016 カホのユニークスキル
「遅い」
次の瞬間、ユズが「やったー!」と両手を挙げて飛び跳ねた。
「クソォ!!!! 俺の負けだ!!!!」
「吉岡くんとユズ、もしかしてカホの反応で賭けてた?」とサキがニヤニヤ。
「賭けてはいない! 予想していた!」
「で、私の勝ち!」とユズが胸を張る。
「まあ、時間を決めておかなかった私にも落ち度はあるけど、もう少し早く来るものじゃない?」
カホが唇を尖らせて俺を睨む。
「いやあ、申し訳ない! ユズが寝坊してさ……」
「え、私のせい!? 吉岡くんも起こすの遅かったじゃん!」
「吉岡先輩とユズ先輩、昨日より距離が近くなってますね!」
早川の言葉に、ユズが「まぁね」と小っ恥ずかしそうに笑う。
「ま、今日に限っては遅くて正解じゃない? 梶原、出発ぎりぎりまでここで待ってたし」
サキが言うと、「たしかに」とカホが頷いた。
「じゃあ、早いところメシを済ませて狩りに行こうぜ! 吉岡隊、活動開始だ! 他の隊に負けないぞ!」
「待たせた隊長がそれ言う?」
カホが呆れ顔でため息をついた。
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【支払ログ】
食事:シンプルセット
支出:350G
所持金:2,607G → 2,257G
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◇
朝食を食べながら、俺は他の隊について聞いた。
昨日、俺とユズがギルドを出た後、相良たちは他の編成も決めたそうだ。
最終的に、今日のPT編成は以下のように決まった。
・相良隊:相良、リカ、梶原、アヤ、三船、ナナ
・佐伯隊:佐伯、黒瀬、ミオ、戸塚、宮坂、スミレ
・吉岡隊:吉岡、カホ、ユズ、サキ、早川
佐伯隊は当初、四年の黒瀬が隊長を務める予定だった。
しかし、二年の宮坂が猛反発した結果、佐伯が隊長になった。
宮坂と黒瀬は、二年の女子・スミレを巡る恋敵である。
「ま、無難な組み分けだな」
というのが俺の感想だった。
主に男性陣の恋愛事情に配慮した編成だ。
サークル活動で班分けする時も、同じような編成になっていた。
梶原と早川のポジションだけ普段と違う感じだ。
「せっかくの異世界なんだし、もう少し変わった編成を試せばいいのにね」
これはサキの意見だ。
「いずれ相良がどうにかするだろう。この世界では、ユニークスキルの組み合わせも大切になってくる。そういうことを考えたら、今回の編成がベストとは言えないさ」
食事が終わると、俺たちはギルドの受付に移動した。
「あれ! 俺のエリにゃんがいない!」
横長に延びる受付カウンターには、数名の受付嬢がいる。
しかし、その中にエリナの姿はなかった。
他の受付嬢もイイ女揃いだが、今の俺はエリナがいい。
とはいえ、いない相手に対応してもらうことはできない。
今回は適当に空いているカウンターを利用した。
「ご用件をお伺いします」
「吉岡くん、まずはPT申請ね。討伐依頼より大事だよ」
さっそくカホが口を挟んでくる。
「さすがはお堅いイイ女だ! しかし、言われなくてもわかっている!」
そう言って、俺はPT申請と討伐依頼の受注を済ませた。
階層は第1階層を選択する。
「かしこまりました」
受付嬢が謎のキーボードをカタカタと操作し、手続きが終了する。
昨日と同じように、視界の右上に情報が表示された。
「うわ! なんか右上にPTリストと依頼情報が出てきた!」
「セラさんの説明どおりだけど、こうして体験すると驚くね」
サキとカホが新鮮な反応を見せる。
昨日すでに経験済みの俺、ユズ、早川の三人は落ち着いていた。
「諸君! 我々はこれから第1階層の攻略に向かうわけだが、準備はよろしいかな!?」
ポータルの前に移動すると、俺は振り返って四人を見た。
「ユズ隊員、準備万端であります!」
ユズが物干し竿のような長さの槍を掲げて笑みを浮かべる。
「私も大丈夫だよー! 梶原と違ってビビらないと思う。害獣駆除の経験あるし!」
サキも、ユズと全く同じ槍を掲げた。防具まで同じだ。
「今日は昨日より戦えるようになります! 吉岡先輩みたいになりたいです!」
早川は短剣を抜いた。
昨日は弓をメインにしていたが、今日は剣でいくようだ。
「私も大丈夫だよ」
カホは緊張した面持ちで言った。
彼女の武器は手斧と小盾のセットだ。
盾は楕円形で、左前腕の外側に取り付けられている。
「昨日は転移早々に待ち伏せを受けた! 今日はどうなるかわからない! 気をつけていくように! 吉岡隊、出陣!」
俺たちは第1階層に転移した。
◇
転移先は早くも見慣れた草原だ。
待ち伏せを警戒して構えていたが――。
「見たところ近くは安全だな」
念のため草むらに伏せている敵がいないか注視するが、問題なさそうだ。
「でも遠くに敵の姿が見えるね」
サキが真剣な顔で前方を指した。
6体の青芽ネリュムがぴょんぴょん飛び跳ねている。
「まとまってるし、私のボムで一気に倒しちゃう!?」
ユズが声を弾ませる。
「いや、カホとサキに戦闘経験を積ませたい。普通に戦おう!」
「わかってるね、吉岡くん! 助かるわー」とサキが笑みを浮かべる。
「戦闘の前に、ユニークスキルを使っていい?」
カホはネリュムを睨んだまま言った。
「かまわないが、どういう効果なんだ?」
「それは見てのお楽しみ」
あえて効果を言わず、カホはユニークスキルを発動した。
「「…………」」
何も話さない二体のゴーレムが召喚される。
ゴーレムといっても小柄で、全長は1メートルちょっとだ。
サークル内屈指の低身長であるユズよりも明確に小さい。
「なに、この子たち! 可愛い!」
ユズが声を弾ませる。
「私のスキル【ゴーレム兄弟召喚】は、見ての通り二体の小型ゴーレムを召喚するもの。この子たち自体に戦闘能力はないんだけど、盾として私たちを守ってくれたり、物を運んだりすることはできるよ」
「便利そうなスキルだな! 持続時間とかあるの?」
「持続時間はないよ。クールタイムもなし。私の意思で自由に出したり消したりできる。でも、死んだ場合は、次の日になるまで復活しない」
「クールタイムがない代わりに、死なせたら次の日まで使えなくなるわけか」
「そういうこと。だから、雑に扱って使い捨てにはできないよ」
「命令には従うのか? それとも勝手に判断して動くタイプ?」
「私が命令しないと動かないタイプ。でも、『自分で判断して』って命令すれば自律的な行動も可能だよ」
「なるほど。じゃあ、ゴーレムたちはいざというときの保険だな! 通常種との戦いで死なれたら困る! 後方警戒とか、そういう任務を与えておいてくれ」
「わかった」
カホが命令すると、ゴーレムたちは無言で頷いた。
そして二手に分かれ、後方の警戒にあたる。
「今度こそ戦闘を始めるぞ!」
「私もユニークスキル、使いたいでーす! クールタイムは発動から10分! 結構いいスキルだよ」
サキが手を挙げた。
「効果は見てのお楽しみ?」
俺が笑いながら問うと、サキは「もちろん」とニヤリ。
「いいだろう! ユズと早川はスキル温存だ! 行くぞー!」
「「「おう!」」」
俺たちはネリュムの群れに突っ込んだ。
ぴょんぴょん飛び跳ねるスライムのような魔物たちが、こちらに気づく。
「「「ぷにー!」」」
臨戦態勢に入った敵が、体液を飛ばしてくる。
大した速度でもないため、俺たちは軽く回避した。
「一番槍は私がいただくよ!」
サキは臆することなく突っ込むと――。
「ユニークスキル【ミラージュ・ドレス】発動!」
次の瞬間――。
「うわー! サキが4人になった!」
ユズが声を弾ませる。
その言葉どおり、俺たちの視界には4人のサキが映っている。
「すごいっしょ? 私のスキルは幻影を3体出せるの! 相手には触れられないけど、かく乱には最適!」
それを聞いた俺は思わず叫んだ。
「惜しい!!!!!!」
みんなが「え?」と驚いた。




