026 教本店
「俺と一緒のベッドで寝たいのかい?」
「うん。ダメ?」
ユズが上目遣いで俺を見る。
可愛い。
あまりにも可愛い。
それに胸が大きい。
黒ニーハイの食い込む太ももが素晴らしい。
「はあ? 吉岡とユズ、そういう関係になってんの?」
昨日、入院していた霧島だけが状況を理解できていなかった。
梶原は何も言わず、ただ露骨に不機嫌そうな顔で俺を睨んでいる。
「もちろんダメじゃないよ! えーっと、今の時間は……」
俺は食堂内を見回して掛け時計を探す。
見つけた時計によると、今は19時25分だった。
「じゃあ、21時00分に昨日と同じ宿屋に集合でどう?」
「わかった! 約束だからね? ちゃんと21時にきてね? ナナのことばかり見てたら怒るから!」
ユズが頬を膨らませてナナを見る。
「ち、違いますよ、ユズ先輩! 私は別に、吉岡先輩とそういう関係になりたいわけじゃなくて……」
ナナは顔を真っ赤にしながら両手を振る。
「そうですよ、ユズ先輩! 勝手に白瀬さんをそういう扱いにしないでください!」
三船が慌てて続く。
「ふーん。じゃあ、信じてあげる! でも、ナナもライバルだから!」
「ライバルですか!? 私が……!」
「ナナもってことは他にもいるのー?」と、サキがニヤニヤしながら言う。
「いる! サキ! リカ! カホ! エリナ!」
「私もライバルなんだ」とサキが笑う。
「私はライバルになったつもりないけど……」
カホが苦笑する一方、リカは愉快げに笑った。
「何のライバルかわからないけど、戦うなら勝たせてもらうわよ」
リカが俺に向かって脚を組み直し、ウインクしてくる。
スカートから垣間見える黒パンストの太ももに思わず「おほほ」とニヤリ。
「絶対にわかってるやつじゃん! 負けないし!」
ユズも真似して脚を組み直す。
しかし、そこにリカのようなエロスはなく、代わりに可愛さがあった。
「気持ちはよくわかった! ユズ、21時00分だ! ちゃんとその時間に宿屋に行く! 入口前な! 約束しよう!」
「うん!」
「では、ナナ、行こうぜ!」
「はい!」
ナナは冊子を大切そうに抱える。
俺も立ち上がり、ナナと一緒にギルドの外へ向かう。
「それで吉岡先輩、作戦会議って具体的には何をするのですか?」
「ああ、それは嘘だ」
「嘘?」
「本当はこれから仕込みに行く」
「何の仕込みですか?」
「決まっているだろ――」
俺はニヤリと笑った。
「――教本さ。技能を取得するぜ! 初手レジェンド級の見せ場だ!」
◇
教本で習得できる技能は、大きく「魔法」と「戦技」に分かれている。
ただ、どちらの技能に関する教本も価格は同じだ。
・Fランク:3,000G
・Eランク:5,000G
・Dランク:10,000G
・Cランク:25,000G
・Bランク:50,000G
・Aランク:100,000G
・Sランク:250,000G
そして、俺の所持金は5,081ゴールドである。
念のためにステータスも確認しておこう。
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【名前】吉岡
【レベル】3 EXP:426/570
【所持金】5,081ゴールド
【ユニークスキル】オール・レジェンド(P)
【技能①】未登録
【技能②】未登録
【技能③】未登録
【武器】[G]初期配布のトンファー(レジェンド)
【防具】[G]初期配布の軽装備
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「つまり、Fランクの教本を買い、さらにユズと個室宿に泊まっても約600ゴールド余るわけだ。これなら明日の朝食も食える! シンプルセットになるけどな!」
ギルドの近くにあった教本店の扉を開けながら、俺はナナに言った。
中は、商店街の本屋を彷彿とさせた。
狭い店内の壁一面に本が並んでいる。
分厚さはマンガの単行本と同程度で、規格はA4相当だ。
俺たち以外に客はいない。
「シンプルセットは350G……たしかに大丈夫です! でも、だいぶ生活費がカツカツになってしまうのでは……?」
「だから明日は二人でたくさん稼ぐ必要がある。ラブラブデート兼がっつり狩りモードだ!」
「デート……」
ナナの顔が赤く染まる。
その姿を目の端で捉えながら、俺は「なるほど」と笑った。
「何が『なるほど』なんですか?」
「ナナ、君は年上に憧れるタイプだな!」
「なっ……!」
「高校は共学で、一年から生徒会に所属していたんだっけ?」
「は、はい! よく覚えてますね。新歓で一度話しただけなのに……」
「そりゃイイ女のことは覚えているよ。それより、当時の生徒会長とかにも憧れたんじゃないか?」
「それは……まぁ、はい……」
ナナは今にも爆発しそうなほど顔を真っ赤にして頷いた。
「わかりやすいなー! 良きかな良きかな!」
俺はナナの頭をポンポンと叩くと、適当な教本を手に取り、店主に言った。
「お姉さん、ここの教本って勝手に読んで大丈夫なの?」
俺に「お姉さん」と呼ばれた店主は、齢80近い老婆だ。
俺の冗談はすぐに見抜かれたが、老婆は「ふぉっふぉっふぉ」と笑った。
「大丈夫じゃよ。教本は購入しなければ効果を発揮しない。買ってから読めば、本が消えてその技能が【仮習得】の状態になる。そんなことも知らずに質問をするくらいだから、お前さん、この世界に来て間もないね?」
「おう! まだ二日目だ!」
「二日目でもう教本店かい。ずいぶんと効率がいいことだねぇ」
老婆は世間話を好まない性格らしく、それ以上は話さなかった。
ただ、俺は追加で聞きたいことがあった。
「お姉さん、仮習得の状態ってどういうこと?」
「使い方はわかるが発動できない状態のことをそう言うんだ。買った教本を使えば、どんな冒険者でもその技能の使い方を直感的に把握できる。しかし、実際に発動できるようになるには、膨大な時間の練習が必要になる」
「つまり、発動できるようになった状態を『習得』と表現し、その前の状態を『仮習得』っていうわけか」
「そういうこった。転移二日目なら買えるとしてもFかEランクの教本じゃろ。それなら習得までに10時間前後は訓練所にこもる覚悟が必要じゃぞ」
俺にはユニークスキル【オール・レジェンド】の効果がある。
つまり、仮習得をすっ飛ばして初っ端から習得状態になれるわけだ。
しかもレジェンド級として使用可能だ。
「参考になったよ、サンキュー」
俺は話を打ち切り、手に取った教本をパラパラとめくってみた。
ナナも隣からのぞき込む。
「マンガ……いや、絵本のようですね」
「だな。もっと内容があるかと思ったが、完全に絵本だ」
教本の内容は、当該技能の使用例をイラストで紹介したものだった。
文字も書いてあるが、メインは可愛らしいイラストだ。
ただし、最初の1ページだけはイラストではなく、効果が細かく書いてあった。
名前、ランク、習熟度による変化など。
「吉岡先輩はどういう教本を探しているのですか? これなら探すのをお手伝いできます!」
「遠距離攻撃を可能にしたいな。トンファーの弱点は射程だ。離れているところから攻撃する手段がほしい」
「だったら魔法だね」と老婆が口を挟んだ。
「わかりました! 吉岡先輩、私、良さそうな魔法を探します!」
ナナが張り切った様子で俺を見る。
「じゃあ、ナナの選んでくれた魔法を買うよ」
「え?」
「せっかく吉岡隊に入隊希望を出してくれたんだ。記念すべき技能の決定権を君に与えよう!」
「いいんですか?」
ナナが目を丸くする。
その顔はすごく嬉しそうだ。
赤く染まった頬も可愛らしい。
「おう! これで明日の報告会では、『私の選んだ魔法で吉岡先輩が大活躍!』って言えるぞ!」
「それ、すごく言いたいです! 私、頑張ります!」
ナナは大事そうに抱えていた冊子を背負い袋に戻すと、教本を漁り始めた。
俺はニコニコ顔で、その後ろ姿を眺めていた。
――それから、約45分後。
さすがに退屈で死にそうになった頃、ナナが振り返った。
「吉岡先輩、決めました! この教本がオススメです!」




