028 第2階層
転移3日目――。
俺とユズは前日の反省を生かし、早めにギルドへ向かった。
結果、9時30分に到着。
食堂に行くと、霧島隊の面々とナナが待っていた。
「おせぇ!」
霧島が開口一番に吠える。
なお、そう言われた相手は俺でなくユズだ。
「遅くないし! 昨日より1時間くらい早いし!」
ユズが堂々と胸を張って言い返す。
昨夜も楽しく過ごしたので、朝から上機嫌だ。
梶原はそれだけで不機嫌そうになった。
「吉岡先輩、おはようございます!」
ナナが深々と頭を下げる。
「おう! ナナ、待たせて悪かったね。霧島みたいに吠えなくて助かるよ」
「いえ……!」
ナナが頬を赤らめる。
「なんか昨日より距離が近くなってない?」
ユズが頬を膨らませてナナと俺を交互に見る。
「くだらねぇ。早くメシ食って狩りに行くぞ。ユズ、お前は俺の隊に所属してるんだ。こっちに来い。敵とつるむな」
霧島が離れていく。
早川が俺に頭を下げてからその後を追う。
「わかってるってば! 今日は負けないからね! 吉岡くん!」
ユズは俺の腕に抱きつくと、背伸びして頬にキスしてきた。
おそらくナナに見せつける意図だったのだろう。
しかし、それによってダメージを受けたのは梶原だ。
「はいはい、ユズ、いくよー。梶原も結果で見返すんでしょ?」
サキが「ほら」と言って、ユズと梶原の背中を押して離れていく。
「またなー! サキ、君もイイ女の一人だ! 近いうちに楽しもう!」
「あはは。吉岡くん、軽すぎでしょ。でも、別にいいよー」
「サキ!?」とユズが驚く。
「だって私もライバルなんでしょ? なら、負けてられないじゃん?」
サキがニヤニヤしながらユズを見る。
「むぅ……!」
ユズは頬を膨らませてサキを睨みつつ、何も言えずに去って行った。
「さて、ナナ、メシの時間だ! シンプルセットで軽く腹ごしらえをしたら第2階層に行くぞ!」
「はい!」
相良隊と佐伯隊は、おそらく出発したのだろう。
二人の性格的に今日も第1階層に行っていそうだ。
そんなことを考えながら、俺はナナとシンプルセットを堪能した。
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【支払ログ】
食事:シンプルセット
支出:350G
所持金:681G → 331G
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◇
食事を終えた俺たちは、ギルドの受付にやってきた。
受付には霧島隊の面々もいる。
「吉岡くん、さっそく後れを取りそうだね」
そう笑ったのはサキだ。
「ああ、そうだな……!」
霧島たちは空いている窓口に並んでいた。
当然だ。
一方、俺が並んでいる窓口は混んでいる。
しかし、俺は他の窓口に移れなかった。
受付嬢がエリナだからだ。
「なあ、あんた、他の窓口が空いてるぜ?」
俺は前の冒険者に声をかけてみた。
二人組の男で、どちらも俺より一回り年上だ。
思えば、これが他所の冒険者との初会話だった。
「たしかに空いているな。そっちに行ったらどうだ?」
「俺はエリナを口説くという崇高な使命がある!」
そのセリフに、男たちが声を上げて笑う。
ナナは恥ずかしそうに俯いた。
「それは崇高な使命だ。だが、その使命があるならわかるだろ?」
「というと?」
「俺たちにも同じ使命がある」
「なっ……! まさか、この列の冒険者は全員!?」
「そういうこった」
「なんてこった」
俺は仰天した。
エリナは俺が思っていた以上に人気があった。
他の受付嬢も総じてレベルが高い。
顔採用としか思えないほどの粒ぞろいだ。
それでも、エリナの人気は突き抜けていた。
「その調子だと、あと1時間はそこで足止めを食らいそうだな。あばよ、吉岡」
手続きを終えた霧島が、勝ち誇ったように口元を歪め、去って行く。
早川はまたしても一礼し、サキはウインクして軽く手を振る。
ユズは俺に向かって「べー!」と舌を出していた。
「よもや受付で足止めを食らうとはな……!」
「吉岡先輩、他の受付なら空いています。あそこと、あそこ。それにあそこも……」
「でも、そこにエリナはいない」
「勝負よりエリナさんを重視するんですね……」
「俺は負けず嫌いなんだ……! ここで他の受付に行くと、目の前の野郎どもに負けてしまう……! 1時間ロスしても霧島隊に負ける確率は大して変わらないが、他の受付に行った際の損失や敗北確率は計算できない……! ならば譲れないだろ、ここは……!」
最終的に、俺たちは1時間どころか1時間半も待たされた。
◇
いつもの調子でエリナを口説いた結果、いつもの調子で流された。
確かな手応えは感じるのだが、そう簡単に手が届く相手でもない。
(異世界のイイ女か……燃える!)
そんなこんなで、12時頃、俺たちは第2階層にやってきた。
第2階層〈白樹の林道〉。
その名が示すとおり、白い樹皮の木々が立ち並んでいた。
ただし、足下は土がむき出しになっており、傾斜もなくて歩きやすい。
「道幅は3メートルくらいか」
「前も後ろも林ですね」
「そういえば、ポータルの後ろに行くとどうなるんだろうな?」
ふと気になったので、ポータルをスルーして後方に進もうとした。
すると、すぐに見えない壁によって阻まれた。
「どうやら後ろにはいけないようだ」
見えない壁を叩きながら言う。
「冊子には載っていない情報ですね」
ナナが熱心に冊子を読んでいる。
「おい、戦場で本を読む奴がおるか!」
俺は笑いながらナナから冊子を奪い、彼女の背負い袋に戻した。
「す、すみません!」
「かまわん! それよりユニークスキルを発動して、敵の場所を教えてくれ」
「わかりました――【スター・レーダー】発動!」
ナナがユニークスキルを発動する。
すると、彼女の頭上に天使の輪っかのようなものが現れた。
少し透けた白色の小さな輪っかで、なんとも可愛らしい。
「います! あっちの方角に3体! あっちにも3体! あっちには5体です!」
ナナが素早く指す。
「前方に5体、左右に3体ずつか」と、ナナの発言をまとめる。
それから、「敵の種類はわかるの?」と続けた。
「いえ、わかりません。ですが、前方の5体は樹上にいます。なので、枝走モンキーの可能性が高いです。一方、左右の3体は飛んでいます。白樹モスだと思います」
「なるほど」
ここで視界の右上に表示されている討伐依頼を確認する。
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・[通常] Lv.3 白樹モス:6体(200G)
・[通常] Lv.4 枝走モンキー:5体(230G)
・[通常] Lv.5 樹皮ゴブリン:4体(250G)
・[通常] Lv.6 風鳴キツネ:4体(270G)
・[通常] Lv.7 苔甲ビートル:3体(290G)
・[危険] Lv.7 白樹マンティス:1体(340G)
・[危険] Lv.8 白樹アラクネ:1体(450G)
・[ボス] Lv.9 白樹トレント:1体(790G)
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「数的にも合致するな」
「どうしますか? 吉岡先輩」
ナナが目を輝かせて俺を見ている。
今は冊子の代わりにクロスボウを大事そうに抱えていた。
「モスとモンキーは連携しそうな距離か? 例えば俺がモンキーに突っ込んだら左右からモスが援軍で来そう?」
「来ると思います。左右の敵はどちらも、中央の敵から数メートルしか離れていません」
「敵のサイズはわからないんだっけ?」
「はい。すみません……」
「謝る必要はない。十分すぎるレベルだ。なら、作戦はこうだ! 俺がモンキーに突っ込みつつ、魔法でモスを倒す。君は安全な場所から俺に気を取られているモンキーを倒すんだ。いいかな?」
「わかりました。私がモンキーを倒すんですね」
「そうだ。モスのサイズはまだわからないからな。小さすぎると当てにくい。その点、サルなら小さくてもそれなりの的になるだろう。俺に夢中なら樹上から動かないだろうしな! 動いてもそれはそれでかまわん! ただし、間違っても俺に当てるなよ!」
「は、はい! 当たりそうな距離にいるときは撃たないようにします!」
「いや、そこは撃とう! 遠慮するな! 下手を打ったら治療所で回復して出直せばいいんだよ。これだけ近くにいるんだ。心臓と頭と首にさえ当てなけりゃ平気だ!」
「そんな……で、でも、やっぱり、それは危険じゃ……」
「ええい、これ以上の議論は不要だ! ついてこい! ナナ隊員! 行くぞ!」
俺は会話を打ち切り、「我こそは吉岡なり!」と叫びながら突っ込んだ。




