023 遅かった理由
「佐伯隊のことはわからないが、こちらに関して言えば戦闘回数の違いだと思う」
最初に答えたのは相良だ。
「戦闘回数?」
「例えば今日、俺たちが第1階層に転移した時、数十メートル離れたところにネリュムとラビットがいた。それぞれ討伐依頼分の数だったから計11体だ。密集していたわけではなく、1メートル程度の間隔を空けてばらけている感じだ。そういう時、吉岡隊ではまとめて倒すだろ?」
「おう! ユズが爆弾を投げ、俺が突っ込み、あとは流れでドンだ!」
「……流れでドン」
ミオが俺のセリフを真似する。
フレーズが気に入ったのか、少し口角が上がっていた。
「だが、俺たち相良隊は少しずつ釣り出して倒した。ナナのクロスボウと梶原の風刃でおびき出す形だ」
「なるほどなぁ」
「たしかにその戦い方だと、戦闘回数はこっちの数倍ありそうっすね!」と早川。
「6人PTなのにビビりすぎだろ」
霧島が鼻を鳴らす。
「だが、怪我人を出さずに非ボス7だ。事前に想定していた中では最高の結果を出せた」
相良が無表情で返すと、霧島は舌打ちして黙った。
「霧島の意見もわかるわよ。梶原も相良に慎重すぎるって何度も言ってたわ」
リカが笑いながら振ると、梶原は「そりゃ言いますよ」と苦笑した。
「相良さんの戦い方でも、風刃を使い切るならまだわかるよ。でも、3本は念のために残すって言うし。一斉に発射して二発は見せ球にするっていう吉岡とは真逆すぎた。結局、6本使い切ったのはアルファウルフと戦った時だけだし」
梶原がなぜか俺に向かって弁明する。
「でも、今日の梶原は昨日より活躍したんだよね? やったじゃん!」
ユズがにぃと笑う。
その反応に、梶原は「まぁな」と鼻の下を指で擦る。
わかりやすく嬉しそうだ。
「すると……佐伯さんのところも同じ理由で時間がかかったの?」
「敵を小分けにして戦うという点では一致していますが、こちらはそう上手くはいきませんでした」
佐伯はメガネをくいっと上げ、続きを話した。
「こちらには、梶原くんの【ウィンド・ダガー】のような、敵の釣り出しに向いたユニークスキルがありません。弓やクロスボウを装備している人もいないため、黒瀬さんの案で石を投げることにしました」
「昨日、吉岡が石を投げてアユに当てる話をしていたのを参考にした」
黒瀬が腕を組みながら、それだけ言った。
「参考にしたなら感謝してくれてもいいよ!」
俺が笑顔で言うものの、黒瀬は何も答えなかった。
それを見て、佐伯が話を進めた。
「ただし、私たちの隊は相良隊ほど上手に釣り出すことはできず、集団戦がメインになりました。防御系のユニークスキルを使える人が多かったため、通常種との戦闘は危なげなく進みました」
「その言い方だと、残りの危険個体2種との戦いで苦労したのかな?」
「正確には1体です。私たちの隊はアルファウルフとは戦わず、大牙ボアと戦った後で撤退することにしました。負傷者は出なかったものの、大牙ボアとの戦いでは危険な場面が目立ち、倒すのにも相当な時間を要しました」
「なるほど! なら、非ボス7ならぬ非ボス6かー」
「はい。…………補足しますと、メビウスでは『全8』と『非ボス7』は一般的な表現ですが、『非ボス6』という言い方はされません」
「そうなんだ! 佐伯さん、妙な間があったけど、補足しようか悩んだ?」
俺がニヤリと笑うと、佐伯は苦笑しながら頷いた。
「でも、相良隊と佐伯隊って同じタイミングで戻ってきたよね? 今の話だけなら、佐伯隊はもっと早く戻ってきていない?」
サキが手を挙げた。
その疑問に、吉岡隊と相良隊の面々が頷く。
「遅くなった理由は二つあります。一つ目は場所です。私たちが大牙ボアを倒したのは林の中でした。そのため、アルファウルフがどこから仕掛けてくるかわからず、警戒しながら撤退しました。通常よりも明らかに遅い歩みになりました」
「もう一つは?」と相良。
「アルファウルフを倒してから撤退するか、今すぐ撤退するかで揉めました。最初に撤退を進言したのは戸塚くんで、ミオさんとスミレさんが支持しました」
「……ユウゴが言わなかったら、私が佐伯に進言してた」
ミオがぽつりと呟く。
ユウゴとは三年の男子・戸塚のことだ。
ミオだけは戸塚を下の名前で呼んでいる。
ただし、付き合っているわけではない。
「さっすが俺たちのユウゴだ! 異世界でも安全志向だな!」
俺の言葉に、戸塚は苦笑した。
「自分では安全志向のつもりはないけど、この中ではそうかもしれないな」
「謙遜するな、ユウゴ! 君は誰よりも安全志向! 謙虚堅実な男だ! 金融商品なら君は国債だぞ!」
「投資のことはわからないけど、吉岡流の褒め言葉として受け取っておくよ」
このように、戸塚は話しかけられると普通に答える。
しかし、自分から話しかけることは滅多にない。
性格表に必ず「控えめ」「大人しい」と書かれるタイプだ。
「ボアまで倒したならアルファウルフまでいけただろ。お前はいつも肝心なところで逃げ腰だな」
霧島が戸塚を煽る。
これは今に始まったことではなく、以前からそうだ。
霧島は誰にでも突っかかるが、俺と戸塚には特に激しい。
ただ、俺と戸塚に対する絡み方には少し違いがあった。
俺には張り合うような形で絡んでくることが多い。
しかし、戸塚に対してはもっと攻撃的だ。
そして――。
「逃げ腰でも、お前と違って他人に迷惑をかけていない」
戸塚もまた、霧島には強く言い返す傾向にあった。
完全に戸塚が正しいが、霧島はぶち切れた。
「かけてるだろ。佐伯の言い分だと支持したのはミオとスミレだけだ。宮坂と黒瀬は反対したんだろ。お前が逃げ腰なせいで和が乱れてんだよ」
「……それは違う。ユウゴが言わなくても私が進言してた。さっき、そう言った」
ミオが霧島を睨む。
「ぐっ……」
霧島は言葉に詰まり、あっけなく論破された。
「ぶっちゃけ和を乱しているのは霧島さんっすよ」
ここでまさかの梶原が乱入する。
「は? 俺が和を乱しているだと?」
「だってそうじゃないっすか。さっきから相良さんに絡んで、戸塚さんに絡んで。そのたびに話が止まってる。霧島さん、自分の隊を作りたいんでしょ? だったら黙ってたほうがいいって。誰も入らなくなるよ」
「…………チッ」
梶原の意見が効いたようで、今度こそ霧島は沈黙した。
「霧島くんの推測自体は合っています。宮坂くんと黒瀬さんはアルファウルフまで倒すべきだと反論しました」
「戸塚の判断はわかるが、倒さず退くより倒してから退くほうが安全だと判断した。俺のユニークスキル【シャドウ・チェイン】は単体との戦いに強いからな」
「黒瀬と一緒なのは気に食わないが、俺も同意見だ」
不機嫌そうに言ったのは宮坂だ。
黒瀬と仲良くスミレの隣をキープしている。
二人に囲まれているスミレは、困ったように笑っていた。
「でも、スミレは戸塚案を支持したんだよな?」
スミレが「はい」と頷く。
「それで宮坂が黒瀬の意見を支持するのはレアというか異例中の異例だな」
宮坂のスミレに対する執着ぶりは異常だ。
ストーカーに片足突っ込んでいるレベルである。
そして、黒瀬の意見には異常なほど反対する。
その理由が「黒瀬だから」だと堂々と言うレベルである。
このことから導き出される答えは――。
「さては宮坂、大牙ボア戦で下手を打ったな?」
俺がニヤリと笑う。
「……!」
宮坂の顔が露骨にこわばった。
正解だったようだ。
「それでスミレにいい格好を見せるために、アルファウルフを倒したかったわけか」
「……そうだ。大牙ボア戦ではユニークスキルをうまく使えず、迷惑をかけた。だから挽回したかった」
「そんな理由で俺に賛同されても迷惑なだけだ」と黒瀬。
「お前の迷惑なんか知るかよ。黙ってろ」
宮坂が即座に言い返す。
「いやあ、スミレはモテモテだなぁ! 両手に花、いや、オスですかな! がはは!」
「やめてください、吉岡さん。そういうのではありませんから」
スミレは口に手を当て、お淑やかに笑う。
二年生の女子・スミレ――。
彼女の見た目は、絵に描いたような清楚系だ。
第一印象を聞けば、大半が「名家のお嬢様」と言うだろう。
音大とか名門の女子大とか、そういうところにいるイメージだ。
宮坂や黒瀬も、スミレのそういうところに惚れているのだろう。
宮坂にいたっては、「我こそはスミレを守る騎士である」と言いたげだ。
大学でも、他の男がスミレに近づくだけで睨むほどだった。
しかし、俺の目に映るスミレは、世間のイメージとは少し違う。
いつか、その感覚が合っているかスミレに確認したいものだ。
「おい、吉岡、じろじろスミレを見るな」
さっそく宮坂が睨んできた。
彼もまたからかい甲斐のある男だが、今は後回しだ。
「時間がかかった理由も含めて、各隊の報告が終わったな!」
俺がまとめると、相良が「そうだな」と言った。
今日の戦果は以下の通りで確定した。
・相良隊(相良、リカ、梶原、アヤ、三船、ナナ):非ボス7
・佐伯隊(佐伯、黒瀬、ミオ、戸塚、宮坂、スミレ):通常種+大牙ボア
・吉岡隊(吉岡、カホ、ユズ、サキ、早川):全8
「ようやく俺の出番だな」
霧島が口を開くと、テーブルを指で小突きながら相良に言った。
「相良さん、俺は霧島隊を作らせてもらうぜ」




