022 二日目の報告会
「もう戻っているなも何も、1時間前には戻っていたぞ!」
「1時間前に……?」
相良が驚いたような顔をする。
「遅すぎて教本を見に行こうとしていたくらいだ!」
相良と佐伯は揃ってカホを見た。
「霧島もそうだが、俺が盛っていると思ったらカホを見るのはやめろ!」
俺が笑いながら言うと、相良が「すまない」と苦笑して頭を下げる。
「失礼しました」
佐伯も無表情で頭をペコリ。
「日頃の行いのせいだ」
黒瀬はそう言って隅の方に座る。
反対側の隅に相良が座ったことで、自然と隊ごとに分かれた。
霧島はどこに座るか悩んだあと、相良から少し離れたところに座る。
「相良くんと佐伯くんのところは、何かトラブルでもあったの?」
カホが心配そうに尋ねる。
すると、二人は揃って首を振った。
「俺たちのほうは特に問題は起きていない。梶原に昨日の戦いを教わりながら、危険個体まで倒した。非ボス7だ。誰も怪我をしていないから、治療所にも寄っていない」
「ボスには行かなかったのかよ」と食いついたのは霧島だ。
「行かなかった。危険個体を倒した時点で限界だった」
「怪我をしていないなら、限界かどうかわかんねぇだろ」
霧島が食い下がる。
俺はそれを見ながら、ユズに耳打ちする。
「霧島の奴、やたら突っかかるな」
「たぶん、吉岡隊が全8したからだよ」
「なるほど。我が隊の輝かしい功績が証明されることを避けたいわけか」
ユズは笑いながら頷いた。
その様子を、梶原が静かに眺めている。
明らかに不機嫌そうだ。
「怪我をしなかっただけで、危険個体との戦いが楽勝だったわけじゃないわよ。むしろ、思っていたよりも苦戦したわ。吉岡くん、本当にあんなのを一人で同時に相手取って倒したの?」
リカがこちらに話を振ってきた。
「おう! 吉岡トンファー術で圧倒的大勝利を収めたぞ!」
「すごいです、吉岡先輩」
そう言って目を輝かせているのは、一年の女子・ナナだ。
ユズやミオと同じく小柄で、残念ながらミオに並ぶ貧乳である。
ナナは今日、相良隊の一員として第1階層に赴いていた。
今は大事そうに冊子を抱きしめている。
「だろー! ナナ、今度はこのレジェンド吉岡と一緒に組むか! 実際に拝ませてやろう! 圧倒的なトンファー捌きを!」
「本当ですか!」
ナナが前のめりになる。
数回しか話したことがないのに、思ったよりも感触がいい。
(意外だな。真面目ちゃんだから俺のことは煙たがっていると思っていたが……)
そんなことを思いつつ、俺は「本当だとも!」と両腕を広げる。
「君にユズほどのおっぱいがないのは残念だが、とはいえ君もイイ女だ! つまり吉岡ハーレムランドの国民になる権利を有している!」
「吉岡くん、王様になっちゃったよ」とサキが笑う。
「じゃあ、私はユズ大統領!」
ユズがすかさず挙手した。
「ハ、ハーレムランドの一員になるかどうかはわかりませんが……戦い方には興味があります」
ナナが恥ずかしそうに頬を赤らめる。
実に素晴らしい反応だ。
「吉岡先輩、白瀬さんに絡むのはやめてください」
唐突にそう言ったのは、ナナの隣に座っている男子だ。
ナナと同じく一年の三船である。
梶原がユズに執着する以上に、ナナに執着している男だ。
「白瀬さんってナナのことか?」
俺が首をかしげると、サキが「そこから?」と笑った。
「はい。私のことです、吉岡先輩」
そう言うと、ナナは真剣な顔で三船に言った。
「三船くん、私は楽しく話しています。邪魔しないでください」
「……ごめんなさい」
三船が申し訳なさそうに頭を下げる。
(三船がナナに気があるのは知っていたが、やっぱりナナの性格が予想外だったなぁ)
大学で見ていた時は、もっと控えめな印象だった。
見た目もそういうタイプだ。
俺はナナに対する認識を改めた。
「話を戻そう。霧島、俺は今回の判断を間違ったものとは思っていない。アルファウルフを倒した時点で決を採ったが、ボスまで行きたいと言ったのは梶原だけだった」
「梶原はボス志望だったんだ?」
ユズが言うと、梶原は「まぁな」と頷いた。
「だって昨日は勝てただろ。たしかに吉岡の活躍が大きかったけど、攻めの起点を作ったのは俺の風刃だ。今日は昨日よりもスキルを使いこなせた。だからボスにも勝てると思った。今もそう思ってる」
梶原は珍しく強い口調で言った。
相良の判断を尊重してはいるが、納得はしていない様子だ。
「少し戦うくらいはしてもよかったんじゃねぇか」
驚いたことに、霧島はさらに食い下がった。
だが、これは余計だった。
「それはお前が隊長の時にしろ。相良隊の隊長は俺だ」
相良が少し苛立った様子で話を打ち切った。
「言ったな? 相良さん。なら、俺は霧島隊を作る。それなら文句ねーだろ」
霧島が何やら言い始めた。
それを見て、俺はユズに耳打ちした。
「どうやら霧島隊の結成が本命だったっぽいぞ」
「相良先輩なら普通に頼めば認めそうだけど……」
「同感だ」
霧島はプライドが高く不器用な男だ。
素直に「お願いします」と言えなかったのかもしれない。
なお、俺はそんな霧島が大好きだ。
「文句はない。だが、その話は今じゃない。今は各隊の報告だ。まだ吉岡隊と佐伯隊の報告が残っている」
「吉岡隊はボスを倒せたかどうかより、ボスとの戦闘をカホが認めたかどうかのほうが大きそうね」
リカが髪を掻き上げながら笑うと、カホは「そうだね」と苦笑した。
「そこは少し揉めた……いや、揉めたってほどじゃないかな。吉岡くんが私の意見を聞いてくれたから」
「カホのブレーキは機能したのね」
「じゃあ、吉岡くんのところも非ボス7か」と相良。
「いや、俺たちは全8に決まってるだろ! カホを説得してばっちり討伐してきたぜ!」
「今日も全8か。すごいな、吉岡くん」
相良が感心すると、霧島が面白くなさそうに舌打ちする。
「整理させてください。吉岡隊は今日、何時頃に出発したのですか? 私や相良さんの隊が出発する時……9時20分頃ですが、その時、吉岡くんとユズさんはギルドに到着していなかったはずです」
「何時頃だっけ?」と、俺はカホを見た。
「吉岡くんたちがギルドに着いたのは10時20分頃。そのあと朝ご飯を食べたり、受付で手続きをしたりして、第1階層に転移したのは11時頃だと思う」
「それで全8を達成し、私たちより1時間ほど早く戻ったわけですか」
佐伯が冷静な口調で驚いている。
「戻るだけなら、もっと早く戻れたよ。ボスを倒したあと、1時間くらいかけてアユの串焼きを食べていたから」
カホが説明したため、誰も俺が話を盛っているとは思わない。
実際、疑いようのない真実だ。
「すると、吉岡隊は私と相良さんの隊より1時間40分ほど遅く出発し、攻略後の食事を省けば2時間ほど早く戻れたわけですね」
「……同じ時間に出発していたら、3時間40分くらいの差になる」
ミオが呟く。
「逆に聞きたいんだけど、なんでそんなに時間がかかったんだ? 敵との戦闘時間ってそんなに変わらなくない? というか、長引けば長引くほど怪我のリスクが高くなるんじゃないか」
俺の疑問に、吉岡隊の4人が頷いた。
「それ、俺も気になりました! たしかに吉岡先輩は強いですけど、戦闘時間はそう極端には変わらないと思います」
「吉岡のことだから急ぎまくってたんじゃねぇの」
霧島が吐き捨てるように言うと、カホが「違うよ」と即座に否定した。
「むしろ思ったよりも慎重だった。だって自分から休憩するって言い出したもの」
「そういえば、昨日も俺が頭をやられた時、吉岡はやたら慎重になっていたな……」
梶原が思い出したように呟く。
「……チッ」
霧島は面白くなさそうに口を閉ざした。
「そんなわけで疑問なんだけど、相良隊と佐伯隊は何でそんなに時間がかかったんだ?」
俺は改めて尋ねた。




