019 お堅いイイ女
「作戦名はフットロープトラップだ!」
「要するに、釣ったイノシシをロープでひっかけてこかすの?」
「そこは要しないでくれカホ! ダサく聞こえる! だがその通りだ!」
「却下。ロープを持つ人が引っ張られて危険だから」
案の定、カホは躊躇なく異議を唱えた。
だが、その反応は織り込み済みだ。
「安心しろ、カホ。ロープを持つのは人ではない。君のゴーレムだ!」
「なるほど」
カホの表情が和らぐ。
「具体的に説明しよう! まずロープを用意する! 次に俺以外のヒューマン4人はその辺の木に隠れる! ゴーレムはあそことあそこの木のそばで、ロープの端をそれぞれ持って待機! 俺が早川の弓で敵を釣る! 俺が通過したら、ゴーレムがロープをピンッと張る! イノシシが転ぶ! あとはフルボッコタイムだ!」
「それなら異議なし」
「私も大丈夫! フルボッコタイム、面白そうじゃん!」
サキも乗り気だ。
「ユズ隊員は吉岡隊長に従う!」
ユズも笑顔で槍を握る。
「俺も賛成っすけど……ロープはどうするんすか? 俺たち、ロープ持ってないっすよ?」
「そこは吉岡くんが作るから平気」とカホ。
「マジっすか!? 吉岡先輩、ロープ作れるんすか!?」
「早川お前……昨日、何を見ていたんだ!? 俺は梶原ですら認めるサバイバル名人だぞ! そこに樹木がある限り、俺はハンモックだろうと作れる!」
ということで、俺はカホの手斧と早川の短剣を使い、サクッと自然由来のロープを作った。
「強度も十分! これならイノシシの勢いに負けてちぎれることもあるまい!」
「吉岡先輩、何でもありじゃないっすか! かっこよすぎっす!」
「だろ? モテる男は器用じゃないとな!」
俺は「ふふふ」と笑う。
「動機が不純じゃなければ素直に褒められるのに」
と言いつつ、カホの機嫌もよさそうだ。
「では、作戦開始だ! 諸君らは隠れたまえ! 早川、弓を貸せ!」
「了解っす!」
俺は早川から弓矢を借りると、一人で丘に近づく。
ショートボウの有効射程に入ると、「そりゃっ」と矢を放った。
レジェンド級の習熟度なので、当然、矢はボアに命中する。
目を狙おうか悩んだが、逃げられたら困るので額にしておいた。
「ブォオオオオオオオ!!!!!!!」
怒り狂ったボアが丘を下って突っ込んでくる。
想像以上のスピードだが、それでも何ら問題はなかった。
「ロープを張れ! 敵が来るぞ!」
俺は素早く林に逃げて指示を出す。
ゴーレム兄弟が静かにロープを張る。
大牙ボアはそれに気づかず突っ込んできて――。
「ブォ!?」
盛大に転んだ。
「今だ! フルボッコタイム!」
俺の合図で四人が飛び出して攻撃を集中させる。
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【戦闘結果ログ】
討伐:大牙ボア×1
PT:5人 人数補正:60%
獲得:48G / 48EXP
所持金:2,731G → 2,779G
レベル:Lv.3
経験値:168 → 216/570EXP
依頼進捗:大牙ボア討伐 1/1・達成
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結果は圧勝だった。
「見よ! これが吉岡式フットロープトラップだ! わーはっはっは!」
俺は大牙ボアの魔石を掲げ、静かな林に笑い声を響かせる。
「吉岡式フットロープトラップ、すごかった!」
ユズが目を輝かせる。
「吉岡くんの場合、ふざけているように見えて結果を出すから困るのよね……」
カホは苦笑していた。
◇
残るはボスだけだ。
昨日なら、このまま勢いに任せて丘の頂上を目指す。
しかし、今日はそうもいかなかった。
「私とサキはレベル1だから、レベル差補正が発生する。ボスと戦うなら、作戦が失敗したときの対処法や撤退計画を詰めるのが先」
そう、お堅いイイ女のカホだ。
ここで「だったらお前は参加しなくていい」と放置することはできない。
そういうことをしようものなら、後でとても面倒なことになる。
「でも、吉岡先輩のプランなら完璧っすよ! さっきだって完璧だったし!」
などと早川は言うのだが――。
「それとこれとは別」
もちろん、カホには通用しない。
だから彼女は【アンチテーゼ】の幹部なのだ。
「では、逃げるときはユズの果実爆弾で煙幕を焚こう! 白色だ!」
カホは少し考えたあと、背負い袋から冊子を取り出した。
そして第1階層の情報が記載されたページを見せて言う。
「ボスは草根を操れる。草根に足が絡まって動けない場合はどうするの?」
「え? マジで? あのボス、そんなことすんの?」
俺は目を大きく開いてカホが持っている冊子を確認する。
『草冠トロルは半径15メートル以内の草根を自在に操り、行動を妨害してくるので注意せよ』
たしかに書いてあった。
ただし、こうも書いてあった。
『トロルの操る草根は、トロル本体に火属性の攻撃をすることで解除できる』
それを見た俺は、「よし」と頷いた。
「じゃあ、ユズの【ボム・フルーツ】を温存しよう! 草根に絡まってピンチのときは、赤い果実をトロルにぶつけて燃やす! それで草根が解除されるから、あとは逃げればいい! 不安なら追加で白色も使って煙幕だ! とにかくユズのスキルは温存! それが撤退プラン!」
「わかった」
カホの言葉に、ホッとする。
しかし、彼女の言葉にはまだ続きがあった。
「撤退はそれでいいとして、撤退基準を決めよう。『この状態になったら、たとえあと一発で倒せるって状態でも撤退する』っていう絶対的な撤退基準のこと」
お堅いイイ女に相応しい、圧倒的な安全重視っぷりだ。
ただし、カホの性格上、この状況ですら普段よりも譲歩している。
普段なら「全員のレベルが3以上になってから」と言っているはずだ。
理由はトロルのレベルが7だから。
そのため、こちらのレベルが3以上ならレベル差補正が生じない。
だから、俺は撤退基準についてこう言った。
「カホに任せるよ」
「え? 私任せ?」
「そこでカホに丸投げ?」とサキが笑う。
ユズと早川も笑っている。
「丸投げっていうか、カホが撤退判断を下せばいい。これ以上はもう無理だと思ったら、カホが撤退を宣言してくれ。そしたらたとえあと一発で倒せる状況だろうと撤退だ。俺も従うよ」
俺が真面目に言ったので、サキたちも顔から笑みを消した。
「わかった。それならいいよ。でも、私が撤退って言ったら絶対に撤退だからね」
「約束しよう」
「じゃあ、戦う前に確認。ユズは【ボム・フルーツ】を基本的に温存。撤退判断は私がする。撤退時はユズの果実爆弾を使う。場合によっては赤と白の二つを使うことになるかもしれないから、草根の解除に使えるのは三個まで。それでいい?」
「俺は問題ないぜ!」
ユズ、サキ、早川も承諾する。
「さあ、今日も全8攻略で凱旋するぞ!」
「「「おー!」」」
俺たちはトロルの待つ丘に向かった。
◇
同じ階層でも敵の配置は異なる。
そういう仕様だが、トロルの配置だけは昨日と同じだった。
全く同じように俺たちを待ち構えている。
「敵の注意はこのレジェンド吉岡が引く! 他は安全重視で戦うこと! あと敵の側面に回り込むように!」
俺の指示に四人が頷く。
それを確認すると、俺は「いくぜぇえええええええ!!!!!」と突っ込んだ。
「早川、俺にスキルをかけろ! 一気に叩く!」
「了解っす!」
俺の背中に光の翼が生える。
体が軽くなり、思考速度以外のあらゆる速度が向上した。
「グォオオオ!」
トロルが俺に向かって吠える。
それに呼応して地面の雑草が震え始めた。
「草根をコントロールする気だ! 足下に注意しろよ!」
俺は草根が動くより先に距離を詰め切った。
「必殺! 吉岡100連撃!!! うおおおおおおおお!!!!!!!!」
ボクサーの如き軽やかなステップからトンファーの連続攻撃を繰り出す。




