108 転移10日目の編成
「外部の冒険者と組む?」
相良が険しい顔で聞き返した。
雑談がピタリと止まり、誰もがサキを見る。
「もしかして、メイと組みたいの?」
尋ねたのはアヤだ。
「そうそう。メイなら安心できると思って。私、前から外部の冒険者と組んでみたかったし」
「アヤさん、そのメイさんというのはどなたですか?」
佐伯がメガネを上げる。
「イイ女か? 名前的に女だけど、女で合ってるよな!? 外見、年齢、しゃべり方、胸の大きさ……詳しく教えろ! ただし、交際相手がいる場合や既婚者の場合は言わなくていいぞ!」
サキが「どういう基準なの」と笑った。
アヤは俺を一瞥してから相良と佐伯に向けて答えた。
「メイは、二日連続で私たちと同じ部屋に泊まってた女の冒険者。あ、私たちっていうのは、私、サキ、ユズの三人ね。それで、年齢は本人曰く18歳」
ナナが「私より年下ですね……」と呟く。
「私たちより少し早く転移してきたみたいだけど、レベルは吉岡くんよりやや低いくらいだと思う。詳しいことはわからないけど、たぶんレベル15~20くらいじゃないかな。それから――」
アヤは俺を見てニヤリと笑った。
「――イイ女だよ。恋人いない、結婚もしていない。そもそも交際経験がなくて、顔は可愛い系。丁寧口調で、押しに弱そうな雰囲気だけど、芯はしっかりしてる印象」
「胸は!? 胸はどうなんだ! 大きいか?」
「そこは普通かな。私と同じか少し小さいかも」
「つまりDカップくらいか!」
アヤは「そうだね」と笑った。
それから再び相良たちに顔を向ける。
「これは本人の自己申告だけど、ソロで転移してきたみたい。だから、普段は野良PTで狩りをしているんだって」
「野良PTって何だ?」と俺は首をかしげた。
「その場限りのPTという意味です。吉岡くんの言い方だと『寄せ集め』になります。なお、私たちのように隊として二日以上にわたって組んでいるPTは『固定PT』と呼ばれています」
佐伯がわかりやすく解説してくれた。
「なるほど! さすがは佐伯さん、わかりやすい! いつも野良だと大変そうだな!」
ここでサキが「そうそう!」と声を弾ませる。
「すごくいい子だし、レベルも一緒くらいだし、組んであげたいなーと思って。私も外部の冒険者と組んでみたかったから、ちょうどいいと思うんだよね」
「危険じゃない? ダンジョンに行くと神罰は起きないんでしょ?」
カホが不安そうに言った。
「マイケルさんの話にも、ダンジョンに転移すると豹変する冒険者がいる……という情報がありましたね」
佐伯が頷いた。
「だから、確認してるわけ。危険かもしれないけど、私の直感は大丈夫だと言ってるんだよね」
「私もメイなら問題ないと思うよ!」とユズが手を挙げた。
「アヤはどう思う?」
相良が尋ねると、アヤは少し考えてから答えた。
「私はわからないかな。話している感じは安全そうだったよ。でも、日本人じゃないし、もっと言えば地球人でもない。だから、心理学的な読みは当てはまらないかもしれない。私はどうしても、そういう方向から見ちゃうから判断しにくいかな。でも、仮にメイが日本人だったら問題ないって判断になる。そういう感じ」
ユズとアヤの意見は、サキにとってかなりポジティブなものだ。
それでも、相良は腕を組んで考え込んでいる。
「やっぱり厳しいかぁ……」
サキが頭を掻く。
だが、そんな彼女に救いの手を差し伸べる男がいた。
「いいじゃん! 組んでみようぜ! 明日は俺、サキ、メイの三人で吉岡隊だ!」
そう、俺である。
「まさかの吉岡くん乱入!?」
「異世界人はエリナで手一杯じゃなかったのかよ」
呆れる梶原に「問題ない!」と即答した。
「手一杯なのではなく、受付嬢はエリにゃん一筋だ! ジャンルが違う!」
そう言うと、俺はテーブルの下でミオの手を握った。
突然のことでミオは驚いていたが、静かに握り返してきた。
「……ありがとう」
ミオが俺にだけ聞こえる声で呟く。
それに頷いてから、俺は相良に言った。
「以前、スミレから『俺の功績が偉大すぎて、皆が無意識に俺に配慮・遠慮する場合がある』みたいな指摘を受けたことがある!」
「意識したことはないが、そういう場合がないとは言い切れないな」
相良が呟くと、宮坂と梶原が即座に反応した。
「言い切れないどころか、吉岡に遠慮しまくってるじゃねぇか! 普通ならこんな奴、速攻で追放してるだろ!」
「吉岡がユズの胸を揉んでもお咎めなしだしな。まあ、ユズが嫌がってないからだけどさ……」
「頼もしい二人の証言と相良の反応によって、スミレの指摘が正しいと裏付けられた! また、俺は今まで男子を煽ることと女子を口説くこと以外、大人しくしていた! それも事実だ! 違うなら反論してもらいたいが、きっと反論できないはずだ!」
「反論はない」と相良が頷く。
「だが! しかし! 今回! 俺は圧倒的な権力を行使し、サキの案を支持したい! もちろん、俺とサキの自己責任という扱いでかまわない! ミオとは今晩宿屋でイチャイチャし、明日の朝食を食べたら解散する! ちょうど、俺は次の隊員を探す必要があった! サキはサキ隊があったから難しかったが、この状況なら誘えるだろう! ということで、いかがですかな!? なお、確認・提案という形を採用しているが、断られても俺は強行するだろう!」
俺は声高に宣言した。
「吉岡くん、ありがとう」
サキが嬉しそうに俺を見る。
「お礼はサキっぱいでね」とウインクする。
「ユズっぱいとナナっぱいを忘れないで!」
ユズが言い、ナナが顔を真っ赤にして俯く。
「権力の使い方が吉岡くんらしいわね」とリカが笑う。
「……自己責任なら、いいと思う」
ミオが呟いた。
「そうだな。吉岡隊にサキとメイを入れるという形なら問題ない。自己責任の範疇だ」
相良が折れた。
それから、彼は苦笑まじりに指摘した。
「ただし、吉岡くん、そう堂々と権力の行使を宣言しないでくれ。こちらが脅迫に屈したような形になってしまう」
「これは失礼! 今度からもう少しオブラートに包んだ言い方をしよう!」
「どうせ次の機会になったら忘れてるだろ」と霧島が口元を歪めた。
「でも、サキが抜けたらサキ隊はどうなるの? 解散!?」
ユズが言うと、サキは「ノンノン」と人差し指を左右に振った。
「隊長交代! 新しい隊長は、エースのユズ隊員! 任せるからね!」
サキの言葉に、ユズは「私が隊長!?」と目を輝かせた。
「ユズなら大丈夫でしょ! 強いし、優秀だから!」
「うん! 吉岡くん、聞いた? ユズ隊員、ユズ隊長に昇格したよ!」
「聞いたぞ! 君は明日からユズ隊長だ! ユズ隊のユズ隊長! ユズ太郎くん!」
ユズが誇らしげに胸を張る。
大きな大きなユズっぱいが上下に揺れた。
「それなら俺はユズ隊に入りたい。サキの抜けた穴を俺が埋める」
梶原が待ってましたとばかりに手を挙げる。
「お前が抜けたら霧島隊が俺と宮坂だけになるだろ。コイツと二人にするな」
「霧島と二人になんてごめんだ。コイツは吉岡と黒瀬の次にうぜえ。梶原、抜けるな」
霧島と宮坂が同時に梶原を止める。
「ざんねーん! 梶原は霧島隊ねー!」
ユズがニヤニヤ笑う。
「ちょ、俺の自由はないわけ? 誰か代わってくれない?」
梶原が苦笑しながら皆を見る。
しかし、誰も「俺が代わろう」とは言わない。
すると梶原は、後輩に目を付けた。
「早川、代われ! 先輩命令だ! お前だって元々は霧島隊だろ!」
「そうっすけど、俺はアヤ先輩と同じ隊がいいんで……すんません!」
「俺だってユズと一緒がいいのに!」
梶原は「チクショー!」と叫んだ。
「ミオは、どうするんだ? 明日の所属」
戸塚の低い声が走る。
「……ユウゴと一緒がいい」
その言葉で、戸塚は救われたような顔をした。
「わかった」
戸塚の返事はそれだけだが、顔は明らかに嬉しそうだ。
その顔を見て、リカとカホも笑みを浮かべている。
こうして、明日の編成が決まった。
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【転移10日目の編成】
・吉岡隊:吉岡、サキ、メイ(予定)
・霧島隊:霧島、梶原、宮坂
・相良隊:相良、リカ、黒瀬、三船、ナナ、スミレ
・ユズ隊:ユズ、早川、アヤ
・戸塚隊:戸塚、ミオ、佐伯、カホ
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「さて……ユズ、ナナ、ご褒美の時間だ!」
俺は立ち上がり、ユズの前に行く。
「やった!」
ユズが立ち上がり、目をつむる。
俺はまず「よく頑張ってるね」とユズの頭を撫でる。
それから抱きしめ、唇にキスした。
「これで明日も頑張れる!」
ユズが満面の笑みで頷く。
梶原がテーブルに突っ伏した。
「次はナナだ!」
「は、はい! お願いします!」
ナナが立ち上がる。
ユズの時と同じように撫で撫で、ハグ、キスを行う。
「俺の輝く一等星ちゃん、また一緒に組もうね」
「吉岡先輩……! ありがとうございます! 私、もっと頑張ります!」
ナナがうっとりと目を細め、声を弾ませる。
三船がテーブルに突っ伏した。
俺はミオの隣に座り直し、その手を再び握った。
「んじゃ、サキ、明日は10時にギルドの受付で集合な!」
「10時? そういえば、吉岡くんってスロースターターだったね。了解。メイとは今日も同じ部屋だから、あとで声をかけておく」
「同じ部屋ってわかるのか?」
「今日は事前に部屋を押さえておいたんだよね。報告会でメイのことを切り出そうと思ってたから」
「なるほどなー! いやあ、明日が楽しみだ! 外部の冒険者と組む日が来るとはなぁ! しかもイイ女! サキがハーレムランドの住民候補を連れてきてくれたどー!」
「そういうつもりじゃなかったんだけどね」とサキが笑う。
相良は今も不安そうにしているが、何も言わなかった。
「それじゃ、俺とミオはこれにて失礼するとしよう! 防具を新調し、宿屋でイチャイチャしなくてはならない!」
俺はミオの手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
「え! ミオ、吉岡くんと宿屋でイチャイチャしてるの!? 一緒に寝てるだけだと思った!」
ユズが頬に両手を当てて、大げさに驚く。
「……イチャイチャの定義次第。昨日は一緒に寝ただけ」
「ふーん、昨日は、ね」
アヤが意味深な言い方をしてニヤニヤする。
ミオをからかったつもりだったが、ダメージを受けたのは戸塚だった。
先ほどまで安堵していた戸塚が目を伏せる。
それを見たアヤは「しまった」という顔になった。
「……今日のことは、まだわからない。未来のことだから」
ミオが無表情でアヤに言う。
「今のミオさんの指摘は正しいです。現時点で断定した場合――」
佐伯がペラペラ話し、皆が呆れる中、俺とミオは一足先に食堂を後にした。




