111 メイ
重装備の女槍使いは、緊張の面持ちで答えた。
「は、はい! メイです! 吉岡さん……ですよね? 本日はよろしくお願いします!」
メイが深々と頭を下げる。
「ね? いい子でしょ?」とサキがニヤリ。
「違う」
「え?」
「いい子じゃない。イイ女だ!」
俺は一瞬で距離を詰めると、メイの左手を掴んだ。
「すごく可愛いね! 一人で転移してきたって聞いたよ! 怖かったんじゃない? でも安心して! 俺が守ってあげる! これからも一緒に行動する? それとも今日だけ? どっちでもいいよ! とにかく君は吉岡イイ女審査会が定める一次審査を通過した! おめでとう!」
「え? えっと……え!?」
メイが混乱している。
「気にしないでいいよ、メイ。吉岡くんは普段からこんな感じだから。でも、すごく頼れるから安心して」
「そうだ! すごく頼れるぞ! さて、今日はどこに行く? 第5かな? まずは様子見で第1にする!?」
俺が興奮しながら尋ねると、サキが「それが……」と苦笑した。
「メイは第6に行きたいんだって」
「第6? 危なくないか?」
俺の顔から笑みが消える。
「いえ、危なくないと思います! サキさんから聞きました。吉岡さんはレベル20、サキさんはレベル17ですよね?」
「そうだが?」
「私もレベル17です。経験値は750、武器・防具ともEランクです。サキさんとほとんど同じです。第5までの攻略証明は持っています。第6は敵レベルが13~19です。吉岡さんの場合、第6は格下になります。第6で問題ないのではありませんか?」
「そういうものなのか? てっきり最初は互いの相性をチェックするものだと思っていたが……」
俺はサキを見た。
「私もよく知らないんだけど、野良PTはそういうのないらしいよ。その場でPTを組んで、目的地に行く感じみたい。ユニークスキルとか立ち回りだけ、事前に簡単な打ち合わせをするんだって」
「なるほど。ま、メイもレベル17なら問題ないだろう! 慣例に従い、ユニークスキルと立ち回りを教えてくれ!」
メイは「はい!」と元気よく答えた。
「私のユニークスキルは【バブルジェットダブルキャノン】といって、背中に二つのキャノン砲を召喚・装着し、水で遠距離攻撃をするものです。クールタイムは砲門ごとに設定されていて、それぞれ砲撃した瞬間から5分です!」
「妙に口ずさみたくなる名前だな……」
「ありがとうございます! 吉岡さんの詳細はサキさんに伺っています。サキさんのスキルも把握しています! あと、私は普段、重装備と槍で前衛を務めます。砲撃は状況に応じて自発的に使いたいです! 以上、いつでもいけます!」
「やる気十分でいいことだ!」
「できれば今後も【アンチテーゼ】の方と交流を持ちたいと思っています!」
「ほう……!」
「メイが言うには野良PTはなかなか微妙みたい。若い女の子だから見た目の時点で侮られるし、変なのばっかり言い寄ってくるんだって。ダンジョンに入ってから妙にベタベタされることもあって困ってるみたい」
「そういう事情なら、たしかに【アンチテーゼ】との関係を深めたいと思うわな」
「はい……。最近は野良PTに入るのが不安で、ソロの日が続いていました。なので、今日はとても張り切っています!」
「よろしい! では、参ろう! 第6攻略の時間だ!」
俺たちは適当な窓口で申請を済ませた。
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・[通常] Lv.13 霧灯スライム:6体(330G)
・[通常] Lv.14 迷い灯ウィスプ:5体(370G)
・[通常] Lv.15 泥足リザード:4体(410G)
・[通常] Lv.16 霧灯ラット:4体(440G)
・[通常] Lv.17 霧灯ゴブリン:3体(480G)
・[危険] Lv.17 毒笠トード:1体(550G)
・[危険] Lv.18 沼潜りクロコダイル:1体(740G)
・[ボス] Lv.19 霧灯ヒュドラ:1体(1,290G)
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「うひゃー、ボスの名前、ヒュドラだってよ! 明らかに強そうだぜ!」
「実際、かなりの強敵です! 私も過去に攻略できませんでした!」
メイがハキハキした口調で言う。
「すると、第6自体には行った経験があるんだな」
「はい! 三度挑んで、全部失敗しています! 一度目はクロコダイルの奇襲を受けて撤退、二度目はトードの毒で撤退、三度目はボスに負けました! なので、攻略証明は未取得です! ご安心ください!」
PTメンバーに攻略証明を取得している者がいる場合、原則として当該階層の攻略証明は取得できない。
唯一の例外が同時転移者だけである。
俺の場合だと、イベント企画サークル【アンチテーゼ】のメンバーだけが例外対象だ。
「オーケー! 三度も挑んでるなら道案内は任せてよさそうだな! 陣形は君とサキが前衛、俺が後衛で行こう!」
「了解です!」
窓口を離れてポータルに向かう。
「吉岡くん、強くなった私にビビるかもよー?」
「是非ともビビらせてほしいものだ! 期待している!」
ポータルに着いたので、俺は大鎌〈吉岡デスサイズ〉を掲げて言った。
「吉岡隊、出陣!」
視界がホワイトアウトして、狩場に転移する。
◇
視界が白一色から戻ると同時に、空気の匂いが変わった。
濃霧に覆われた浅い沼が広がる不気味な場所だ。
ここが、第6階層〈霧灯の湿原〉――。
「かつてないクソみたいな場所だな!」
早くも帰りたい。
足下を見ると、靴がすっぽり水に浸っていた。
ほどなくして、スニーカーに水が入り込んでくる。
「このダンジョン、ボスと危険個体のクロコダイル以外、敵自体は強くありません。しかし、この浅い沼のせいで動くのがきついです。こっちは動きが鈍るのに、魔物はこれまでの階層と同じように動き回りますので……」
「だってさ! サキ!」
「こっちはブーツの中が水でぐしょぐしょになって帰りたいよー。このダンジョン、もう二度と来ないから!」
サキも不快感をあらわにしていた。
「それで、吉岡さん、どう攻めますか?」
「まずはギミックの確認をしておこう!」
「ギミック……?」
「要するに、フィールド特有の問題がないかってことだ。例えば第5には空堀があっただろ? こうも霧で視界が悪いと、落とし穴の一つでもあればうっかり落ちかねない」
「それなら問題ありません! ただ、このマップはおっしゃるとおり霧のせいで視界がよくありません。奥まで進むと道に迷います」
「迷わないようにする秘訣はあるかい?」
メイは「あります!」と即答した。
「地面をよく見てください。光っている草がありますよね」
メイに言われて周囲を眺め、ポツポツと光っていることに気づいた。
「ここからでは草かどうかわからないが、たしかに光っている」
「あれは霧灯草と言い、このマップの道しるべになっています。草はボスに向かって一直線に続いています。右手に霧灯草を捉えた状態で進むとボスに向かい、左手に霧灯草を捉えた状態で進めばポータルに着きます」
「へぇ!」
「なら、問題は霧からの奇襲攻撃だけだね」
サキが気を引き締める。
「そういうことになります! ただし、草の列をまたがない場合に限ります。乱戦になってもまたがないように気をつけてください。それと、視界が悪い分、音が大事になります。音を立てないように歩き、敵の音を察知して仕掛けるのがポイントです!」
「そこは却下だな!」
メイが「え?」と驚いた。
「サキに聞いていないのか? 俺は戦闘中に叫ばないと気が済まない人間だ。話し声も大きい! 足音を隠す気もない!」
「でも、それでは危険が……」
「そこは俺の〈デコイ〉とサキの幻影で押し切ろう!」
「じゃ、私のを突っ込ませるね。私の幻影、倒されたらどこから攻撃されたかわかる機能付きだから。霧の中でも攻撃してきた敵の位置を特定できるよ」
「そうだったのか! その点は俺の〈デコイ〉より優秀じゃないか! よし、サキ、やってやれ!」
「任せて――【ミラージュ・ドレス】!」
サキが三体の幻影を召喚する。
俺の〈デコイ〉と違って、幻影はサキそのものだ。
「敵を探しておいで!」
サキの命令で、幻影たちが走り始める。
俺たちはその後を追うように歩いて進む。
「ウチの太郎、次郎、三郎は、側面と背後からの奇襲に備えさせよう」
俺は〈デコイ〉を発動した。
三体の囮を配置する。
俺の背負い袋は、囮ではなくメイに持たせた。
ここで囮が消えると、背負い袋が沼に落ちて濡れるからだ。
彼女の腰に巻きつけている。
「幻影を走らせて、囮で周囲を守る……大胆な攻め方ですね」
メイが驚いている。
「これが今日の吉岡隊だ!」
俺が遠慮なく言った瞬間、サキが「あっ」と反応した。
「幻影がやられた」
しばらくしてサキが言った。
「どこだ?」
今のところ、俺に見えるのはサキとメイの後ろ姿だけだ。
どちらも華奢な体つきで、短めのスカートを穿いている。
そこから伸びるすらりとした脚がいい感じだ。
「前方だね。たぶん近づいてきてると思う。幻影の探知能力は攻撃を受けた瞬間しか発動しないのが残念な点なんだよね」
サキが軽い調子で言いつつ、歩く速度を落とした。
「音がします! 敵が来ます!」
メイが槍を構えた。




