表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/86

第83章 燃え移る怒り


王族専用区画から戻る途中、

リュシアの足取りは乱れていなかった。


息も、脈も、顔色も——

外から見れば、まったく平常。


だがそれは、異常だった。


数刻前まで、

彼女はアデルたちと直接対峙し、

連続して魔法を行使し、

複数人を相手取って動いていた。


魔力の消耗。

精神集中の反動。

身体への負荷。


——普通なら、歩くことすら億劫になる。


それなのに。


リュシアは、何事もなかったかのように歩いている。


(……おかしい)


自分でそう思いながらも、

彼女は歩みを止めなかった。



フェリクス、カイオン、アイリスは、すでに自室に戻っていた。


三人とも、限界が近かった。


フェリクスは壁にもたれ、肩で息をしている。

魔法行使の反動で、指先がまだ微かに震えていた。


アイリスはベッドに腰を下ろし、膝を抱えている。

隠密だ、尾行だと目を輝かせていた姿はなく、

今はただ、現実の重さに押し潰されそうだった。


カイオンは椅子に座り、俯いたまま動かない。

顔色は青白く、魔力の流れがまだ整っていない。


そこへ——

ノックもなく、リュシアが入ってきた。


「……おかえり」


フェリクスが、掠れた声で言った。


「どうだった?」


リュシアは一瞬だけ視線を伏せ、

それから簡潔に話し始めた。


何が行われていたのか。

誰が、どんな理屈で。

殿下たちの存在が、どう利用されていたのか。


感情を極力排した、報告。


だが。


話が進むにつれ、

部屋の空気が、確実に変わっていく。



「……ふざけるな」


最初に声を震わせたのは、カイオンだった。


「殿下たちを……」

「“目印”にした?」


「憧れてただけの生徒を……?」


拳が、ぎゅっと握られる。


「学ぶ場所だぞ、ここは……!」


アイリスは唇を噛みしめていた。


「……あたし」

「尾行してる時、変だって思った」


「でも……」

「“そんなはずない”って……」


言葉が、途切れる。


フェリクスは、ゆっくりと顔を上げた。


「……アデルだけじゃないな」


低い声。


「許した大人がいる」

「褒めた教授がいる」


「——止めなかった奴らが、一番罪深い」


その目には、いつもの軽さはなかった。



沈黙の中で、

三人はようやく気づく。


——リュシアが、まだ立っている。


誰よりも魔法を使い、

誰よりも前線にいたはずなのに。


「……座らないの?」


アイリスが、か細く言った。


リュシアは、少し首を傾げる。


「平気だから」


その一言。


フェリクスは、目を細めた。


(……平気なわけがない)


魔力消費量。

戦闘負荷。

精神集中。


——どれを取っても、限界を超えている。


それでも、立っている。



カイオンが、ぽつりと言った。


「……怒ってる?」


リュシアは、少し考えてから答えた。


「怒ってるよ」


静かに。


「だから」

「止める」


短い言葉だった。


だが、その瞬間。


三人の中にあった疲労の奥で、

確かな火が灯った。


怒りは、共有された。


もう、

見なかったふりはできない。


学園の夜は、まだ静かだった。


だが確実に——

事態は、次の段階へ進もうとしていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ