106 技能の普及
「いや、その逆だ! 今日は下手を打っていない! だが、皆の反応を見てわかった! どうやら戸塚隊の三人は、吉岡式訓練プログラムの件を共有していないようだな!」
「佐伯くんは共有しようとしていたけど、私が止めたの。吉岡くんの性格的に、自分で話したがると思ったから」
カホが笑いながら言った。
「よくわかっているじゃないか! さすがはカホ! イイ女だ! その通り! 今日は吉岡式訓練プログラムの共有をするため、俺が報告することにした!」
「吉岡くん、その訓練プログラムというのは何だ?」
相良が好奇心に満ちた目を俺に向ける。
「まず前提条件を話そう!」
俺は立ち上がり、右手の人差し指を立てた。
誰かが「吉岡くんの演説タイムだ」と呟いた。
ユズかサキだろう。
「前提として、ミオは昨夜、Dランクの戦技〈パリィ〉を購入した! 敵の攻撃を武器で弾き、1回無効化するって戦技だ!」
「便利そうな戦技だ」と黒瀬。
「俺もそう思っている! だが、技能は教本を買うだけでは使えない! 訓練する必要がある! かといって、訓練所で訓練していては稼げないだろ? そこで俺が編み出しました! 訓練をダンジョンで行い、その間に他のPTメンバーが攻略を済ませる! これによって訓練しつつ収入も確保する! 一石二鳥の名案! その名も吉岡式訓練プログラム!」
「同じダンジョン内にいる場合、離れていても討伐報酬は入り、討伐依頼も進みます。ただし、離れた場所で訓練しているだけでは、攻略証明の有効参加条件は満たせません。攻略済みのダンジョンなら関係ありませんが」
佐伯が補足する。
「ズルじゃん!」と梶原。
「ズルではない! 仕様だ! ルールに則った効率的な訓練プログラムだ!」
「技能の習得に必要な訓練は、訓練所以外で行っても大丈夫なのか?」
相良は佐伯とスミレに向かって言った。
どちらでもいいから答えてくれ、という意味だ。
「はい、訓練場所の制限はありません。私が訓練所を選んだのは、吉岡式訓練プログラムを知らなかったことに加え、武器の訓練も受けたかったからです」
スミレが答えた。
「なら、吉岡くんの案は一石二鳥の名案で間違いないな」
「リスクはあるが、コントロールできるものだ」
黒瀬が腕を組みながら言った。
「チッ、そんなネタまで隠してやがったのかよ」
霧島が面白くなさそうに舌打ちする。
「そんなわけで、今日の吉岡隊はミオが訓練に励み、その間に俺がダンジョンを攻略していた!」
「そこまではわかった。で、どこを攻略してたんだ? 実質ソロだろ。なら第4か?」
霧島が素晴らしい振りをしてくれたので、俺は上機嫌で演説を続けた。
「第4にも行った! しかし、それだけで終わる吉岡隊ではない! 第5も攻略した! どちらも全8だ!」
場に衝撃が走った。
「吉岡くん、ソロで第5を攻略したの?」
サキが目を丸くする。
「マジかよ」
霧島はそれしか言えなかった。
梶原は「冗談きついわー」と苦笑している。
「吉岡くん、昨日はミオの【サイレンス・ドーム】をつかってやっとの勝利じゃなかった? 一日でずいぶんと成長したようね」
リカが見せつけるように脚を組み直す。
黒パンストで引き締まった長い脚が大きく動くだけで、俺は笑顔になった。
「俺はレジェンド吉岡だぞ! 日進月歩で爆速成長だ! それに、ソロにはソロの戦い方がある! どちらかといえば、ウォーロードやサイクロプスより道中のザコ戦が不安だった! しかし、今回の第5は配置がぬるかった! 昨日の霧島隊みたいなものだ! 故に楽勝だった!」
「俺、あんな奴と同じレベルなの? なんか急に自信なくなってきたんだけど」
梶原が苦笑しながら、隣のスミレに話しかける。
スミレが何か言う前に――。
「梶原、スミレを口説くな」
なぜか宮坂がキレた。
なお、彼の位置は霧島隊の中で最もスミレから離れている。
俺から見ると、右から順にスミレ、梶原、霧島、宮坂だ。
「宮坂くん、私は口説かれていませんよ」
スミレが困ったように宮坂を見る。
しかし、その口元には笑みが浮かんでいた。
悪い子だ。
「吉岡くんはソロで第5を攻略できる実力があるわけか」
相良が話を戻す。
「俺自身が強いっていうより技能のおかげかな。ナナが選んでくれた〈スター・ストライク〉は今回も大活躍だった。ユズが選んでくれた〈バースト・ステップ〉も火球を避けるのに役立った。吉岡式訓練プログラムを生かして、皆さんも技能をガンガン習得してはいかがかな!?」
「悪くない案だ」
相良が言うと、霧島も「異論はねえ」と頷いた。
「私も技能に手を出したいと思っていたから助かるわね」
リカが続く。
「私も異論はないけど、霧島くんは気をつけてね」
カホが言うと、霧島が「なんで俺だけ名指しなんだよ」と反応する。
「だって霧島くん、吉岡くんに対抗したがるでしょ? 今日の話を聞いた後だと、明日は吉岡式訓練プログラムを導入しながら、第5階層に行きそうだもん」
「……それは、わからねえだろ」
「今の言い方は『わかる』でしょ」
アヤが言うと、皆が笑った。
霧島は舌打ちする。
「詳しい話や明日の編成はメシを食いながらにしようぜ!」
相良が「そうだな」と頷く。
「じゃあ、佐伯さん! 今日もいつものデータをお願いします! 我が吉岡隊の輝かしい記録を確認したいので!」
「かしこまりました」
佐伯が紙とペンを取り出し、光の速さで書き上げた。
「こちらが本日のデータです」
その言葉を合図に、全員が立ち上がって佐伯のもとに集まる。
皆で内容を確認した。
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【一人当たりの獲得量】
吉岡隊:3,141EXP、約12,900G
霧島隊:2,443EXP、約11,400G
相良隊:2,610EXP、約13,600G
サキ隊:2,443EXP、約11,400G
戸塚隊:2,688EXP、約10,600G
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【ランキング】
01位 吉岡 :Lv.20 1,266/1,650EXP
02位 梶原 :Lv.20 215/1,650EXP
03位 霧島 :Lv.19 936/1,550EXP
04位 宮坂 :Lv.19 468/1,550EXP
05位 ユズ :Lv.18 151/1,460EXP
06位 サキ :Lv.17 737/1,370EXP
07位 早川 :Lv.16 523/1,290EXP
08位 ナナ :Lv.16 13/1,290EXP
09位 スミレ:Lv.15 1,091/1,210EXP
10位 アヤ :Lv.15 982/1,210EXP
11位 ミオ :Lv.15 86/1,210EXP
12位 相良 :Lv.14 311/1,130EXP
13位 黒瀬 :Lv.14 256/1,130EXP
14位 カホ :Lv.14 215/1,130EXP
15位 三船 :Lv.14 199/1,130EXP
16位 リカ :Lv.14 195/1,130EXP
17位 戸塚 :Lv.13 825/1,060EXP
17位 佐伯 :Lv.13 825/1,060EXP
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「同じ第4・第5全8でも吉岡隊だけ頭一つ抜けているな」
相良が腕を組みながら唸った。
「吉岡隊は2人PTなのが効いていますね。PT補正は90%です。一方、霧島隊とサキ隊は4人PTなので、PT補正は70%になります」
「梶原、だんだん差が開いていくな! 同じレベルなのも今日までじゃないか!?」
「何も言い返せねー」
「梶原、降参してるじゃん!」とユズが笑う。
「仕方ないだろ。第5をソロで全8する奴にどう対抗するんだよ。無理ゲーだって」
「レベルの勝負なら勝ち目あるでしょ! レベルは数字! また周回しないと!」
「まぁ、レベルくらい勝ちたいってのはあるよなぁ。第5は慣れたら周回に向いてそうだしな」
ユズの言葉を受けて、梶原が投げやりな態度を改める。
チョロい男だ。
しかし、競争相手がやる気になってくれるのは大きい。
やる気のない奴に勝っても面白くないからな。
「データも見た! 報告も終わった! 佐伯さん、ありがとう! さあ、メシだ! ミオ、食堂にいくどー!」
「……食堂に、いくどう」
ミオが復唱しながらついてくる。
「もしかして、『食堂』と『いくどー』で韻を踏んだつもりか? アイツ」と梶原。
「吉岡くんの性格的に、韻を踏むよりギャグのつもりで言ってそう!」とユズ。
「ミオは、ギャグだと思ってる……気がする」と戸塚。
そんなこんなで、俺たちは食堂に向かった。




