第64章 王族専用の休憩室で
王族専用の休憩室は、
学園の奥まった一角にあった。
厚い石壁。
結界。
外からは、誰が中にいるのか分からない。
防犯上の理由で設けられた場所だが、
フローラとカリックスは、普段ほとんど使わない。
この学園に来た理由は、
「守られるため」ではなく、
「交わるため」だったからだ。
それでも——
今日は、ここにいた。
⸻
「……やっぱり、変よ」
フローラが、窓辺で立ち止まりながら言った。
可憐な横顔。
向日葵のような笑顔で知られる彼女だが、
今はその表情が、わずかに硬い。
「魔法が、ずっとピリピリするの」
「種類は分からない」
「でも……」
胸元に、そっと手を当てる。
「肌で感じるの」
「この頃、学園全体が」
「張り詰めてる」
⸻
カリックスは、黙って聞いていた。
黒髪を指で払うと、低く息を吐く。
「……実はな」
視線を落とし、続ける。
「俺の“影”からも、妙な報告が来ている」
フローラが、はっと顔を上げた。
「影が?」
「ああ」
「生徒が——減っているらしい」
一瞬、室内の空気が凍る。
「ただし」
「誰が消えたのかは、分からない」
「名簿上は問題なし」
「周囲の記憶も、曖昧だ」
フローラは、思わず拳を握った。
「……それって」
「俺も、同じことを考えた」
カリックスは、淡々と続ける。
「だから、母国にはすでに報告した」
「だが、証拠がない」
「影も、“違和感”以上のものは掴めていない」
⸻
沈黙。
学園の鐘の音が、遠くで響いた。
フローラは、窓の外を見つめながら、ぽつりと言った。
「魔法を学ぶ場所だから」
「魔法が多いのは、当たり前」
「でも……」
言葉を選ぶ。
「これは、学びの気配じゃない」
「そうだな」
カリックスも、同じ方向を見る。
「誰かが」
「“気づかれないように使っている”感じがする」
⸻
フローラは、深く息を吸った。
「……私」
「この学園で、何かが起きてる」
向き直り、まっすぐに言う。
「しかも、静かに」
「とても、静かに」
カリックスは、わずかに口角を上げた。
それは笑みではなく、
覚悟の形だった。
「だろうな」
「そして多分——」
視線が、遠くへ向く。
「もう、偶然じゃない」
二人は、しばらく言葉を交わさなかった。
王族専用の休憩室は、
今日も静かだ。
だがその静けさは、
守られた平穏ではなく、嵐の前の無音だった。




