大天使の襲来です!!(後編)
=友樹視点=
「はぁ…本当に申し訳ありませんでした。せっかく協力していただいたのに、みっともない所を見せてしまって…。」
「い、いえいえ!俺もまさか、イオがあんな行動を取るとは思わなかったので!」
「…そう言っていただけて、ありがたい限りです。」
ミカエルさんは頬に手を当てて大きな溜息を吐いた。
いやー…流石にイオがあんな行動をするなんて、誰も予想出来ないって。
結局30分ぐらいでミカエルさんは天使空間を解いて、出てきた後は俺と夏弥さんと一緒にテーブルを囲んでいる。
イオはどうなったかというと…俺はイオの方に視線を移す。
イオは最初にミカエルさんに説教を受けた時と同じ体勢のまま脱力して床に座っているが、先程と違って燃え尽きたように真っ白になっていて、気のせいなのか口から飛び出ている魂までも燃え尽きてる気がする。
自業自得とはいえ少し可哀想な気もするけど…そこまでミカエルさんの説教って凄いのか?
俺がイオを見ていると、ミカエルは咳払いをして話し始めた。
「今回はイオの様子を見に来たのもありますが、友樹君にも用事がありまして。友樹くんに三つほど説明に来たのです。」
「えっ?お、俺への説明ですか?」
確かに知りたい事はいっぱいあるけど。そもそもなんでそこまで俺に結婚させたいのかも不明だし、その為にイオみたいな上位天使が来るのも不明だ。
上位天使が対応しなきゃいけない程、俺の結婚って重要なのか?
はっ!!それとももしかして俺の子供は凄い力を持って生まれてきて、将来的に天使を引き連れて悪魔と戦う使命があるとか!?
漫画とかでもよく見る展開だし、結婚を望まれてるって事は俺の子供に用がある可能性が高い!天使が存在するなら悪魔が存在しても可笑しくは無いはず!
そのパターンだと俺は主人公の親ポジだから、あまり活躍は出来ないかもしれないけど…可愛いお嫁さんや子供に恵まれて、さらに漫画みたいな体験が出来るならヨシ!!
「まずは、イオの役目については聞いていますか?」
「えっと…俺を結婚まで導くのがイオの役目って事は聞いてます。」
「その通りです。まあ、それはついでなんですけど。」
「ついでっ!?」
えっ?俺の結婚ってついでで済まされる程度だったの?かなりショックなんだけど?
というか俺の結婚がついでなら、ますますイオが来た意味が分からないんだけど。
「イオ本人には言っていませんが、本当の狙いはイオが智天使の長として立派に成長する事が狙いです。」
「あっ、そうなんですね。」
うん、さっきまで俺の子供に用があるって思ってたのは完全に的外れな予測だった訳ね。普通に恥ずかしい。
でも、イオの成長が目的なら、いよいよ俺は巻き込まれただけって事になるよなぁ…えっ、どうしよう。今から辞退とか出来ないかな。だって俺関係ないんだもん。
「えっと…ミカエル様。それならどうして友樹がイオの役目の対象になったのでしょうか?こう言ってはなんですけど、友樹に特別な何かがあるようには思えないのですが…。」
夏弥さんが右手を上げながら、言いづらそうにミカエルさんに意見する。
夏弥さんの言う通りだ。なんで俺が対象になったのかを知りたい。俺じゃないといけない理由ってなんだ?
イオの成長を促すことが目的なら、何も普通の会社員の俺じゃなくてもいい筈だ。それこそ学生を対象にした方が自由な時間も多いから、成長の為に色々な人と会ったり、いろんなイベント事にも参加する機会が多い筈。
それにミカエルさんも最初に言ってたけど、よりにもよって残業も多い社会人の俺を対象する意味って無くないか?
俺は夏弥さんの言った内容に、内心同意する。
…あと何気に夏弥さんに失礼な事を言われた。確かに俺自身、何か特別な何かを持ってるとは思わないけど、なにも俺のいる前で言わなくても良くない?
「友樹さんが選ばれた理由、それは…。」
俺と夏弥さんは、目を瞑って勿体ぶるように間を溜めるミカエルさんを、生唾を飲んで見守る。
「ズバリ!友樹君の結婚する確率が物凄く低いからです!!」
「…へっ?」
結婚する確率が物凄く低い…?俺の…?
「友樹君の結婚する確率は、それこそ20回人生をやり直して漸く1回結婚出来るかどうかという確率です。これは他の人間ではあり得ない確率です!特別な事ですよ!」
…いらない。そんな特別求めてない。
特別っていうのはもっとこう…1億人に1人にしか無いとんでもない才能があったり、憧れられたりビックリされるような物なんじゃないの?
いや、結婚出来なさ過ぎてビックリはされるだろうけど。
「あ、あのー…なんか凄い才能が眠ってたりとかは…。」
俺は一縷の望みをかけてミカエルさんに問いかけるが、ミカエルさんは可哀想なものを見る目で俺を見てくる。
やめて、そんな目で俺を見ないで。惨めになってくるから。
「…申し訳ありません。才能面で特別秀でているところは特には…。敢えて言うなら高い善性を持っているところですかね。…あと流され易いところ。」
えっ?最後小さな声で何か言わなかった?ちょっと聞こえなかったんだけど。
「ミカエル様…。」
「ふふっ。何ですか、夏弥君。」
「…いえ、何でもありません。」
えっ、なんか夏弥さんまで可哀想なものを見る目で見てくるんだけど。
今の2人のやり取りで一体何があったんだ?俺に関係する事なら教えて欲しい。なんか怖いから。
「そういう理由もあって、イオを成長させる為に難易度の高い人物をターゲットにした次第です。」
「…なるほど。」
うん。散々な言われようだけど、今は気にしない事にしよう。これ以上深く聞いて結婚出来ない理由とか聞かされても嫌だし。
それに良い意味ではなくても難易度の高い人物と言われると、凄い人物みたいで少し嬉しくなってしまう自分がいる。いや、まったく良い意味ではないけどね?
「次に、イオの権能については聞いていますか?」
「えっと…たしか記憶にある物の再現でしたっけ。」
「正式には『知識にある事象の再現や物の想像』ですね。」
ちょっと違ったか。なんかチートみたいな能力だっていうのは覚えてたんだけど。
「なんか凄い汎用性があって強そうな能力ですけど、天使ってみんなそんな感じなんですか?」
「そうですねぇ。上位天使は強力な権能を持っている方は多いですが、汎用性も同時に持ち合わせている権能となると、イオの権能はトップクラスかもしれませんね。」
ミカエルさんは顎に指を当てて考え込む。
にしてもやっぱりイオの権能は最強かは分からないが、かなり上位クラスの権能みたいだな。
あの自由奔放なイオが持ってると考えると物凄く不安が大きいけど。
漫画とかラノベとかでも、こういうふわっとした名前の能力って汎用性が高いイメージあるし。なんて言うんだろう…使う本人のイメージ次第で何でも出来るみたいな?能力の解釈次第でチートに化ける可能性があるって考えると、事象の再現とかの概念系は最強クラスのキャラが持ってるイメージがある。
…それをイオが持ってるのは、やっぱり嫌だな。だってそれが俺に向く可能性が高いし。なんなら一回向けられたし。
「ところで『二つ名』に関してはイオから聞きましたか?」
「『二つ名』ですか?いえ、それに関しては聞いていなかったかと思います。」
俺がイオの厄介さに頭を悩ませていると、ミカエルさんが話を進める。
二つ名か…小説で見たみたいに『剣聖』とか『閃光』とか、かっこいい二つ名って良いよなぁ。
イオの場合『唯我独尊』とか『傍若無人』が似合ってるかな。やりたい放題してるし。
「天使にとって二つ名とは、大いなる父に特別目をかけられている証明と言えます。更に、二つ名を持つ事により特別な力を授かる事が出来るのです。そうなれば、権能がもう一つあるのと一緒ですからね。その分出来ることも増えるんですよ。」
「それは…凄いですね。」
という事は俺なりに分かりやすくまとめると、普通の天使はゲームで言うスキルみたいな物を持ってないけど上位天使はスキルを一個必ず持っていて、更に二つ名を持っていれば追加で一つのスキルが貰えるから、二つのスキルを持ってることになる。
色々なラノベを見てる身としては、スキルが二つって聞くと少なく聞こえるけど、一つのスキルが強力って考えると俺が考えてるよりスキルを持ってるってのは結構重要なんだな。
まあ特別な能力を持ってるってだけで人間から見ると天使は別格って感じがするけど。
「イオも二つ名を持ってるんですか?」
「ええ。イオの二つ名は『神の美』と言います。」
「『神の美』…。」
うん…たしかにイオを見てれば自分の容姿に絶対的な自信を持ってるっぽいし、二つ名に相応しい美貌をしてるから分かる。
でも『神の美』か…。漫画とかラノベだと、美に関する能力って洗脳とか魅了ってイメージがあるけど、イオの追加の能力もそんな感じなのか?…もしかしてイオが来た時に、俺に結婚をする様にお願いしてきたのも二つ名による権能が関係してるのかな?もしそうなら、イオが初対面の相手をいきなり洗脳してくるヤバイ奴になるんだけど。
「あの…イオが俺の所に初めて来た日に、俺に誰でもいいから結婚する様にお願いしてきたんですけど…それもイオの二つ名由来の権能に関係してるんでしょうか?」
「ああ…やっぱり初日からお願いされたのですね。」
ああー!申し訳なさそうにしているミカエルさんの様子を見る限り、やっぱり『神の美』って二つ名の権能はヤバい能力じゃんか!
それに、ミカエルさんがイオにお願いされたのですねって言ってるところを見るに、多分だけどイオにお願いされる事自体が駄目な気がする!
「イオの二つ名である『神の美』の権能。その効果は『何よりも優先される』なんです。」
「『何よりも優先される』…ですか。」
おいおい、また随分と曖昧な効果だな。
いったい何が優先されるのか…イオの性格的とミカエルさんがさっき言った事を考えると、イオのお願いは何よりも優先されるって事か?
でも待てよ?俺はイオのお願いを断れたし、そこまで強制力はないのか?
たしかに自分の言ったことを優先して聞いて貰えるのは凄いと思うけど、そもそもお願いを聞いて貰えない相手だと意味なさそうだし…。
てっきり相手を魅了して支配するぐらいの効果があるのかと思った。
「ふふっ。おそらく友樹君が思っている以上に強力な権能ですよ?」
「えっ?顔に出てました?」
俺は手で自分の顔を触る。もしかして知らない内に変な顔してたかな?なんかこういうのって誰かに指摘されると恥ずかしいよな。
ミカエルさんは口に手を当てて、クスクスと笑いながら俺を見ている。
「す、すみません。別に強さを疑ってる訳ではなくて…。」
「大丈夫ですよ。『何よりも優先される』なんて能力聞かされても、範囲も効果も曖昧で強さが想像し辛いですからね。」
ミカエルさんは咳払いを一つして、真剣な顔で俺を見てきた。
「この権能は、イオの言う事やる事が全てにおいて優先されるのです。それこそ、命令された相手が死の間際にいたとしても、イオの命令を第一に考えてしまう程に。」
俺はあまりの事に絶句する。
ミカエルさんの言った事が本当なら、たとえ自分が死にかけていても優先順位が自分の命よりもイオを喜ばせる事の方が高くなるってことか。
それは殆ど洗脳と変わらないのでは?
「この権能は、催眠などの相手の思考や行動を強制させる類いとは別で、強制力はありませんが、誘引力が凄まじいのです。なので、洗脳というより誘導と言った方が近いですね。幸い、イオは他人にそこまで無茶なお願いはしないので、それだけが救いですね。それに、この権能には一応弱点もありますし。」
「弱点ですか?」
「はい。権能そのものを無効化する方法があるんです。」
「権能を無効化!?そ、そんな方法があるんですか!」
それは是非とも教えて欲しい!
俺には効き辛いのかもしれないけど、万が一のことを考えて無効化する術は知っておきたい。
それに、イオがもしかしたら無差別に権能を振り撒く時が来るかもしれないし、念の為の保険は必要だ。
「そ、それで、無効化する方法ってなんですか?」
「方法は至ってシンプルです。要するに魅了されなければいいだけなので、イオに対して可愛いや美しいなどの、いわゆる『正の感情』を持たなければ権能を無効化する事が可能なのです。」
…ミカエルさんは笑顔で言ってみせたけど、それは無理なのでは?
いや、人にはそれぞれ好みはあるけれど、例えばアイドルとかの容姿に自信がある人を見て、少しでも可愛いや格好いいと思わない人はいないんじゃないか?
基本的に第一印象は見た目で決まるって言われる程だし、イオの容姿は二つ名で『神の美』って言われる程に誰が見ても可愛いとか綺麗とかの評価になるだろうし…。実質無効化出来ないのでは?
「えっと…他に無効化する方法とかは…。」
「そうですねぇ。無効化は出来ませんが、本人が強力な力を持っているか、人間なら強力な加護を持っているならある程度は軽減出来ますよ。」
あっ、無効化は出来なくても軽減出来る方法はあるのか。
…ちょっと待てよ?今ミカエルさんは強力な力を持ってる人は軽減出来るって言ったよな?という事は、イオの事を可愛いと思いながらもお願いを断れた俺ってなんなんだ?さっきは才能面では秀でているところは無いって言われたけど、才能は無くても特別な力はあるみたいな言葉遊びだったり…!
「あのー…ミカエルさん?初日に結婚するようにイオにお願いされたって、俺さっき言いましたよね?となると、そのお願いを断れた俺ってた、やっぱり何か隠された力とかって…。」
俺はおずおずと手を上げながら、ミカエルさんを期待が籠った目で見る。
「あっ、それは無いですね。」
「…ですよねー。」
ミカエルさんの返事に、俺は上げていた手を下ろす。
いや分かってはいたよ?言葉遊びとかじゃなくて、そのままの意味だって事くらいはさ。
でも諦めきれないじゃん!しつこいだろうけど、ワンチャン特別な力が隠されていたりしないかなって…非現実的な存在が向こうからやって来たら、自分にも非現実的な力が隠されてるって思ってもおかしく無いじゃんか!
「それじゃあ俺がイオのお願いを断れた理由って他にありますかね?」
「それは私が友樹君に加護を与えたからだと思います。」
「えっ?」
か、加護?いつの間に加護なんて与えられたんだ?俺のイメージだと、加護って対面してから与えるイメージあるんだけど。なんか教会みたいな場所で?跪いた俺の頭に手を置いて、一種の儀式みたいな感じ?でも実際は俺のイメージ通りじゃないのか?遠隔で加護を与えたって事だよな?多分。
「イオが友樹君に権能を使用することを見越して、あらかじめ友樹君には私の加護を与えておいたのです。イオが本気で友樹君のことを魅了しようとしない限りは私の加護で無効化できますので。」
「そ、そうだったんですね。」
じゃあミカエルさんの加護無しだと、今頃俺はその辺を歩いてる女性に求婚してたって事だよな。下手したらそのまま警察に逮捕コースもあった事を考えると、加護があって本当に良かったと心の底から思うよ。
…いや、ちょっと待てよ?俺ってイオに催眠かけられたよな?それは加護で防げなかったのか?俺の中では、魅了と催眠って同じ洗脳系の能力だと思ってたんだけど、天使の中では違うのかな。
「あの、でも俺ってイオに催眠かけられましたよね?」
「…あくまで私が与えた加護は『神の美』を防ぐ為の限定的な加護。まさか事象の再現を使用してまで無理矢理事を運ぶとは思いませんでした。」
俺がミカエルさんに聞くと、ミカエルさんは頬に手を当てて溜息を吐いた。ミカエルさんの言う通り、まさか天使が催眠をしてまで無理矢理目的を果たそうなんて普通は思わないよなぁ。
そこまで考えて、俺は新たな疑問に当たった。
「でも俺に言う事を聞かせたいなら、それこそ『神の美』の力で無理矢理も出来たんじゃないですか?さっきのミカエルさんの言った事が本当なら、イオが本気で魅了しようとしたらミカエルさんの加護でも防げないんですよね?」
そう、そうなのだ。
そもそも魅了出来る能力があって、さらに本気を出せば加護さえ突破出来るとなれば、態々催眠をかける必要が無いのでは?恐らく催眠の方が強制力が高く確実性は高いと思うが、イオがミカエルさんに説教された事を考えると、流石に天使であっても催眠で人を操るのは駄目な事なんだろう。
ミカエルさんは顔を上に上げて、顎に指を当て目を瞑って唸っている。
「これは推測になりますが、おそらく友樹君を本気で魅了して無理矢理言う事を聞かせようとした場合、万が一魅了が効き過ぎて友樹君がイオの事を本気で好きになってしまった場合の事を考えて、『神の美』の権能で言う事を聞かせるのを避けたのかもしれません。もし友樹君がイオを好きになってしまったら、結婚相手を探すどころじゃありませんからね。」
なるほどな。俺を結婚させる事が目的なのに、その俺がイオを好きになって結婚相手を探さなかったら意味無いしな。もし魅了された俺が、「イオと結婚したい!」「イオじゃ無いと嫌だ!」ってなった場合、イオの役目が失敗になる可能性があるならそれを避けるのも当然のことか。
でも、もし俺が魅了されてイオの事が好きになったなら、その時は魅了を解けばいい話なのでは?もしかして一度かけたら解けないのか?
「あの…魅了ってずっと続く物なんですか?てっきり効果時間みたいなのがあるのかと…。」
「基本的にはイオの見た目を好意的感じてる限りはずっとですね。」
ミカエルさんはあっけらかんと言い放った。
それだと意図的には解けないって事か。本当にミカエルさんの加護があって良かった…いや、そもそもイオが無理矢理事を進める性格じゃ無かったら心配する必要も無い事なんだけどさ。
俺が改めてイオの厄介さを認識していると、ミカエルさんは笑顔で手を叩いた。
「さて、一応これで友樹君に説明しておきたい事は終わりました。少々長くなってしまいましたね。」
「いえいえ!俺もイオの事について知らない事ばかりだったので助かりました!それで…その…最後に一つ聞いて良いですか?」
「はい?なんでしょうか。」
ミカエルさんはキョトンとした顔で俺を見る。
「ミカエルさんの目的は、イオを立派な智天使の長にする事なんですよね?その…なんで今のイオを智天使の長にしたのかなって…。失礼ですけど、今のイオは自分勝手で子供っぽいというか…。少なくとも誰かの上に立つ器じゃ無いと思うんですけど…。」
「ああ!そうですよね。疑問に感じますよね。」
ミカエルさんは合点がいった様子で手を合わせる。
まだイオと出会って3日だが、そんな俺でもイオの性格はリーダーとかには向いてないと思う。もし俺が部下の立場だとしたら、あの自分勝手な性格のイオと一緒に仕事したくは無いしな。
何か特別な理由がない限り、イオが成長した後の方が色々都合が良いと思うんだけど…。
そう考えている俺を、ミカエルさんは真剣な顔で見てくる。
「友樹君の言いたい事はごもっともです。イオ自身、まだ若く、色々と経験も足りていない状況なので。正直に言ってしまえば智天使の長どころか通常の智天使としても半人前です。しかし、これは私と前の智天使の長の勝手な期待なのですが、イオは他の智天使達を引っ張っていける才能があると考えています。」
ミカエルさんは未だに放心状態のイオを見る。
そんなミカエルさんにつられて、俺もイオを見る。
相変わらず真っ白のまま放心してるイオを見ても、やっぱりリーダーという器は無いように見えるけど、おそらくミカエルさんには俺に知り得ない何かがイオに見えているんだろう。
「…友樹君の事は巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っています。厚かましいお願いだとは分かっていますが、出来る限りでいいのです、私達に協力して貰えないでしょうか?」
ミカエルさんは身を乗り出してテーブルの上に置いてた俺の片手を握ってくると、申し訳なさそうな顔で俺を見てくる。
反射的にミカエルさんに握られた手を見てドキドキしてしまう。
ミ、ミカエルさんの手って、本当に大人の男性とは思えないくらいスベスベで柔らかいなぁ。
ま、まあたしかに?本来なら俺は関係ない立場だし、協力するメリットも正直無いと思うけど、ここまで頼まれて断わるのも逆に申し訳ないって言うか?
正直に言うと、天使と一緒に暮らすなんて漫画やアニメみたいで少しテンション上がるし、もしかしたら本当に漫画やアニメみたいな事が起きるかも知れないしな!あと、俺は不思議な能力が使える事を諦めた訳じゃ無いし、こういうのは後々能力に目覚めるっていうのも王道だもんな!
決して!!決してミカエルさんに手を握られたからって訳じゃ無いから!困ってる人を救うのは当然のことだから!!
「…わかりました。こんな俺で良いなら、いくらでも協力します!」
俺は自分の胸を叩いて、ミカエルさんの提案を受け入れる。するとミカエルさんは、顔を輝かせて笑顔を浮かべると、更に強い力で俺の手を握りしめてきた。
うーん…やっぱり美人の笑顔を見るとほっこりするなぁ…それが自分に向けられてると思うとちょっと気分も良くなる。
「本当ですか!ありがとうございます!友樹君!」
「…お前。」
うんうん!やっぱり人に感謝されるのって気持ちいいな!特にミカエルさんみたいな美人に感謝されると更に気分が良くなる。
何故かそんな俺を見て夏弥さんは呆れた目で見てくるんだけど、それは何でだろう?ミカエルさんのお願いを聞くのって、そんなに変な事なのかな?流石にミカエルさんもイオみたいな権能を持ってる訳じゃないよな?
「それではそろそろお暇させていただきますね。今日は突然失礼しました。」
ミカエルさんは俺から手を離すと立ち上がり、放心状態のイオの元に向かった。
ちょっと手を離されたのは残念だけど、しょうがないか。それにしてもミカエルさんの手、柔らかかったなぁ…本当に女性の手みたいだ。ミカエルさん、本当に男性なんだよな?
「ほら、イオ。早く起きなさい。」
「ふわっ!?」
ミカエルさんがイオを揺り起こすと、イオはハッとした感じで正気を取り戻した。
イオは周りをキョロキョロと見回して今の状況を確認すると、座ったまま後退りしてミカエルさんから離れる。
「に、兄様!?本当にボク様反省したからね!?もう土下座の強要なんてしないよ!?」
「それは分かりましたから。ほら、立ってください。行きますよ。」
ミカエルさんはイオに手を差し出す。
しかしイオはその手を掴まず、座ったままミカエルさんを見上げる。放心する程の説教を受けていたから、もしかして何かを警戒しているのかもしれない。
普通なら手を握っただけで何か出来るとも思わないけど…天使だからなぁ…。触れるだけでも俺の知らない何かを起こせても不思議じゃない。
「い、行く?行くってどこに?ま、まさか天界に帰れるの!?」
「そんな訳無いでしょう。謝罪に行くんですよ。」
「えっ?謝罪…?誰に?」
イオは天界に帰れると思って一瞬顔を明るくしたが、続くミカエルさんの言葉にキョトンとした顔になる。
それにしても謝罪に行くって…俺や糸島さん以外に誰かに迷惑でもかけたのか?もしかしてセフィロトの樹に放火したって言ってたから、その責任者とか?
いや、でもそれは天界を追放される前に済ませてる筈だろうし…。
俺が色々考えていると、ミカエルさんはため息を吐いて、呆れた顔でイオを見下ろす。
「貴方が権能を使って迷惑をかけた人達にですよ。全員は無理ですが、最低限お店の物をいただいた人達には謝罪と代金の支払いをするのが道理でしょう。」
「え゛っ…。」
イオは嫌そうな声を出しながら顔を顰める。
ていうか、やっぱり俺達以外の人にも迷惑かけてるじゃねーか!なにやってんだ!
万引き?いや、お店の人の好意でタダで貰ったって事か?どちらにしろイオのスキルで無理矢理貰った事には間違い無さそうだけど。
「で、でも!人間達の方からお金はいらないって言って来たんだよ!?その好意を無碍にするのは…!」
しかしイオは謝るのが嫌なのか、手をワタワタと振りながらミカエルさんに言い訳をする。
いいから素直に謝ってこいよ。どんだけ謝りたくないんだよ。
そんなイオをミカエルさんは顰めっ面で眺めると、差し出していた手でイオの首根っこを掴む。
「いいから行きますよ。」
「や、やだー!!助けて友樹ー!夏弥ー!ボク様のピンチだぞー!!」
イオは俺たちに助けを求めてくるが、俺たちはただ座って見送る。流石に今のイオを助けようとは思えないしな。さっさと迷惑かけた人達に謝ってこい。
そのままミカエルさんに引きずられて、イオは連れて行かれたが、最後玄関のドアが閉まる前に、「薄情者ー!!」ってイオの罵倒が飛んできたのは聞こえなかった事にしておこう。
「…まあ、なんだ。これから大変だと思うけど頑張れよ。」
「…はい。」
夏弥さんは頭を掻きながらバツが悪そうに言ってきた。
おそらくイオの厄介さを熟知しているであろう夏弥さんは、イオの面倒を俺に任せてしまう事を申し訳なく思ってるのかな?正直、夏弥さんが責任を感じる事では無いと思うけど…。
まあ…たぶん大丈夫でしょ…ミカエルさんに怒られたばかりだし、少しは大人しくなる筈…たぶん。
「それと少しは警戒心を持とうな。」
「えっ。」
俺って騙されやすそうに見えるのかな?警戒心は強い方だと思うけど。
夏弥さんの可哀想な人を見る目に少し疑問を感じた。




