第71章 向日葵の笑顔のその奥で
——間違いない。
フローラは、はっきりとそう確信していた。
(……かけられている)
ユリアンという少女。
さきほどまで、あれほど高揚していた感情が、
ふとした瞬間に不自然に揺らいだ。
恋慕そのものは、本物だ。
それは見ていて分かる。
けれど——
感情の“切り替わり方”が、おかしい。
(これは……精神魔法)
しかも、ただの暗示ではない。
深く、慎重に編み込まれた、高度な干渉。
本人に自覚させないよう、
疑問を持つ瞬間だけを、柔らかく削っている。
(……なんて、酷い)
胸の奥が、ひり、と痛んだ。
ここは学園だ。
学問を志す者たちが集い、
知を積み、未来を拓く場所。
——それなのに。
(こんな場所で、人の心を壊すようなことを)
一瞬、フローラの脳裏に、
父の姿が浮かぶ。
エイドリアを治める、王。
誇り高く、厳しく、
そして何より——学問を尊ぶ人。
(……父の国で)
(こんなことが行われているなんて)
唇を、きゅっと噛む。
分かっている。
ユリアンは、リュシアを傷つけていた。
噂を流し、
嫌がらせをし、
感情に任せて、誰かを貶めようとしていた。
(でも)
それと、これは別だ。
「だから、いい」
「だから、許される」
——そんな理屈は、存在しない。
(どんな理由があっても)
(人の心を弄ぶことは、学問じゃない)
(ただの——暴力よ)
向日葵のようだと言われる笑顔は、
今は、影を潜めていた。
代わりに宿るのは、
王女としての静かな怒り。
(……放ってはおけない)
ユリアンを、
そして——
この学園を。
「絶対に」
フローラは、心の中で誓う。
(誰がやっているのか、必ず突き止める)
(そして、止める)
それが、この国の王女である自分の——
責務なのだから。
廊下を渡る風が、
彼女の金色の髪を揺らした。
その背中にはもう、
迷いはなかった。




