013 明日の編成
「霧島の奴、序盤で死ぬモブっぽい去り方をして本当に死んだのか」
俺が衝撃を受けていると――。
「霧島は生きている。勝手に殺すな」と、相良が苦笑した。
「でも、かなり派手にやられたみたい。今は治療所で入院中よ。退院は明日の昼だけど、戦闘に復帰できるのは明後日かららしいわ」
リカは自分の席に座ると、俺に見せつけるかのように脚を組んだ。
もちろん俺は「おほっ」とニヤける。
「どうやって状況を把握できたのですか?」
尋ねたのは佐伯だ。
相良は自分の席に座ると、ただでさえ近いリカとの距離をさりげなく少し詰めてから答えた。
「ギルドの受付で、霧島の状況を照合してもらったんだ。通常は、自分と同じクランのメンバーについてしか確認できないらしいが、俺たちは同時転移組で、転移初日ということもあって特別に対応してもらえた。その結果、霧島がすでに第1階層から帰還していることと、手続きを済ませて治療所に入院していることがわかった」
「時系列を整理しますと、霧島くんが戻ってきたのは私たち長時間受講組がギルドへ来る前のはずです。とすれば、霧島くんはかなり早い段階でギルドに戻っていたわけですか」
「そうだ」
「霧島さんが入院している治療所って、俺と佐伯さんがさっきまでいたところっすよね?」
梶原が尋ねると、相良が「そう聞いている」と頷いた。
「おいおい梶原、霧島に気づかなかったのかよー!」
「いや、気づかないって。治療所って三階建てになってるんだけど、俺は一階で軽い処置を受けただけだから」
「この世界って、とんでもない大けがでも三日で完治するんだよね? じゃあ、霧島先輩の怪我って結構ひどいのかな?」
ユズが不安そうに言った。
「治療後の状況は知らないが、ギルドに戻ってきたときはひどかったそうだ。幸いにも霧島の対応をした職員がいて話を聞かせてもらえたが、自力じゃまともに歩けなくて、治療所まで担架で運ばれたらしい。全身血まみれだったそうだ」
ユズが「うわぁ……」と顔を歪める。
「……霧島、無茶した」
ミオがぼそりと呟いた。
「担架で運ばれるレベルでも翌日の昼には退院できるのか! メビウス、めっちゃすげーな!」
「吉岡くんは相変わらずポジティブね」とリカが笑う。
「どうせなら前向きに考えたほうがいいだろー! てか、霧島ってどこでそんなに怪我したんだ? 危険個体か?」
「いや、若葉ウルフだ。討伐依頼はネリュム、ラビット、コッコの三種だけ達成。本人が職員にした報告では、そこまでは無傷だったらしい。だが、そのあとで若葉ウルフの群れと遭遇し、手も足も出なかったそうだ」
「俺たちのほうは若葉ウルフまで含めて四種が揃って待ち伏せしていたけど、霧島のほうは配置が違ったんだな」
「たしかに。こっちだと三種だけ倒して無傷……みたいな状態にはならないよな」と梶原が頷く。
「同じ階層だからといって敵の配置が固定とは限らないわけですね」
佐伯が話を整理した。
「霧島はプライドが高い。今は誰にも会いたがらないだろう。明日、俺が様子見がてら話をしに行く。この後のことは、霧島を抜いた17人で進めよう」
相良が言うと、早川がすかさず手を挙げた。
「俺、お腹ペコペコっす! 食堂でメシを食いたいんですけど、いいですか!?」
「同感だ。レジェンド吉岡も激しい戦いの後だから空腹でたまらないぜ!」
と、俺も早川に続いた。
「ユズ隊員もであります!」とユズが笑う。
「戦いには参加していないけど、私もお腹が空いたわ。相良、みんなで食堂に行かない?」
リカが提案すると、相良が「そうだな」と即決した。
◇
ギルドに併設された食堂は、冒険者でごった返していた。
まるで高校の学生食堂のように、腹を空かせた冒険者が列を成している。
「悪いな、諸君! 俺はメシに金を惜しまない主義なんだ!」
そう言って、俺は700Gのノーマルセットを注文した。
ノーマルセットは、日本でいうところの定食である。
米、サラダ、味噌汁、小鉢が固定で、メインを数種類の中から選ぶ方式だ。
俺はチキン南蛮を選んだ。
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【支払ログ】
食事:ノーマルセット
支出:700G
所持金:4,707G → 4,007G
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「ユズ隊員も同じ主義であります!」
そう言って、ユズもノーマルセットを頼んでいた。
メインは唐揚げとだし巻き卵のハーフ&ハーフ。
他のメンバーはシンプルセットである。
シンプルセットは、米、サラダ、味噌汁しかない。
「「いただきまーす!」」
ユズと並んでノーマルセットを食べる。
「味付けがかなり日本に近いな。米とか日本米と大差ないぞ」
「ねー! 美味しい! これが700Gはお得だね!」
「いや、お得かどうかはまだ分からないけどな。この世界の物価について、俺たちはあまりにも疎い」
「そこだけ真面目になるんだ!?」
ユズが楽しそうに唐揚げを食べる。
「相良、明日はどうする予定なんだ? 朝にまた揃って会議でもするのか?」
俺は別のテーブルで食事中の相良に話しかけた。
「会議はしないが、PT編成は決めておいたほうがいいだろうな。霧島のようにソロで狩場に行くのは避けたい」
「17人だし、6人PT2つと5人PT1つにわけるのはどうかしら?」
リカが会話に加わる。
もちろん、彼女は相良と同じテーブルだ。
「賛成です。できればもう少しこの世界を観察したいですが、その前に最低限の食い扶持を稼ぐ必要があります」
佐伯も眼鏡をくいっと上げながら参加する。
「細かいことは相良や佐伯さんに任せるけど、我が吉岡隊の隊長はこの俺、レジェンド吉岡が務めるのでよろしく!」
「じゃあ、ユズ隊員は明日も吉岡隊!」
ユズがすかさず食いついた。
当然のように梶原が「なら俺もだ」と手を挙げる。
「ユズはともかく梶原は悩むところだなぁ!」
「は? ボス戦で活躍したろ」
梶原が不機嫌そうに俺を睨む。
「それはそうなんだけど、君は野郎だからな。ほら、俺、ハーレム希望じゃん? 俺以外はイイ女が望ましいなって……」
「断る理由が吉岡くんらしすぎる」とカホが笑った。
「俺がダメならユズもダメだ。お前がユズに何をするかわからないからな」
「だから梶原が私のことを勝手に決めないでよ」
ユズが珍しく強い口調で抗議する。
「……ごめん」
梶原はわかりやすくしょげ込んだ。
「まぁ、梶原のことは考慮しておこう!」
「吉岡先輩! だったら俺も候補にお願いします! 今度は先輩を置いて逃げません! 名誉挽回のチャンスをください!」
早川が手を挙げる。
「早川、君は先輩に取り入るのが上手いな! 採用だ!」
「マジっすか! ありがとうございます!」
「そんなわけで梶原、すまん! 君は選考漏れした!」
「さっき考慮するって言ったばかりだろ」
「しかし、君の枠には早川が入ってしまった……。野郎枠はもういっぱいだ!」
梶原は何か言い返そうとするが、ユズを一瞥すると舌打ちして黙った。
「PT人数を6-6-5で分けるなら、吉岡隊は5人でも大丈夫そうか? 戦闘経験者4人のうち吉岡くんを含めて3人が吉岡隊だから、できれば他の隊に戦力を集めたい」
「いいぜ、相良! なら、吉岡隊は残り2名な! どちらもイイ女限定だ! 先着順だぞ!」
「なら私が入る!」
速攻で手を挙げたのはサキだ。
「よし、サキも吉岡隊で決定!」
「ユズ隊員が槍の使い方を教えてあげるから覚えるように!」
ユズが笑いながら先輩風を吹かす。
サキもそれが冗談だと分かっていて、「はいはい」と笑っていた。
「これで残り1枠っすね!」
早川がそう言った瞬間、リカが「なら、私が」と手を挙げかけた。
しかし、先にカホが「私でもいい?」と手を挙げた。
それを見て、リカがすっと手を下ろす。
大半がカホの挙手に驚いていて、リカの動きには気づいていない。
気づいていたのは俺と相良くらいだ。
相良は安堵しつつも複雑な表情でリカを見ていた。
「カホが吉岡隊に? 最も縁遠いタイプだと思ったが意外だな! レジェンド吉岡の強さに惚れたかい!?」
「というか、私はブレーキ役。吉岡くん、ユズ、サキ、早川くんの四人だと、今日みたいに撤退計画を練らずに突っ込んじゃうでしょ? それを止めるのが私の仕事」
「カホが一緒なら安心できるな」
相良はさりげなくカホで確定させようとする。
(ここでリカの挙手に触れたら修羅場になりそうだなぁ)
そんなことを思いつつ、俺は相良に向かって答えた。




