第85章 止まらないという証明
副校長は、机の上に置かれた書類を一枚ずつ、丁寧に並べた。
名前。
学年。
履修科目。
役職。
——助役、生徒、研究補助。
「……確認します」
静かな声だった。
「あなたの“考え”に同調し、実際に動いていたのは」
「この名簿にある者たちですね?」
アデルは、椅子にもたれかかり、
その紙に目を落とした。
一瞬も迷わない。
「ああ、うん」
軽い調子で頷く。
「間違いないよ」
そして、にこりと笑った。
「でもさ」
「僕たちの考えは、素晴らしいだろう?」
まるで褒められるのを待っているような笑顔だった。
「正しいことって、一度始まると止まらないんだ」
「だから、まあ……」
肩をすくめる。
「止まらないよね」
副校長の指が、わずかに震えた。
⸻
禁忌魔法の使用許可は、まだ下りていない。
議会の承認。
皇帝の裁可。
どれも時間がかかる。
そのため——
教授に対する最終的な判決も、保留されたままだった。
拘束はされている。
だが、“決定的な証拠”がない。
校長は、それを誰よりも理解していた。
だからこそ。
その日から何度も、
学園全域を自らの魔法で調べ続けていた。
防衛魔法。
結界。
認証術式。
隅から隅まで。
だが。
「……異常は、ない」
防御魔法は完全だった。
ほころびも、穴も、見つからない。
理屈の上では、
これ以上、同じことが起きるはずがなかった。
⸻
それでも。
「校長先生」
「副校長先生」
声は、何度も届いた。
リュシアたちからだった。
「生徒が、減っています」
「終わったはずなのに」
「まだ、消えています」
必死な訴え。
感情ではない。
恐怖でもない。
事実としての報告だった。
校長は、記録を再確認する。
在籍数。
出席率。
履修登録。
——確かに、合わない。
「……減っているな」
副校長が、低く言った。
誰の名かは、分からない。
誰が消えたのかも、はっきりしない。
だが、数だけは嘘をつかない。
「防御魔法に異常はない」
「教授は拘束されている」
「助役も、関係者も押さえた」
それなのに。
生徒は、まだ減っている。
校長は、ゆっくりと目を閉じた。
(——止まっていない)
アデルの言葉が、脳裏をよぎる。
“止まらないよね”
それは、挑発ではなかった。
宣言だった。
学園は、
まだ“途中”にいた。
終わったと思った瞬間こそが、
最も危険なのだと——
誰もが、ようやく理解し始めていた。




