↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/131

第93章 噛み合い始めた歯車


学園の夜は、静かだった。


昼間の騒ぎが嘘のように、

回廊には足音もなく、

灯りだけが等間隔に揺れている。


校長室では、三人が向かい合っていた。


校長。

副校長ミレーヌ。

そして、机の前に立つリュシア。


「――報告は、以上です」


淡々とした声だった。


事実だけを並べ、

推測と感情を、丁寧に切り分けている。


校長は、深く息を吐いた。


「やはり、か……」


副校長が静かに頷く。


「生徒が減っている」

「だが、誰が、いつ、どこへ行ったのか」

「それが、誰にも“分からない”」


「分からないのではなく」

「“分からなくさせられている”」


その言葉に、部屋の空気が一段重くなった。


⸻


校長は、机の引き出しから古い羊皮紙を取り出した。


「これは、学園創設時の記録だ」


広げられた文書には、

びっしりと細かい文字が並んでいる。


「この学園では、過去にも“事故”はあった」

「魔法暴走、研究失敗、記憶障害」


「だがな」


校長は、指で一行をなぞった。


「共通点がある」


リュシアが視線を落とす。


「……必ず、“記録が残っている”」


「そうだ」


副校長が続ける。


「どれほど不都合でも」

「どれほど恥ずべき失敗でも」


「学園は、“空白”を作らない」


「作らないように、作られている」


静寂。


「今回だけが、異常なのです」


リュシアは、はっきりと言った。


「記録があるのに、実体がない」

「実体があった痕跡があるのに、記録が揃いすぎている」


校長は、わずかに目を細めた。


「……誰かが、“帳尻を合わせている”」


「しかも」

副校長の声が低くなる。


「学園の内部構造を、よく知っている者だ」


⸻


その頃。


別の棟では、カイオンが一人、書架の間に立っていた。


積み上げられた帳簿。

履修表。

出席記録。


どれも、完璧だ。


完璧すぎる。


「……やっぱり、おかしい」


彼は小さく呟く。


欠席は、すべて“正当な理由”で処理されている。

転科。

一時休学。

外部研修。


だが。


「同じ週に」

「同じ理由が、こんなに重なる?」


ページをめくる手が、止まる。


「……違う」


「減ってるのは、“人数”じゃない」


「“存在感”だ」


名簿にはいる。

記録にも残る。

だが、誰の記憶にも残らない。


「……記憶操作だけじゃない」


「“周囲の認識”ごと、薄くされている」


背筋に、冷たいものが走った。


⸻


同じ時間。


フェリクスは、窓辺にもたれて夜の中庭を見下ろしていた。


隣には、アイリス。


珍しく、彼女は何も言わない。


「……なあ」


フェリクスが、ぽつりと呟く。


「スパイごっこ、楽しかったか?」


アイリスは、しばらく黙ってから答えた。


「……楽しかった」


「でも」


「途中から」

「“見ちゃいけないもの”を見てる気がした」


フェリクスは、目を伏せる。


「それでいい」


「それが、正常だ」


彼は、拳を握った。


「これ、ただの学園事件じゃない」


「“やり方”が、慣れすぎてる」


「失敗した時の逃げ道まで、用意されてる」


アイリスは、小さく震えた。


「……誰が、そんなことを」


フェリクスは、答えなかった。


代わりに、静かに言う。


「少なくとも」

「“一人”じゃない」


⸻


再び、校長室。


校長は、立ち上がった。


「――よし」


「方向は、見えた」


副校長が頷く。


「禁忌魔法の許可は、まだだが」

「それまで、手はある」


校長は、リュシアをまっすぐに見た。


「君たちの動きがなければ」

「我々は、まだ“平穏”の中にいた」


「感謝する」


リュシアは、少しだけ目を伏せた。


「……まだ、終わっていません」


「ええ」


副校長が、静かに答える。


「だが」


「“何が起きているか分からない”段階は、終わった」


校長は、低く宣言した。


「これは、事故ではない」


「そして」

「学園だけの問題でもない」


夜の学園は、相変わらず静かだった。


だが、その静けさはもう――

安心ではなく、嵐の前の静寂に変わっていた。


歯車は、確かに噛み合い始めている。


次に動くのが誰かは、

もう時間の問題だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。