029 無双
「ウキーキッキィ!」
ナナの読みどおり、正面の頭上にいたのは枝走モンキーだった。
小石でジャグリングして余裕そうだ。
きっちり5体いて、いくつかの木に分かれている。
「あれが白樹モスだな」
左右から蛾を模した魔物が迫ってきている。
通常の蛾よりは明らかに大きい。
3歳児のTシャツくらいのサイズ感だ。
「ナナ、作戦どおりにいくぞ!」
「はい!」
俺はトンファーを構えると、右手を適当なモスに向けた。
「いっけぇ! 俺の〈スター・ストライク〉!」
さっそく覚えたての魔法を発動する。
すると、想像していたよりも大きな星が放たれた。
レジェンド級になったことで威力が強化されたからなのかもしれない。
とにかく、星はすさまじいスピードで飛び――。
---------------------------
討伐:白樹モス×3
PT:2人 人数補正:90%
獲得:54G / 54EXP
---------------------------
モスを3体まとめて倒した。
「一瞬で3体……! す、すごいです! 吉岡先輩!」
「俺も自分にびっくりだ! なんだこれ、最強か!? どりゃ!」
俺はさらに反対側のモスにも〈スター・ストライク〉を発動した。
---------------------------
討伐:白樹モス×3
PT:2人 人数補正:90%
獲得:54G / 54EXP
---------------------------
「強すぎるだろ! 俺のスタスト!」
「スタストって、〈スター・ストライク〉の略称ですよね!?」
「そうだ!」
「強すぎます! スタスト!」
「こんなやべー技がFランクで、しかもクールタイムなしってマジかよ! それそれそれ!」
俺はスタストを連発する。
モンキー本体ではなく、モンキーのいる木々を狙ってみた。
魔物以外に対する威力を知るためだ。
バキィ! メキィ! ボキッ!
ちょうど3発目で幹が折れた。
「魔物以外には思ったより威力がないんだな!」
「私も思いました。一発で大量の木を折っちゃうのかなって」とナナが笑う。
「それはそうと――」
俺は木から落ちたモンキーをトンファーで仕留めていく。
「地上ならトンファーの射程圏だぜ!」
---------------------------
討伐:枝走モンキー×4
PT:2人 人数補正:90%
獲得:108G / 72EXP
---------------------------
5体中の4体を俺が倒す。
「私だって!」
「ウキィ……」
---------------------------
討伐:枝走モンキー×1
PT:2人 人数補正:90%
獲得:27G / 18EXP
---------------------------
残った1体はナナがクロスボウで始末した。
動いている的だったが、偏差射撃で命中させていた。
「普通に上手いじゃん! それで習熟度ビギナーなの?」
「い、いえ、実はノーマルです……」
「おいおい、隠してやがったのかよぉ! 初っ端からノーマルとかすげーじゃん!」
俺はナナに近づき、肩を抱き寄せた。
ナナが恥ずかしそうに「えへへ」と笑ったところでログが表示される。
---------------------------
【戦闘結果ログ】
討伐:白樹モス×6 / 枝走モンキー×5
PT:2人 人数補正:90%
獲得:243G / 198EXP
所持金:331G → 574G
レベル:Lv.3 → Lv.4
経験値:426 → 54/600EXP
依頼進捗:白樹モス討伐 6/6・達成
依頼進捗:枝走モンキー討伐 5/5・達成
---------------------------
「お、レベルが上がったぞ!」
「私もレベル2になりました!」
「めっちゃいい感じだ! NEW吉岡隊、強すぎるぜ!」
ナナと手分けして魔石を回収する。
「あ、吉岡先輩、レーダーに敵の反応があります! 前方から少しずつ近づいてきています! 地上をゆっくり進んでいます! 数は4体です!」
「ゴブリンかキツネっぽいな」
俺は魔石を背負い袋に入れて武器を構える。
木々が邪魔で、俺には敵の姿が見えない。
しかし、目をこらすとそれらしい動きは確認できた。
「どちらも依頼数は4体なので、数だけじゃ判別できないですね……」
「どっちでも問題ないさ。通常種相手なら、俺のスタストで無双できると分かった。力押しでいくぞ! ナナ、後方から援護しろ! 俺はスタストを連発しながら覇道を歩む!」
そう言うと、俺は前方に〈スター・ストライク〉を連射しながら悠然と歩き出した。
「「ゴブ!?」」
「どうやら次の“贄”はゴブリンだったようだ」
樹皮ゴブリンが慌てて木に張り付く。
何をしているのかと思いきや、必死に擬態していた。
奴らの背中は周囲の木々とそっくりだったのだ。
「戦闘が始まってから擬態しても意味ねぇだろ」
俺は笑いながらゴブリンを〈スター・ストライク〉で始末した。
---------------------------
【戦闘結果ログ】
討伐:樹皮ゴブリン×4
PT:2人 人数補正:90%
獲得:108G / 108EXP
所持金:574G → 682G
レベル:Lv.4
経験値:54 → 162/600EXP
依頼進捗:樹皮ゴブリン討伐 4/4・達成
---------------------------
「圧倒的すぎて、私の出番がありません……!」
「これが覇道だ! わーはっはっは! はっはっはのはー!!!!」
静かな林道に俺の高笑いがこだました。
◇
残る通常種2種は、仲良く揃って待っていた。
厳密には散開して待ち伏せていたのだが、同じようなものだ。
ナナのレーダーで捉えたあと、俺が単独で突っ込む。
そして群がってきたところを〈スター・ストライク〉とトンファーで迎撃する。
---------------------------
【戦闘結果ログ】
討伐:風鳴キツネ×4 / 苔甲ビートル×3
PT:2人 人数補正:90%
獲得:315G / 243EXP
所持金:682G → 997G
レベル:Lv.4
経験値:162 → 405/600EXP
依頼進捗:風鳴キツネ討伐 4/4・達成
依頼進捗:苔甲ビートル討伐 3/3・達成
---------------------------
圧勝だった。
「おいおい、過去1楽な戦いだぞ! もう通常種をクリアしてしまった!」
「吉岡先輩、またしても私の出番が……」
「仕方ない! 相手が弱すぎる! とはいえ、少し疲れたな! 休憩しよう!」
「わかりました!」
転移から1時間ほどたったところで休憩に入った。
適当な木にもたれて、二人で水分を補給する。
「いやあ、悪いね、ナナ」
俺は水筒を背負い袋に戻しながら言った。
「何がですか?」
「君が吉岡隊を志願したのは、俺のクールな作戦を見たかったからだろ? でも、蓋を開けてみれば魔法連射による圧倒的な無双だ。これでは面白くないだろう」
「いえ! そんなことありません!」
ナナは即座に否定した。
「本当に?」
「はい! たしかにここに来てからは無双状態ですけど、吉岡先輩の作戦は昨日から始まっていたじゃないですか」
「昨日から?」
「魔法ですよ。吉岡先輩は所持金がカツカツになるのを覚悟の上で教本を買ったじゃないですか。あれだって、普通はリスクが高くて簡単にはできませんよ」
「そうかなぁ」
「少なくとも私はできません。それに、吉岡先輩が無双できている理由は……」
そこでナナの頬が赤く染まり始める。
「その……私のユニークスキルのおかげでもありますし……だから、二人の力、みたいな……」
「おーおー、言ってくれるじゃないか! この後輩ちゃんは!」
俺はナナの隣に座り直した。
互いの肩が当たる距離だ。
「よ、吉岡先輩、近いです……」
「でも嫌じゃないだろ?」
「そうですけど……恥ずかしいです……」
「君の恥ずかしがっている姿は実に可愛い!」
「そんな、ストレートに可愛いって言われると……頭が真っ白になっちゃいます……」
ナナが顔を真っ赤にして俯く。
「ははは。本当にいい反応だ! それはさておき、実際、君の意見は正しい! 俺が無双できているのは、君の【スター・レーダー】が完璧に機能しているからだ。そうでなければ、少なくとも木の幹に擬態したゴブリンに奇襲を受けていただろう!」
「で、ですよね。私、役に立っていますよね……?」
「おうよ! むしろ役に立ちすぎた結果がこれだ!」
俺はナナの肩を抱き寄せ、耳元で「ありがとね」と囁く。
この一言でナナが完全に落ち、そのまま俺たちはキス――する予定だった。
「吉岡先輩! 敵がすごい速度で迫ってきています!」
これ以上ない最悪のタイミングでナナが言った。
ムードがぶち壊され、全てが台無しになってしまう。
「くそったれ! 空気を読まないカスはどこだ!」
「あっちです!」
ナナが指した方角に目を向ける。
すると、そこには――。
「デカッ! あれ、カマキリか!?」
2メートル級の巨大カマキリが、地面を滑るような低空飛行で突っ込んできていた。
危険個体――白樹マンティスだ。




