034 霧島隊の第2階層
半個室の区画に霧島が入ってきた。
その後ろにはユズ、サキ、梶原、早川の四人の姿もあった。
全員の顔に疲労の色が浮かび、早川や梶原の服には血痕が残っている。
霧島の服も、鋼鉄で守られていない部分が派手に破れていた。
しかし、誰一人として怪我はしていない。
そして、霧島は達成感に満ちた顔をしていた。
「もう戻っていたか」
霧島の第一声がそれだった。
俺を見ての発言だ。
「おう! 結構前に戻ってたぞ! 遅かったな、霧島!」
霧島が面白くなさそうに舌打ちしつつ、俺の向かいに座った。
その両サイドに早川と梶原が腰を下ろす。
サキは梶原から一つ席を空けて座った。
おそらく梶原の隣をユズのために空けたのだろう。
だが、ユズは俺の隣に座った。
ナナとは反対側だ。
「ユズ隊員、霧島隊でも頑張ったよ! 吉岡くん!」
「そのようだな! さすがはユズ隊員だ! しかし、今の隊長は霧島だろ?」とニヤリ。
「掛け持ちなの! だから吉岡くん、褒めて!」
ユズが頭を向けてくる。
俺は「やれやれ」と苦笑しながらユズの頭を撫でた。
梶原は一瞬だけ顔をしかめたが、それ以上の反応は示さない。
霧島と同じく、疲労の色に加えて達成感も浮かべていた。
「梶原と早川の服に血がついているが、怪我をしたのか?」
相良が尋ねる。
「した。だが、問題ねえ。治療所で回復済みだ。明日に響く怪我じゃない」
「それはお前の判断か? それとも治療所の判断か?」
「治療所の判断だ。俺が決めたんじゃねぇ」
相良は「そうか」とだけ言った。
「霧島! 君の顔を見ればわかるぞ! 第2全8、おめでとう!」
俺が拍手すると、霧島は「ふん」と鼻を鳴らした。
「余裕ぶりやがって。お前も第2全8だろ。見ればわかる」
「大正解だ! ちなみに、こっちは無傷だ! 治療所も利用なし! クリア速度もこっちが上だぜ!」
「だから何だよ。結果は同じ第2全8だ。なら、今日の勝負は引き分けだ」
霧島が思ったとおりの反応をする。
ナナがテーブルの下で拳を握り、嬉しさを隠しきれないように笑う。
「霧島、どういう風に戦ったか報告してもらっていいか? 今後の参考にしたい」
相良が言うと、霧島は少し考えてから「わかった」と頷いた。
「まず敵の配置だ。俺たちはモスとモンキーがセットだった。次にゴブリン。そのあとキツネとビートルのセット。そのあとマンティスが突っ込んできて、アラクネが奥で巣を張る形で待ち構えていて、最後にボスだ」
「私たちと同じっぽいですね」とナナが俺に言う。
小さな声だったが、霧島の耳には届いていた。
「お前たちも同じ配置だったのか」
「戦闘の順番が一緒だっただけで、どこまで同じかはわからないけどな!」
「それなのに二人で、俺たちよりも早く攻略できたのか」
「それも無傷で……やっぱり吉岡先輩はすごいっす!」と早川が目を輝かせる。
「霧島、報告の続きを頼む」
相良が話を戻した。
「モンキーは厄介だった。木の上にいたからな。梶原のスキルで倒した。モスはその間に俺たちで倒した」
今のところ、俺たちと似ている。
「だが、次のゴブリン戦は下手を打った。ゴブリンに気づかず、前を歩いていた俺と梶原が、背後から奇襲を受けた。梶原を襲った個体はユズとサキが処理した。だが、俺を襲った個体は処理しきれなかった」
「霧島の服が破れているのはそのせいか」と相良。
「いや、違う。ゴブリン戦では、早川が俺をかばって一発くらった」
「へぇ、早川、頑張ってるじゃん。吉岡くんの影響で英雄願望に目覚めた?」
と反応したのはアヤだ。
「違いますよ、アヤ先輩! 咄嗟に体が動いただけです!」
「怪我をしていなかったらかっこよかったのにねー」
「それは否定できません!」
早川が楽しげに笑う。
アヤのセリフは強めの煽りだが、早川はそれを喜んでいた。
二人の関係性は少し独特だ。
上下関係は明確にあるが、友達以上の関係にも見える。
しかし、恋仲ではなく、肉体関係もないようだ。
また、早川は間違いなくアヤに好意を抱いている。
他の男子ほど露骨ではないが、俺の見る目に間違いはない。
そもそも、早川本人がそう言っているのを聞いたことがある。
一方、アヤが早川をどう思っているのかは不明だ。
早川が他の女子と親しげにすると、不機嫌になっている。
そこだけを見れば相思相愛に見えるが……。
「早川の怪我は俺のせいだ。そこで早川には治療所に戻らせて、残った四人で移動を再開した」
「早川くんを待たずに進んだの?」と首をかしげたのはカホだ。
「通常種を倒しきっておこうって話になったんだよ。言っちゃ悪いが、早川は火力としては微妙だ。ユニークスキルの支援のほうがデカい。だから、戦力的には早川が戻っても大きくは変わらないと判断した」
「言い方はどうかと思うが、残念ながら事実だ! 保証しよう!」
「吉岡先輩、ひどいっす!」
早川が大げさに反応し、カホ以外の女子、三船、梶原が笑う。
「でも、吉岡くんなら絶対にそういう指示は出さないよ。私は危険な判断だったと思う」
カホが不満そうに霧島を見る。
霧島は苛立たしげにカホを睨んだ。
「知るか。俺は吉岡じゃねぇ。梶原もユズもサキも納得していた。早川も承諾した。だから問題ねぇ」
「霧島さんの作戦は強引な部分もあったけど、ちゃんと俺たちの意見も聞いてた。問題ないと俺は思う」
梶原が霧島を擁護する。
サキとユズも頷いた。
「霧島隊の隊員が納得しているなら、それで十分だ。進めよう」
相良が霧島に次を促す。
「その後、予定どおりキツネとビートルを処理した。キツネは動きが速くて少し手を焼いたが、サキが上手いこと対処した」
「ここでもサキちゃん大活躍!」
サキが「いえーい!」と自画自賛する。
「サキも頑張ってたけど、ユズ隊員だって頑張ったからね!」
ユズが誇らしげな顔で俺を見る。
「わかっているよ。君はいつでも優秀だ。ところで、霧島は動きの速い敵が苦手なのか? 若葉ウルフにも負けていたし」
「うん! 霧島先輩は速い敵に弱い! めっちゃ弱い! 重装備のせいで追いつけないの!」
「ユズ、黙ってろ!」
霧島が顔を赤くする。
恥ずかしさと怒りの両方が含まれていた。
「でも、霧島さんの弱点って動きの速い敵と空を飛ぶ敵くらいだよ。早川が戻ったあとのマンティス戦は、普通に活躍してた。俺たちも支援してみんなで倒したけど、一番頑張ってたのは霧島さんだった」
梶原が真面目な顔で俺を見る。
「霧島、めっちゃ評価されてる! すごいじゃないか!」
「ふん」
「……で、今のところ怪我は早川が一発もらっただけだよな? どこで怪我したんだ?」
「怪我をしたのはアラクネ戦とボス戦だ。アラクネは蜘蛛の巣をユズの爆弾で焼き切ろうとしたが、爆弾が蜘蛛の巣に絡まって爆発しなかった」
「ユズの爆弾、爆発させるにはちょっと衝撃が必要みたい。蜘蛛の巣にダイレクトで投げつけたらダメだった」
サキが補足する。
「貴重な情報ですね」と、佐伯がメガネを上げる。
「だから梶原のスキルで蜘蛛の巣を処理しようとしたが、これも思ったようにいかなかった。そうこうしている間に敵が逃げ道にも巣を張り始めて、敵の土俵で戦うことになった」
「ここでもサキちゃん大活躍!」
「ユズ隊員もね!」
「……二人が活躍したのは違いねぇ。アラクネは実質的にサキとユズが倒したようなもんだ」
霧島が素直に認めるあたり、本当に男性陣は何もできていなかったのだろう。
やはり霧島隊にユズを送り込んで正解だった。
サキだけだったら、今頃は全滅していたかもしれない。
「アラクネ戦で、梶原と早川が細かいダメージを受けた。大したことないレベルだ。俺も少しやられたが、かすり傷だった。カホが見りゃ大げさにわめいたかもしれないが、俺たちは問題ないと判断した」
「すると、主なダメージはボス戦で負ったのか」
相良の言葉に、霧島は「そうだ」と頷いた。
「ボス戦は……かなりきつかった」
ここまで愉快げだったサキとユズが神妙な面持ちになった。




