並んでいると、別の列から声が聞こえた。
顔を向けると――。
「お! サキだ! それに霧島隊の面々!」
「おはよー、吉岡くん! それに……ナナ!」
ユズが頬を膨らませてナナを睨む。
「お、おはようございます、ユズ先輩。目が怖いです……!」
「ナナは今一番のライバル! 負けない!」
ユズはぷいっと顔を背ける。
その際、こちらから見えるように槍を立てた。
「ユズ、新しい武器を買ったんだな」
ユズだけでなく、霧島隊の全員が武器を新調していた。
早川にいたっては武器の構成そのものが変わっていた。
「ふっふーん! そうなの! いいでしょ?」
「普通に羨ましいぜ! サキとはお揃いじゃなくなったんだな!」
ユズの槍は形状・長さとも前回と似ていて、純粋に質だけが上がったような感じ。
一方、サキの槍は刃の幅が広くなっていた。
笹の葉のような形状をしていて、突きに加えて斬ることもできそうだ。
長さはほんの少しだけ短くなっているが、誤差の範囲である。
「これで今日はユズ隊が第3階層を攻略しちゃうから!」
「勝手にお前の隊にするな。俺の隊だ」
そう言うと、霧島は俺を睨んだ。
「吉岡、お前はどうせナナと乳繰り合って遅くなったんだろ。だが、こっちは違う。昨日の反省を生かし、朝から第3階層の情報を集め、作戦を練っていた。その差を見せてやるよ」
「それは実に楽しみだ! 乳繰り合っていた俺たちとの差を見せてくれ!」
「吉岡先輩、その、乳繰り合ってたっていう部分は大声で言わないでいただけると……」
ナナが顔を真っ赤にする。
「やっぱり乳繰り合ってたんだ! ナナ、ずるい!」
ユズがプンプンした様子でナナを睨む。
「ま、負けませんよ、ユズ先輩……!」
「はいはい。二人ともわかったから。ほら、ユズ、行くよー。じゃ、またね、吉岡くん」
サキが軽く手を振り、ユズを連れて窓口に向かう。
「吉岡先輩、俺、頑張ってますから! 気づいていますか? 俺だけ防具もFランクにしたんですよ! それに武器も弓と短剣の構成から片手剣に変えました!」
「すまん早川、全く気づいていなかった! 武器は気づいていたけどな!」
「今日は俺が霧島隊の主役っすから! 来ますよ、俺の時代!」
早川が声を弾ませて霧島たちに続く。
梶原は俺を見たが、何も言わなかった。
「すごい気合いですね、霧島隊」
霧島隊の後ろ姿を見ながら、ナナが呟く。
「でも、今日か明日あたりで脱落だろうな」
「脱落?」
「霧島隊には弱点が二つある」
「二つもですか?」
「一つは俺と張り合うことだ。俺が第3階層を選べば、霧島隊も第3階層を選ぶ。俺たちが第3をクリアできたら、明日は第4になる。佐伯さんのデータが正しければ、霧島はまだレベル3になりたてだ。第2階層のボスにもレベル2で挑んだことになる」
「そうですね。それで、もう一つは?」
「単純さ。霧島隊は――」
「次の方、どうぞ」
話している最中に俺たちの番がやってきた。
別の列に並んでいた霧島隊は、すでに手続きを終えて出発している。
「ま、二つ目が何かはすぐにわかるさ。それより、今は自分たちのことに集中しよう。第3階層が厳しいのは俺たちも同じだからな!」
「わかりました!」
俺たちは受付カウンターに移動した。
PT申請を行い、第3階層の討伐依頼を受注する。
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・[通常] Lv.5 雫石スライム:6体(230G)
・[通常] Lv.6 灰耳バット:5体(260G)
・[通常] Lv.7 小爪コボルト:4体(280G)
・[通常] Lv.8 水晶モール:4体(310G)
・[通常] Lv.9 洞穴リザード:3体(330G)
・[危険] Lv.9 裂岩スコーピオン:1体(380G)
・[危険] Lv.10 水晶バジリスク:1体(510G)
・[ボス] Lv.11 雫石ゴーレム:1体(890G)
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「さあ、今日も魔法をぶっ放すぞ! 君のレーダーと俺のスタストで無双だ!」
「はい!」
ナナと二人で第3階層に向かった。
◇
第3階層〈雫石の洞庭〉。
転移地点は洞窟内だった。
いわゆる鍾乳洞のような石灰洞だ。
道幅が狭く、二人で並ぶと武器を振り回せない。
しかし、問題はそれよりも――。
「肌寒いし、湿度がやばいな!」
「地面が濡れて滑りますね……」
岩の地面は濡れていた。
洞窟の奥から水のしたたる音がこだまする。
「敵はいるかい?」
ナナがユニークスキル【スター・レーダー】を発動する。
「います! 近づいてきています!」
「どこだ?」
トンファーを構えるが敵の姿が見えない。
「下! 地中です!」
「え?」
次の瞬間、足下の地面を突き破り、モグラ型の魔物が襲ってきた。




