第84章 正義という言葉の残骸
廊下に集められた者たちは、
思っていたよりも多かった。
助役。
協力していた生徒。
実験室に出入りしていた者。
名簿上では“問題のない関係者”。
一人ずつ、尋問が行われた。
問いは同じだった。
——なぜ、あの行為に加担したのか。
返ってくる答えも、驚くほど似通っていた。
「国のためです」
「未来のためです」
「世界を前に進めるためでした」
誰もが、同じ言葉を使った。
まるで、
それ以外の理由を考えたことがないかのように。
⸻
「——違うわ」
その空気を、
はっきりと断ち切ったのは、フローラだった。
「国のため、ですって?」
穏やかな声だった。
けれど、その目には一切の揺らぎがなかった。
「私は、この国の王女よ」
「その“国”を治める家の一人として言うわ」
一歩、前に出る。
「あなたたちがしたことは、守ることではない」
「選別でもない」
「——破壊よ」
その言葉が落ちた瞬間、
数人の顔色が変わった。
自分たちが拠り所にしていた“正義”が、
真正面から否定された。
膝をつく者。
言葉を失う者。
視線を泳がせる者。
「……そんな」
「国のためだと……」
心神喪失に近い状態だった。
ただ一人。
アデルだけは違った。
相変わらず、穏やかに笑っている。
「不思議ですね」
「王女殿下がそう言われるとは」
「私は、正しいと思いますよ」
副作用のせいか、
あるいは元からなのか。
彼の思考は、
一切揺らいでいなかった。
⸻
尋問は、そこで終わらなかった。
次に呼ばれたのは——
リュシアたちだった。
「なぜ、単独で動いた」
「なぜ、正式な手続きを待たなかった」
叱責は、厳しかった。
危険だった。
無謀だった。
一歩間違えば、命を落としていたかもしれない。
だが。
校長は、最後に言葉を変えた。
「……本来、君たちが動く必要はなかった」
「それを見逃していたのは——」
一瞬、沈黙。
「学園側の責任だ」
副校長も、深く頭を下げた。
「守るべきだった」
「気づくべきだった」
正式な謝罪だった。
そして数日後。
全校生徒の前で、
詳細を伏せたまま、表彰が行われた。
勇気ある行動。
冷静な判断。
多くの命を守った功績。
名前は出されたが、
何が起きたかは語られなかった。
——次の標的を生まないために。
⸻
それで、終わるはずだった。
多くの者が、そう思った。
だが。
数週間後。
静かな違和感が、再び顔を出す。
「……あれ?」
「このクラス、前より少なくない?」
誰かが、そう言った。
また、名前が思い出せない。
また、理由が見つからない。
また、
“問題ありません”という言葉だけが返ってくる。
——生徒は、減り続けていた。
それは、
アデル一人の問題ではなかった。
物語は、
終わってなどいなかった。




