表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/70

第62章 助言という名の誘導

暗い部屋だった。


灯りは一つだけ。

円卓を照らすには、足りない。


影の中に、数人が座っている。

誰も名を呼ばない。

必要がないからだ。


その中央で、アデルが口を開いた。


「……次のターゲットだけど」


声は穏やかだった。

講義室で学生に語りかけるのと、ほとんど変わらない。


「成績が振るわない連中は、相変わらず簡単だね」


誰かが頷く。


「成績表を見れば一目で分かる」

「焦ってる子ほど、助言を欲しがる」


アデルは肩をすくめた。


「“効率的な勉強法”」

「“上級生のアドバイス”」


「それだけで、ついてくる」


小さな笑いが、闇に溶ける。


「でもね」


アデルは、指先で机を軽く叩いた。


「もっと簡単な方法がある」


「……両殿下だよ」


一瞬、空気が揺れた。


「え?」

「分からない?」


アデルは、楽しそうに続ける。


「あのカッシウス殿下と、フローラ殿下」


「遠くから見てごらん」

「必ずいるんだ」


「俯いて」

「視線だけで追ってる人が」


「一日や二日じゃない」

「何日も、何日も」


アデルは、指を折る。


「憧れ」

「劣等感」

「届かないという自覚」


「……完璧な下地だ」


誰かが呟く。


「簡単、ですね」


「うん。簡単」


アデルは、にこやかに頷いた。


「話しかける必要もない」

「向こうから、心を差し出してくる」


「“あの人たちみたいになりたい”ってね」


しばしの沈黙。


やがて、別の声が問う。


「……リュシア嬢は?」


その名に、アデルは一瞬だけ目を細めた。


「失敗だったね」


軽い調子だった。


「ユリアン嬢と、ダブルで追い詰めたら」

「いけると思ったんだけど」


「それに」


彼は、椅子にもたれかかる。


「“あの事件”を解決したって聞いて」

「念のため、消した方がいいかなと思ってた」


誰かが息を呑む。


だが、アデルは首を振った。


「……やっぱり、頭のいい子はだめだね」


「自分で考える」

「疑問を持つ」


「そういうのは、扱いづらい」


部屋に、沈黙が落ちる。


それを破ったのは、アデルの穏やかな声だった。


「まあ、いいさ」


「世界を前に進めるには」

「多少の誤差は仕方ない」


「選ばれる者と」

「選ばれない者がいる」


彼は、笑った。


「それだけの話だよ」


暗い部屋で、

誰も反論しなかった。


この夜もまた、

“助言”は準備されていた。


次に手を引かれるのが、

誰なのかも――

すでに決まっているかのように。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ