110 食材の流通
その日、俺とミオは肉体関係を持った。
詳細は大人の事情により省略する。
――転移10日目。
夜が明けて、朝になった。
目を開けると、隣にミオが眠っていた。
俺に抱きついている点は昨日と同じだ。
しかし、今日は服を着ていなかった。
俺だけでなく、ミオも。
お互いに全裸だ。
(一昨日の我慢が報われたなぁ。幸せだぁ)
心地よい余韻に浸りながら、俺はミオの額にキスした。
◇
宿屋を出ると、適当な店で朝食を食べる。
昨日とは違う店で、魚介類をウリにしているらしい。
それはいいのだが――。
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【支払ログ】
食事:シンプルセット
支出:350G
所持金:9,297G → 8,947G
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「お待たせ、シンプルセット二人前だよ! たくさん食べて今日も頑張りな!」
気の強そうな女将が置いたのは、大量の串焼きだった。
様々な魚、エビ、イカ……果てには貝柱まである。
350Gとは思えぬボリュームだ。
「さすがに朝っぱらから魚の串焼きを食うと思わなかったな!」
「……量もすごい」
二人で手分けして食べる。
「思ったんだけど、この都市の魚介類ってどうやって調達してるんだろうな?」
「……たしかに。肉や野菜も気になる」
統合都市メビウスの物流網は謎だ。
食べ物もそうだが、飲み物も調達経路がわからない。
「聞いてみるか――女将、ちょっといいかい?」
俺は女将を呼んだ。
「なんだい? 魚の骨が気になったのかい?」
女将が近づいてくる。
「俺たち転移して間もないから教えてほしいんだけど、この世界で食材調達はどうしてるの?」
「そんなもん仕入れているに決まってるさ」
「……どこから?」とミオ。
「業者だよ。あんたら、業者って言葉の意味はわかるかい?」
「わかるぜ!」
「なら話は早い! この世界じゃ、業者から食材を一括で仕入れる! 気になるなら午前3時~午前4時頃に外を歩いてみな。業者の馬車が駆け回ってるからさ」
「なるほど」
女将の言う業者とは、卸売業者のことだろう。
いわゆる問屋だ。
「じゃあ、業者はどうやって食材を手に入れてるんだ? 例えば魚がそうだ。冒険者区画には川も海もない」
「へぇ、あんたら、海を知ってるのかい」
女将は思わぬところに驚いた。
海を知らない冒険者が多いのだろう。
「そういうことなら説明も楽だ。食材の大部分は都市の外で調達するんだ。転移したばかりなら、都市の外には出たことがないだろ?」
「都市の外どころか、冒険者区画から出たことすらないぜ!」
「はっはっは! いいことだ。商業区画はまだマシだが、居住区画になると冒険者を嫌っている奴も当たり前にいる。この区画みたいにいい気分では過ごしにくいさ」
エリナの情報とも一致している。
やはり、冒険者を嫌うメビウス人はそれなりにいるようだ。
「一番外の区画は生産・倉庫区画って言うんだけどね、そこから都市の外に出られる。外には海があって、そこで捕れた魚が都市に運ばれてくるわけだ。他にも食料の大部分が都市の外から入ってきているね。生産・倉庫区画でも野菜の栽培や家畜の飼育などは行われているが、それほど大規模じゃないよ」
俺とミオは「へぇ」と感嘆した。
「この世界の魚は美味いだろ? 私は他の世界のことは知らないが、冒険者は例外なくこの世界の魚を褒める」
「たしかに美味い。それに安い!」
女将は「ありがとよ!」と嬉しそうに笑った。
「話は以上かい? 用が済んだのなら、私は仕事をさせてほしいんだがね」
「以上だ!」
女将は「はいよ」と言い、去っていった。
「……都市の外から食料を調達しているんだ」
「馬車で運んでるんだろうなー。人口とか都市の規模とかさっぱりわからないが、業者に感謝だな!」
ミオが「だね」と頷いた。
◇
食事を終えると、その足でギルドに向かう。
その間、俺とミオは手を繋ぎ、さながら恋人のように歩いた。
「ここで手を離すかい?」
ギルドの前で俺は言った。
ミオは少し悩んでから首を振った。
「……繋いだままがいい。吉岡くんが嫌じゃないなら、だけど」
「わかった! 嫌じゃないから繋いだままな!」
「……ありがとう」
「こちらこそ! 吉岡ルールの遵守を忘れないでくれよな!」
「……うん。吉岡くんは、他の女にも手を出す。私は、ダメ」
「厳密には君が誰かと話したり、食事をしたり、PTを組んだりするのは可能だ! ダメなのはイチャイチャすることである!」
「……大丈夫。それは、しない」
「よろしい! 関係を見直したくなったらいつでも言ってくれ! 協議に応じよう! では、行くぞ!」
俺は扉を開け、ギルドに入った。
「おはよう、吉岡くん、ミオ」
入るなりカホの声が飛んできた。
当然、戸塚と佐伯もいる。
「ミオ……」
戸塚は俺たちの手を見て顔を引きつらせた。
「……ユウゴ、出発の前に、少し話をしたい」
ミオが切り出す。
内容は、ミオから事前に聞いていた。
俺とミオの関係についてだ。
肉体関係があったことを戸塚に話すらしい。
昨日、行為の後、戸塚にだけは話したいと相談された。
戸塚に対して、彼女なりに誠実でいたいのだろう。
「……わかった。なら、あそこのテーブルで話そう」
戸塚がギルドの隅にある小さな丸いテーブルを指した。
ミオは頷くと、俺から手を離し、戸塚と二人でテーブル席に向かう。
「言いそびれたが、おはよう! 二人とも! 早起きだな!」
俺は掛け時計を確認する。
まだ9時30分だ。
サキとの待ち合わせは10時だから、あと30分ある。
「この時間は早起きに入らないよ」
カホが呆れたように笑う。
「サキさんはまだのようです。できれば、メイさんを一目見たかったのですが」
佐伯が言った。
「エリにゃんもいないね」
俺は窓口を確認しながら言う。
それから、ミオと戸塚に目を向けた。
ミオが淡々と何やら話している。
戸塚の顔は、俺たちの場所からでは見えない。
ただ、彼の背中からは哀愁が漂っていた。
「そういえば佐伯さん、知ってた? この世界の食材流通のことなんだけど――」
突っ立ってるのも暇なので、俺は先ほど仕入れた話をした。
「へぇ、都市の外から調達しているんだ」
カホが驚いている。
「そこまで詳しくは知りませんでした。ただ、卸売業者から一括で仕入れているのは知っていました。日本の場合、一つの卸売業者に一括で依頼することは少なく、食材の種類ごとに使い分けるのが一般的ですが――」
佐伯が無表情ながら軽快に話し始めた時だ。
「待たせた。出発しよう」
戸塚とミオが戻ってきた。
「わかりました」
佐伯が話を打ち切る。
しかし、その顔には少し寂しさが漂っていた。
「ミオ、ちゃんと話せたかい?」
「……うん。話せた」
「そうか! 頑張ったな!」
俺はミオの頭を撫でて微笑んだ。
「……ありがとう。行ってくる。またね、吉岡くん」
「おう! 行ってこい!」
戸塚隊が俺に背を向けて歩き出す。
「あ、そうだ! 戸塚!」
俺が名前を呼ぶと、戸塚が足を止めて振り返る。
「なんだ?」
「青春は甘いだけじゃない! つらいこと、苦しいこと、しんどいこともある! しかし、それも青春だ! 戸塚……青春を謳歌せよ!!!!!!!!!!」
俺の声がギルドに響く。
あまりにも大声だったので、他の冒険者たちまで見てきた。
「……ああ、そうだな」
戸塚は何とも言えない表情で笑い、再び歩き始めた。
「それにしてもサキの奴、おっせーなぁ!」
俺は腕を組みながらその場を行ったり来たりする。
それからふと思い立った。
「そうだ! 掲示板を確認しよう!」
「おはよー、吉岡くん。もしかして待たせた?」
その瞬間、サキがやってきた。
隣には、若くて可愛らしい女の冒険者もいる。
前にユズやサキが使っていたような素槍を持っている。
髪は栗色で、目はくりっくりで、防具は重装備だ。
緊張の面持ちで俺を見ている。
「君が巷で噂のメイかな?」
俺はメイと思しき女冒険者に向かって尋ねた。




