表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
86/87

第84章 正義という言葉の残骸


廊下に集められた者たちは、

思っていたよりも多かった。


助役。

協力していた生徒。

実験室に出入りしていた者。

名簿上では“問題のない関係者”。


一人ずつ、尋問が行われた。


問いは同じだった。


——なぜ、あの行為に加担したのか。


返ってくる答えも、驚くほど似通っていた。


「国のためです」

「未来のためです」

「世界を前に進めるためでした」


誰もが、同じ言葉を使った。


まるで、

それ以外の理由を考えたことがないかのように。



「——違うわ」


その空気を、

はっきりと断ち切ったのは、フローラだった。


「国のため、ですって?」


穏やかな声だった。

けれど、その目には一切の揺らぎがなかった。


「私は、この国の王女よ」


「その“国”を治める家の一人として言うわ」


一歩、前に出る。


「あなたたちがしたことは、守ることではない」


「選別でもない」


「——破壊よ」


その言葉が落ちた瞬間、

数人の顔色が変わった。


自分たちが拠り所にしていた“正義”が、

真正面から否定された。


膝をつく者。

言葉を失う者。

視線を泳がせる者。


「……そんな」


「国のためだと……」


心神喪失に近い状態だった。


ただ一人。


アデルだけは違った。


相変わらず、穏やかに笑っている。


「不思議ですね」


「王女殿下がそう言われるとは」


「私は、正しいと思いますよ」


副作用のせいか、

あるいは元からなのか。


彼の思考は、

一切揺らいでいなかった。



尋問は、そこで終わらなかった。


次に呼ばれたのは——

リュシアたちだった。


「なぜ、単独で動いた」


「なぜ、正式な手続きを待たなかった」


叱責は、厳しかった。


危険だった。

無謀だった。

一歩間違えば、命を落としていたかもしれない。


だが。


校長は、最後に言葉を変えた。


「……本来、君たちが動く必要はなかった」


「それを見逃していたのは——」


一瞬、沈黙。


「学園側の責任だ」


副校長も、深く頭を下げた。


「守るべきだった」

「気づくべきだった」


正式な謝罪だった。


そして数日後。


全校生徒の前で、

詳細を伏せたまま、表彰が行われた。


勇気ある行動。

冷静な判断。

多くの命を守った功績。


名前は出されたが、

何が起きたかは語られなかった。


——次の標的を生まないために。



それで、終わるはずだった。


多くの者が、そう思った。


だが。


数週間後。


静かな違和感が、再び顔を出す。


「……あれ?」


「このクラス、前より少なくない?」


誰かが、そう言った。


また、名前が思い出せない。


また、理由が見つからない。


また、

“問題ありません”という言葉だけが返ってくる。


——生徒は、減り続けていた。


それは、

アデル一人の問題ではなかった。


物語は、

終わってなどいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ