大天使の襲来です!!(前編)
=友樹視点=
「ご挨拶が遅れました。はじめまして、友樹君。私はミカエルと申します。」
「あっ、ご丁寧にどうも。ミカエル…様?」
「ふふっ、呼び捨てで大丈夫ですよ。」
「えっと…それじゃあミカエルさんで。」
あれから数十分後。
イオへの説教が終わったのか、俺は天使空間を解いたミカエルさんとテーブルを挟んで対面している。
夏弥さんも上司?であるミカエルさんが来たからなのか、先程と違って姿勢を正して正座して座っている。
一方でイオはどうしてるかと言うと…。
「ぽへ〜…。」
ミカエルさんの説教が効いたのか、天使空間が解けた時と変わらない場所で放心して床に座っている。
一体どんな説教を受けたのか分からないが、気のせいかイオの魂が抜けてる様な気がしないでもない。
「いきなり訪問して申し訳ありません。先日は突然イオが現れてビックリしたでしょう?おそらく天使を見たのも初めてだと思うのですが…。」
「え、えっと…そうですね…。天使は空想上の存在だと思っていたので、イオに天使の羽を見せられるまでは本当に天使なのか疑ってました。」
「ふふ…。初めて天使を見た人はコスプレか何かと疑うか、すぐに信じて興奮するかのどちらかの反応をしますからね。まあ、最近は無反応の人も増えて来ていますが。」
えっ、無反応の人もいるのか?
天使が現れて無反応とか相当度胸があるのかな…。仮に信じてなくても無反応はないだろうし。
「無反応の人は、過労で精神が摩耗して反応する元気が無いみたいで…。今の下界では限界まで働くのが美徳になっているのでしょうか。少々心配です。」
違った、ただ働き過ぎで反応出来ないだけだった。
ミカエルさんは頬に手を当てて困った顔でため息を吐いた。
すみません、真面目な国民性と同調圧力で帰りたくても帰れないんです…。
「友樹君も仕事を頑張っている様ですが、あまり無理は駄目ですよ?無理して体を壊しては元も子もないですから。」
「あっ、はい。気をつけます。」
「それに友樹君は頻繁に残業をしているので、過労で倒れてしまわないか心配です。食生活も杜撰で、栄養も偏っているようですし。一応昨日からはイオが料理をして少しはマシになったようですが。」
「あ、あはは…。」
イオの時も思ったけど、初対面の人に自分の事を色々知られてるの普通に怖いんだけど。何でミカエルさんは、イオが来る前の事まで平然と把握してるんだよ。
一体天使の情報網はどうなってるんだ?食生活みたいな細かいことまで知られてるってなると、俺のプライベートな部分は全部知られてるって思って良いのかな?正直恐怖しかないけど。
「あ、あの〜…それで今日は何のご用で…?」
「ああ、そうでした。今日は友樹君に用があって来たんです。」
「用…ですか?俺に?」
何だろう、あの大天使ミカエルが俺に一体何の用事が…。
「今回のイオの件…本当に申し訳ありませんでした。」
そう言うとミカエルさんは頭を下げた。
「えっ、ちょっ!」
「ミカエル様っ!?」
ミカエルさんのいきなりの行動に俺と夏弥さんはビックリして声を上げた。
ミカエルさんがイオの兄だって言うのは分かったし、恐らく保護者のような立場だからイオのやらかしに対して被害者の俺に謝罪するのは分かるけど、あの超有名な大天使ミカエルに頭を下げられるのは…なんか凄い危ない気がするっ!!被害者はこっちだけども!
「ミ、ミカエルさん!頭を上げてください!」
「いえ、そういう訳にはいきません。今回の件は全てイオに非があります。許していただくまで頭を上げる事は出来ません。」
「わ、わかりました!許します!許しますので頭を上げて下さい!」
「そうですか、わかりました。」
俺が許すと口にした途端、ミカエルさんは下げていた頭をスッと上げた。
あ、あれ?随分とあっさり止めたな。
いや、別にいいんだけどね?俺は昨日イオに謝られた時から許していたからさ。
「ところで友樹君、謝罪を受け入れていただいた後で図々しいとは承知の上ですが、私のお願いを聞いていただいてよろしいでしょうか?」
「な、何でしょう。」
ミカエルさんの言葉に少し身構えてしまう。
まさかミカエルさんまで、俺に結婚しろって変なことしないよな…?
大丈夫だとは思うけど、イオの兄だけあってかどこか強引な雰囲気を感じちゃうんだよなぁ。
いくらミカエルさんが凄い天使といえども、変なお願いなら断りたい。
「そこまで身構えなくても大丈夫ですよ。本当にちょっとしたお願いなので。」
ミカエルさんは和かに笑っているけど…大丈夫だよな?
「…はっ!?あ、あれ?ボク様はいったい…。」
数十分後、放心状態だったイオが目を覚ましたみたいだ。
キョロキョロと周りを見渡すイオ。
そうすれば必然と俺達に気づく事になる。
「えっ…な、何してるの兄様!?」
イオが目にしたのは、俺の隣に座って頭を下げているミカエルさんの姿だ。
「本当に申し訳ございませんでした…!何卒…!何卒お許しください…!」
「…残念ですが、許す事は出来ません。」
イオがこの光景を見て絶句してるのが分かる。
それはそうだろう。尊敬して慕っている兄が頭を下げて謝ってる光景は、あまり見たく無いだろうしな。
それも原因が自分だと分かっているから、イオのショックも大きい物だろうし。
少なくとも俺は自分が原因で親が頭を下げていたら、自分を責める自信があるし。
さて…なぜ今こんな状況になってるのかと言うと、これがミカエルさんのお願いだからだ。
ミカエルさんの考えだと、イオが目を覚ます→イオにミカエルさんが俺に謝っている光景を見せる→イオも責任を感じて一緒に謝ってくる→俺が許す→イオに今後同じ事をさせないとミカエルさんに誓わせる…といった流れにしたいらしい。
なんでもミカエルさんが言うには、天使にとって何かを誓うという行為は物凄い重要な行為らしいから、今の内にイオに今後洗脳などは使わないと誓わせるのが必要とのことだ。
「な、なんで!?友樹はボク様の事を許してくれたんじゃないの!?」
「確かにあの場では許してあげようと思ったけど…よくよく考えたらさ、一歩間違えたら取り返しのつかない事が起きていたと考えたら、やっぱり簡単に許すことが出来ないと思ったんだよ。」
「そ、そんな…。」
うーん…ミカエルさんの作戦とはいえ、正直イオみたいな小さな子が泣きそうになっている姿を見るのはあまりいい気分じゃないよなぁ。
いくらイオが悪いって言っても、やっぱり子供の泣き顔はあまり見たく無いし。
けどこれでイオが反省して催眠とかをしないようになるなら…と、自分に言い聞かせておこう。
「イオ、ミカエル様はお前の為を想ってやってくれてんだぞ。お前が催眠なんて強引な事をしなかったらミカエル様が頭を下げる必要なんて無かったんだから。しっかり反省しろよ。」
「気にする事はありませんよ。イオの為なら謝罪など苦もないですから。」
「ボク様の…ため?」
夏弥さんがイオを責めるように言い、逆にミカエルさんはイオに向かって微笑みながら言った。そんなミカエルさんを、イオは涙を浮かべながら見ている。
その光景はまさに美しい兄弟愛を表しているようだ。さらに二人とも美人だからまるで一つの絵画を見ているような気分になってくる。
…あれ?そうなると俺と夏弥さんって悪者にならない?もしかしてミカエルさん自分の株を上げる為に俺達を悪者にしてる?
「に、兄様っ!!」
イオは立ち上がると、ミカエルさんに駆け寄った。
…まあ少し思う所はあるけれど、あとはイオも一緒に謝ってきたら俺がそれを許して、イオがミカエルさんに今後は強硬手段を取らないと約束すれば、晴れて作戦成功だな。
俺がそんな事を考えていると、イオがミカエルさんのところに到着した。
「そりゃ!!」
イオはミカエルさんの頭に手を置くと、頭を下げていたミカエルさんの頭を思いっきり床に叩きつけた。
「???」
んっ?えっ、ちょっ、はっ?
いきなりの事に言葉が出てこないんだけど。
「ほら兄様!謝るならちゃんと額は床に擦り付けないと誠意が伝わらないよ!いや、いっその事服を脱いでよ兄様!全裸土下座は一番誠意のある謝罪だって本で読んだよ!!」
イオはミカエルさんの頭を床に押し付けながら、同時に服を引っ張って脱がそうとしている。
ていうか、普段どんな本を読んでんだよ!絶対普通の本じゃ無いだろ!?
「いやいやいや!!なにやってんの!?」
「このバカっ!ミカエル様に失礼だろうが!!」
状況を理解し始めた俺と夏弥さんは止めるが、イオはキョトンとした顔でこちらを見た。
「えっ?だって兄様が謝ってるって事は、友樹は昨日のボク様の謝罪に満足してないって事だよね?それならボク様以上の謝罪を兄様にはしてもらわないと!!大丈夫っ!ボク様の為って言ってるし、友樹の満足する謝罪を兄様はしてくれるよっ!!」
イオはウインクをしながら輝くような笑顔で言っているが、未だにミカエルさんの頭を押さえているから、凄い異質な光景になっている。
ていうかミカエルさんの頭を押さえるのをやめなさい!
「もういいから!もう謝らなくていいから!とりあえずミカエルさんの頭から手を離せよ!」
「やだっ!」
「はぁっ!?」
「ボク様はみんなの前で土下座までしたんだよ!?それも路上で!硬い地面の上でさ!もうこの際兄様でもいいから、ボク様以上の醜態を晒してほしい!ボク様だけ醜態晒すのは不公平だ!!」
こ、こいつ…ミカエルさんに俺への謝罪のための土下座じゃなくて、自分のための土下座をさせようとしてる。
本当に悪い事したって思ってるんだよな?なんだか昨日の謝罪が本当なのかも怪しくなってきたぞ。
「わかったら止めないでよ友樹!」
「…イオ。」
俺がイオの事を疑っていると、ミカエルさんが自分の頭を押さえているイオの腕を掴んで自分の頭から離させると、顔を上げてイオを見た。
あっ…やばい、物凄く怒ってる。口は笑ってるけど目が全然笑ってない。よく見たら口角もピクピクと引き攣ってるし、こころなしか額に青筋も立ってる気がする。
「あ、あれ?兄様?」
イオもそんなミカエルさんの顔を見て只事では無いと感じたのか、引き攣った笑いを浮かべている。なんだったらミカエルさんから逃げようとしてるのか、イオは腕を振ってミカエルの手を離そうとしてるし。
しかしミカエルさんは、イオの手を掴んだまま無言で立ち上がると、青筋を浮かべた笑顔でイオに詰め寄る。
「あ、あはは。や、やだなぁ兄様ったら…今のは冗談だよ、冗談!ボク様が尊敬する兄様に土下座の強要なんて本気でする訳ないじゃんか〜。服を脱がそうとしたのも行き過ぎた冗談っていうか…ね?」
「…。」
詰め寄るミカエルさん。そんなミカエルさんから逃げるように後ずさるイオ。だけどここは部屋の中、当然部屋には壁があるわけで…。
色々言い訳をしていたイオも、とうとう壁に追い詰められた。
「お、怒ってるの兄様?怒ってるなら怒ってるって言って!!お願いだから無言で詰め寄ってこないで!!」
「…。」
「に、兄様!?ちょっと待っ」
あっ、またミカエルさんが出した白い球体に2人とも包まれた。
まさかこんな短時間に2回も見る事になるなんて思わなかったなぁ…理由が理由なだけに喜べないけど。
でもまあ、これなら確かに夏弥さんが慣れるって言ってたのがわかるかもしれない。
あまりにイオのやらかしの頻度が高すぎるから、嫌でも騒がしいのに慣れる。
「…しょうがねぇ、また待つか。」
「…ですね。」
夏弥さんはため息を吐いて姿勢を崩した。
俺は立ち上がって台所に向かうと、冷蔵庫からお茶のピッチャーを持ってくると、夏弥さんと自分の分のコップに注いだ。
「おっ、悪いな。」
そう言って夏弥さんは、お茶を一口飲むと再度ため息を吐いた。
「イオの良い所は、やらかしたらちゃんと痛い目を見る所だな。」
それは良い所って言えるんだろうか。
まあ、何もお咎め無しよりかは良いのか?
「やっぱり何回もやらかしてるんですね。」
「ああ…イオは出会った頃から問題ばかり起こすからな。もう何回やらかしているのか考えるのも止めたよ。」
そんなにか…でもイオと出会って3日の俺でさえ既に2回やらかしに巻き込まれてるし、俺より長くイオと一緒にいるだろう夏弥さんは考えるのも嫌になるくらい巻き込まれてるんだろうな。
俺がそんな事を考えていると、夏弥さんは死んだ目で宙を見上げた。
「逆に悪い所は、反省せずにやらかしを繰り返す所だな…。」
「…。」
そりゃ反省せずに何度も問題を起こしてれば、次第に慣れてくるか。
…というか他人事みたいに言ってるけど、そのイオの問題を起こす性格が今後は俺にも降りかかってくるって事だよな。
頼むからとんでもない事を引き起こして、それに俺を巻き込まないで欲しい。
俺は死んだ目の夏弥さんを見て、少し憂鬱な気分になった。




