第81章 証拠できない罪
教授は、抵抗することなく連行された。
だがそれは、諦めではない。
逃げ場がないと理解した者の、静かな計算だった。
尋問室は分けられた。
アデルとは別室。
理由は単純だ。
——教授は、強すぎる。
校長には及ばない。
だが、その魔力は学園でも指折りで、
副校長や諮問官が単独で相手取るには危険すぎた。
「私が行こう」
校長は短く言い、
自ら教授の尋問室へ向かった。
⸻
尋問は、形式上は王宮から派遣された諮問官が行う。
校長は、ただ“確認”をする立場だ。
「あなたは、アデルの行為を知っていましたか」
教授は、椅子に深く腰掛けたまま答えた。
「知らない」
即答だった。
「精神魔法の使用を、指示しましたか」
「知らない」
「防衛魔法の綻びについて、何か示唆しましたか」
「知らない」
声は落ち着いている。
揺らぎも、焦りもない。
校長は、その様子を静かに見つめていた。
(……言葉だけでやっているな)
実際、その通りだった。
記録はない。
命令書もない。
魔法陣も、痕跡も残していない。
残っているのは——
禁忌魔法の使用痕跡だけ。
それも、「誰が」「いつ」「どの意図で」使ったのかは、
現行の魔法体系では証明できない。
諮問官が、低い声で言った。
「唯一の方法は、禁忌魔法による再現です」
禁忌魔法。
過去に起きた出来事を、
まるで目の前で起きているかのように映し出す術。
だがそれは、
対象者の精神に深く介入する。
高度。
危険。
そして——明確に禁じられている。
「皇帝と、議会の承認が必要です」
「手続きには、最低でも一ヶ月」
その言葉に、教授は肩をすくめた。
「では」
「それまでは、拘束ですね」
校長は、否定しなかった。
「そうなる」
拘束魔法が、教授の足元に展開される。
その瞬間——
教授は、ふと口元を歪めた。
「……その魔法も」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
「かつて、実験の結果として生まれたものですよ」
ゆっくりと、校長を見る。
「あなたも、ご存知の通り」
その目には、
挑発と、確信があった。
校長は、何も言わなかった。
教授は、にやりと笑い——
そのまま、連行されていった。
扉が閉まる。
残された空気は、重い。
(証明できない)
(だが、否定もできない)
校長は、静かに目を閉じた。
——これは、まだ終わっていない。
一ヶ月という時間は、
真実を明らかにするための猶予であり、
同時に——
次の一手を打つための、猶予でもあった。




