第63章 断った者達の末路
断った者たちに、
特別なことは起きなかった。
少なくとも——
表向きには。
⸻
勉強会の誘い。
成績の話。
将来の話。
「今はいいです」
そう答えた記憶は、
数日後には輪郭を失っていた。
誰かに声をかけられた気がする。
でも、誰だったかは思い出せない。
内容も、理由も、感情も——
ぼやけて消える。
それだけだ。
授業は続く。
席もある。
名前も名簿に残っている。
人数は減らない。
それが、重要だった。
⸻
「減りすぎると、さすがに怪しまれる」
アデルは、暗い部屋で独りごちた。
「校長や副校長にね」
二人の顔を思い浮かべる。
忙しい人たちだ。
学園全体、各国の調整、研究、式典。
生徒一人の微細な変化など、
いちいち気にしていない。
——今のところは。
「でも、念には念を」
アデルは、机の上の記録に目を落とす。
“誘導:不成立”
“記憶処理:軽度”
それだけ。
消す必要はない。
壊す必要もない。
考えなくなるだけでいい。
⸻
「僕は、殺しを楽しんでるわけじゃない」
誰に聞かせるでもなく、言った。
「この国を」
「この世界を」
「前に進めるために、やってるだけだ」
教授の顔が、脳裏をよぎる。
——気づいている。
——だが、何も言わない。
それが、答えだ。
(僕は、正しい)
(だから、止められない)
⸻
扉の外で、気配がした。
「今日は、二人ついてきたよ」
誰かが、少し弾んだ声で言う。
アデルは立ち上がり、軽く伸びをした。
「……疲れたな」
「甘いものでも食べようか」
部屋を出るとき、
振り返ることはしなかった。
そこには、
血も、悲鳴も、壊れたものもない。
ただ、
考えなくなった人間が、少し増えただけだ。
学園は、今日も静かだった。
それが一番、
“正しい状態”だと信じて。




