お説教の時間です!!(後編)
=イオ視点=
「今友樹に教えられる天使の事についてはこれくらいかな。あとはその時に必要なら教えていくから安心してね!」
ボク様は友樹の胸に後頭部をグリグリと押し付けながら言う。
ふっふっふっ…昨日はみんなの前で土下座する事になったけれど、とりあえず兄様に報告される事は避けれたし、あとは初心に戻って友樹の好感度を稼ぎつつボク様のお願いを聞いてもらう事にしよう。
こうやって太陽系一可愛いボク様が身体的接触をしていけば友樹もどんどんボク様に心を許してくるだろうし、そこからお願いを聞いて貰っても遅くはない筈。
むふふ…さすがボク様、たまに自分の才能が怖くなっちゃうね。
ボク様が満足気に友樹を見上げていると、チャイムが鳴り響いた。
「あれ?今日は他に誰かが来るとは聞いてないけど…友樹、今日は誰かが遊びに来る予定とかあった?」
琴春達の誰かが来たとか?いや、それなら夏弥が後で誰か来るとか言う筈だし、夏弥が黙っておくメリットも無いしなー。
なら友樹の友達?事前に貰った友樹の情報では、ここ数年はプライベートで友達と遊んだって記録は無かったけど…。
「いや、予定とかは何も無いはずだけど…。」
「宅配かな?ちょっと出てくるねー。」
ボク様は友樹から離れて玄関に向かう。
玄関まで数メートルまで来た時、扉越しに見覚えのある天使の気配を感じる。
この気配はもしかしてっ…!!
「兄様っ!?」
ボク様が玄関の扉を開けると、そこには3対6枚の羽を持ち、輝く金髪のロングヘアーを靡かせる眼鏡をかけた美人の天使がいた。
そうーーボク様の兄である熾天使ミカエルだ。
「3日ぶりですね、イオ。元気にしてましたか?」
兄様は微笑みながらボク様を見る。
「兄様ー!!」
ボク様は兄様に思いっきり抱きつく。
やったー!兄様だー!兄様はボク様が生まれ直した頃から、いっぱい甘やかしてくれたから大好きだ!
ボク様のお願いを聞いてくれるし、ボク様が呼んだらすぐに来てくれるしね!
まあ兄様の説教は、魂に直接天使の力をぶつけてくるから大っ嫌いだけど。
「ふふっ。イオがちゃんと役目を頑張っているのか様子を見に来ましたよ。」
「あははっ!まだ3日目だから、そんなに変わらないよー!」
兄様はボク様を抱き上げて高い高いする。
大好きな兄様に高い高いされて、ボク様の顔も自然と笑顔になる。
やっぱり兄様に抱き上げられるのは楽しいなぁ!他の智天使は呆れて見てくる事があるけれど、兄弟のスキンシップなんだからこれくらいは良いでしょ!
「可愛くて大切なイオの事ですから、いつも気になっていますよ。それが兄心と言うものです。」
「えへへ!兄心なら仕方ないね!」
いやー、下界に落とされてからボク様を甘やかしてくれる人がいなかったから、兄様の存在は助かるね!
やっぱり可愛いボク様を甘やかしてくれる存在がいないと、ボク様のテンションも上がらないよっ!
ボク様がお願いして可愛いって言ってもらうのも良いけど、やっぱり相手が自発的に言ってくれた方が満足度も違うしね!
ボク様は兄様に高い高いされながら、自己肯定感を上げていく。
「ところでイオーー昨日、福岡友樹君に催眠をかけたと報告が来ていましたが?」
「…。」
兄様の一言にボク様は笑顔のまま停止する。
「それに自信の可愛さを悪用して、無銭飲食もしていますよね?」
兄様にそう言われた瞬間、ボク様は兄様の眼鏡を奪い取った。
「あっ!?」
兄様がビックリしてボク様を抱き上げている力が弱くなったの見計らって、ボク様は素早く兄様の手から抜け出して家の中に入り、玄関の扉を閉めて鍵をかけると、急いで2人がいる部屋まで走る。
なんで友樹に催眠をかけた事を兄様が知ってるのさ!更にクレープ屋の人間にタダでクレープを貰った事も知ってるし!
誰だ兄様にチクったのは!!
真面目な夏弥か三秋か!?それともボク様に対しては容赦のない冬音か!?まさかボク様に従順な琴春じゃないよね!?
とりあえず鍵はかけたけど、天使である兄様は壁をすり抜けられるから時間稼ぎにもならない!
兄様が来るまでに、友樹に合意の上で催眠をかけた事にしてもらって、兄様の説教を回避しないと!
「2人とも!敵襲だよ、敵襲!防衛準備をしてっ!」
ボク様が座って話していたらしい2人にそう言うと、2人は呆れた目でボク様を見てきた。
「なんで呆れた目でボク様を見てくるのさ!」
「いや、連日騒がしいなーって思って。」
「お前、また何か変な事したんじゃねぇだろうな?」
「変な事なんて…!!」
夏弥にそう言われて、ボク様の脳内に昨日の記憶がよぎる。
…した結果、兄様が来ているから何も言えないけどさぁ!!
「とりあえず友樹っ!そろそろ兄様が来るから、兄様が来たらボク様に話を合わせて!」
「は?話を合わせるって…それにイオのお兄さんが来たのか?」
友樹はボク様の兄が来たと知って、玄関に向かおうと思ったのか立ち上がった。
いや、出迎えする前にボク様の作戦を聞いて欲しいんだけど!
「こらっ!イオ、眼鏡を返しなさい。」
やばいっ!兄様が部屋の中にまで入って来た!
=友樹視点=
なんかイオのお兄さんが来たらしいから失礼のない様に出迎えようとしたら、玄関の方から凄い美人のお姉さんが来た。
イオがお兄さんが来たと言ってたけど、もしかしてあの人がそうなのか?
えっ…てことはあの人男なのか!?
天使の法衣を着ているからパッと見じゃスレンダーなお姉さんにしか見えなかった…。
イオもそうだけど、この兄弟性別詐欺だろ。
どう見ても女の人にしか見えないし。
「聞いてますか、イオ。」
「うえっ!?」
イオのお兄さんが、目を細めて眉を顰めながら俺の肩を掴んで顔を近づけてきた。
えっ…!ちょっ…!?男と分かっても、こんな美人なお姉さんに顔を近づかれるとドキドキするんだけど!?
至近距離まで顔を近づけられて、自分の顔に熱が集まるのがわかる。
俺とイオを見間違えるって、もしかしてイオのお兄さんって目が悪いのか?
さっき眼鏡を返せって言ってたし。
「あ、あの。俺、イオじゃないです…。」
「えっ?」
イオのお兄さんは確認の為か、目を細めて更に顔を近づけてきた。
いやっ、近いっ!もう顔の距離が1cmぐらいしかないですけどっ!?
俺の顔が更に赤くなっていく。
間近でイオのお兄さんの顔を見てると、顔の造形がいかに美しいのか良く分かる。
顔はシミ一つないくらい色白で、まつ毛も長いし、唇もプルプルしてそうだし…いや何言ってんだ俺は!!相手は男だぞ!?
「おや、すみませんでした。」
イオのお兄さんは一言謝ると顔を離して、俺の肩を掴んでいた手も離す。
やばい…男と分かっても、未だに心臓がドキドキしてる…。
「ミカエル様。イオはこっちにいますよ。」
「あっ!夏弥の馬鹿っ!」
「なるほど、こちらでしたか。」
いつの間にかイオの近くにいた夏弥さんがイオのお兄さんに声をかけると、イオのお兄さんは一瞬でイオを捕まえた。
それにしても夏弥さん、今イオのお兄さんの事ミカエルって言った?
えっ、もしかしてミカエルがイオのお兄さんなのか?あの超有名な天使が?
「さて、イオ。説教の時間ですよ。」
イオのお兄さんーーミカエルさんは、イオから眼鏡を取り返すと、和かに笑いながらイオに告げた。
笑っているミカエルさんとは対照的に、イオは顔を真っ青にしながら震えている。
「ま、待って兄様。勘違いしてると思うけど、催眠は友樹の合意の上でかけたんだよ?無理矢理じゃないんだよ?そうだよね!友樹!」
「そうなのですか?福岡友樹君。」
「えっ?全然同意して無かったですけど。」
「友樹の馬鹿!ボク様に話を合わせてって言ったじゃん!」
ごめんな、イオ。
流石に超有名な大天使であるミカエルさんに嘘をつく度胸は俺には無かったよ。
あと俺は話を合わせる事に同意もしてないしな。
諦めて怒られてくれ。
「はぁ…この期に及んでまだ誤魔化そうとするなんて…。そんなに説教の時間を長くして欲しい様ですね。」
「ま、待って兄様。ボク様の話を…。」
「もう大丈夫ですよ、イオ。イオが下界に落とされてから何があったのか、イオの記憶を見たら全て分かるので。」
ミカエルさんがそう言ってイオの肩を掴むと、イオとミカエルさんは白い球体に包まれた。
「うおっ!?何これ!」
「これは上位天使だけが使える『天使空間』だな。」
夏弥さんが俺の隣に来て、そう教えてくれた。
て、『天使空間』?天使が使える空間って事なのか?
名前がありのままな気がするけど、初めて魔法みたいな物をこの目で見た。
催眠も魔法みたいな物だけど、かけられた俺からしてみれば、いつの間にか始まって終わったから全然魔法を見たって感じがしなかったんだよな。
「な、何か空間を生み出す魔法みたいな物なんですか?空間を操るなんて、凄い上位者って感じがしますね。」
「まあ実際上位者だからな。俺もイオに聞いただけで詳しくは知らねぇけど、中では時間の流れが違うらしい。なんでも、外での1秒を中では1時間に出来たり、逆に外での1時間を中では1秒に出来たり…その辺りは天使空間を作った天使が決めるらしいけど。」
時間の流れを変える事が出来る空間って事?
それってもの凄い魔法じゃないか?
魔法ってだけでも一般人の俺からしたら凄いけどさ。
「説教って言ってたし、少し時間がかかるだろうから座って待つか。」
そう言って夏弥さんは、テーブルの前に座った。
な、なんか夏弥さん慣れてるな。
今までも結構こういうことはあったりするのかな。
そのまま俺もつられて座ったけど、正直あの球体が気になる。
今さっきは魔法に驚いたけど、落ち着いて考えると今いるのは俺の家で、更に俺の家は賃貸だから、あまり魔法とか使って欲しくないなぁ。
どこかが壊れたりとかしたら修理費がかかるし。




