109 エクストラ吉岡アーマー
佐伯の言っていた飲み放題イベントは本当だった。
ギルドの外にある酒場は、どの店もいつになく繁盛していた。
中には店に入りきらず、外で立って飲んでいる冒険者までいる。
文字通り浴びるように飲んでいた。
もちろん、全員が酒を飲んでいるわけではない。
ソフトドリンクを片手に談笑する冒険者もいた。
「……お祭りみたい」
「俺たちだけ禁欲生活をしているみたいだなー」
「……日本人は、真面目」
「それはどうかな」
俺は笑いながら、ミオと手を繋いだ。
許可は取らなかったが、ミオは気にせず受け入れた。
「……どうかなって?」
「俺たちが真面目なのかは疑わしいところだ」
「……そう?」
「好き好んで今の生活をしているわけじゃないからね。日本へ帰るために仕方なく働いているだけだ。ストレートな言い方をすれば奴隷である。その『仕方ない労働』を真面目と表現するのは、微妙なところだと俺は思う! ミオは真面目だけどね」
「……吉岡くん、たまに難しい考え方、するね」
「利口ぶりたい年頃なのさ」
ミオが「中二病」と笑った。
「さて、防具屋に着いた! サクッと防具を買おう!」
「……うん」
俺たちは適当な防具屋に入った。
今回は防具専門店なので、店内には防具しか置いていない。
店主は愛想のいいおっさんで、俺たちを見るなり「らっしゃい!」と声を上げた。
「こんな日に防具を見に来るなんて、熱心な冒険者さんたちだ!」
「俺たちは真面目だからな!」
俺が笑い飛ばすと、ミオが目を細めて「真面目なの?」と俺を見る。
「おう! 俺たちは真面目だ! 日本人は真面目なのさ! がっはっはっは! はっはっはのはー!!!!」
「……さっきと言ってることが違う」
と言いつつ、ミオも愉快げに笑った。
「お二人は日本って世界から転移してきたのか! いきなり転移させられて大変だったなー!」
店主が満点の営業スマイルを浮かべる。
(世界じゃなくて国なんだけど、国の概念が伝わらなかったら面倒だし、合わせておくか)
俺は「まあなー!」と流した。
「一口にEランクの軽装備といっても色々あるもんだ」
「……だね」
俺とミオの防具は、どちらも軽装備だ。
軽さを重視した、動きやすいレザー製である。
「よし、決めた! 俺はこの防具にしよう!」
俺は適当な軽装備を手に取った。
見た目は平凡で、商品札にも『E:軽装備』としか書かれていない。
「……早い。迷わないの?」
ミオが驚く。
「こういうのは直感に従うのが吉岡流だ!」
俺は精算窓口に行き、下取りと購入を済ませた。
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【下取りログ】
装備:[F]ブルファムレザーの軽装備
収入:2,400G
所持金:21,097G → 23,497G
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【支払ログ】
防具:[E]軽装備
支出:12,800G
所持金:23,497G → 10,697G
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「それから店主、登録名の変更を頼む!」
「はいよ! 何にする?」
「エクストラ吉岡アーマーだ!」
ミオが小さく吹き出す。
「ほへぇ、ずいぶんと変わった名前だ! 日本人はユニークなんだな!」
そう笑いつつ、店主が登録名を変更してくれた。
さっそく装備し、俺はステータスを確認した。
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【名前】吉岡
【レベル】20 EXP:1,266/1,650
【所持金】10,697ゴールド
【ユニークスキル】オール・レジェンド(P)
【技能①】[F]スター・ストライク(レジェンド)
【技能②】[E]バースト・ステップ(レジェンド)
【技能③】[E]デコイ(レジェンド)
【武器】[E]吉岡デスサイズ(レジェンド)
【防具】[E]エクストラ吉岡アーマー
【補助魔導具】[E]ブレスレット
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実に素晴らしい。
武器と防具に自分の名が入っていると、自然と笑顔になる。
「……私も決めた」
ミオが新しい防具を持ってきた。
先ほどまで俺が装備していたような濃紺の軽装備だ。
さっそく下取りと購入を済ませて装備する。
「……どう?」
「可愛い! それに強そうになった!」
「……よかった」
ミオの頬が緩む。
「ミオも登録名を変える? ミオちゃんアーマーに!」
「……変えない。それに、防具はアーマーだけじゃない。だから、吉岡くんの登録名は、おかしい」
「おかしさを楽しめ! 日本の常識は異世界の非常識かもしれない!」
俺はミオと手を繋ぎ、防具屋を出た。
◇
「……吉岡くん、どう思う?」
雰囲気のいい宿屋を探して彷徨っていると、ミオが口を開いた。
「何がだ?」
「……佐伯の話」
「あともう少しだけ具体的に!」
俺はミオの手をギュギュっと握った。
すると、ミオも一度だけギュッと握り返してきた。
「神罰の件。受付嬢や塔の職員が、神罰を恐れて情報をあまり話さないのでは……みたいな推測」
「そういえば、そんな話をしていたな。それがどうかしたのか?」
「……神罰は、故意に相手を騙したり、害したりすると起きる。でしょ?」
「おう」
「……受付嬢や塔の職員が詳しく話すことは、悪意じゃない。善意。佐伯の推測は、筋が通らない」
「そのことか」
ここで佐伯の推測を整理しよう。
始まりはこうだ。
佐伯は受付嬢に神罰の詳細を尋ね、〈始祖の塔〉の職員に聞けと回された。
そして塔の職員に聞くと、セラが最初にした説明を繰り返されるだけだった。
当初、佐伯は「強制的に魔石を調達させられているのに、この仕打ちは理不尽だ」と感じていた。
しかし、佐伯は神罰の詳細を知って考えが変わった。
そこで彼が導き出した推測は『塔の職員や受付嬢も神罰を恐れている』というもの。
ミオは、この点に関して矛盾を指摘している。
「その件は、そこだけを切り取るから筋が通らないように感じるんだ」
「……どういうこと?」
「佐伯さんの推測にはもう一つあって、それが『神罰は冒険者の行動を管理・制限するための制度』というものだ」
「……つまり、神罰の詳細を教えることで、冒険者の行動を管理・制限しにくくなるって、佐伯は考えている?」
「そうそう。もう少し詳しく言うと、佐伯さんは『受付嬢や塔の職員は、冒険者に神罰の詳細を教えてはいけない』みたいな指示、もしくは伝聞などがあるのではないかと考えているのだろう。いや、『教えてはいけない』では強すぎるな。より厳密には『望ましくない』みたいなニュアンスだ。これなら、エリナがギルド内で堂々と神罰の詳細を俺たちに教えた件とも整合するし、佐伯さんの推測も筋が通っているように思える」
「……なるほど。そこまで考えていなかった」
「佐伯さんは俺よりも長々と話すけど、本人の中ではあれでも短くしているんだと思う。だから、話を圧縮する過程で一部が欠けて、『筋が通ってなくないか?』と感じる時もあるわけだ」
「……吉岡くんは、佐伯のこと、詳しいね」
「俺はみんなのことに詳しい! 人の顔色を窺って生きているからな!」
ミオが「それはどうかな」と笑った。
◇
結局、昨日と同じ宿屋を選んだ。
驚いたことに、部屋まで昨日と同じだった。
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【支払ログ】
宿泊:一般個室
支出:1,400G
所持金:10,697G → 9,297G
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「いけ! ミオ! ベッドダイブだ!」
「……うん」
ミオが助走をつけてベッドに飛び込む。
そのあと、俺も「うりゃー!」と続いた。
「先に言っておくけど、昨日の契約は今日も続いているからな! 性的な行為はミオが望んだ場合に限る! ベッドダイブとお風呂もミオが先! 後から禁止ってミオが言ったことも禁止!」
「……ありがとう」
「どういたしまして! ただし、これは裏を返せば『君が明示的に望みを口にしない限り、ここから先には進めない』という意味でもある!」
「……!」
ミオの目が大きく開いた。
互いの息がかかる距離で、ミオが俺を見つめる。
「君は待つタイプだろう? だが、最後の最後は自分で押さないといけないのだ!」
「……それは、困った」
「どうして困るのかな?」
俺はニヤニヤしながら、ミオの顎をつまみ上げた。
ミオは顔を背けようとするが、俺に顎をつままれているため背けられない。
「……ずるい。わかってて、聞いてる」
「そう、俺はずるい! だから、もう少しずるくしよう! ミオ、キスしてもいいかい?」
俺はミオの目を見て微笑む。
「……うん」
「唇にするよ?」
「……いいよ」
ベッドの上で横になったまま、ミオとキスする。
今回は舌を絡めた。
「はい、終わり! 俺が進めるのはここまで!」
キスが終わると、俺はミオからスッと離れた。
「…………」
ミオは何も言わずに唇を尖らせる。
それから、自分の唇を指で撫で、俺を見た。
「……もっと」
「もっと?」
「……今日は、キスだけじゃ嫌」
「じゃあ、どうしたい?」
「……お風呂、一緒に入りたい」
ミオの顔が赤く染まっていく。
「それだけ?」
「……イチャイチャも、したい」
「イチャイチャの定義は……聞かないでおこう! これ以上の意地悪は不要だ!」
「……ありがとう。でも、ちょっと恨んでる。意地悪だったから」
「だから言っただろう! 人生は思い通りにいかないものだ!」
俺はミオを抱きしめた。




