表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/69

第61章 消された理由を誰も知らない

その日の夜。


カイオンは、寮の自室で灯りを落としていた。

机の上には、何もない。


――正確には、置けなかった。


名簿は持ち出せない。

記録は閲覧制限がある。

写しを取ることすら、規則違反になる。


だから、頼れるのは記憶だけだった。


(……五学年)


(各学年に、数人ずつ)


(共通点は……)


カイオンは、ゆっくりと目を閉じる。


成績が極端に悪いわけでもない。

素行不良でもない。

問題児と呼ばれていたわけでもない。


むしろ――


(“普通すぎた”)


突出していない。

目立たない。

教師にも、同級生にも、強く覚えられない。


だが、確かにそこにいた。


(理由がない)


それが、一番おかしかった。



翌日。


リュシアは、講義室の後方でノートを取っていた。


黒板の内容は理解できる。

教授の説明も、いつも通りだ。


それなのに。


(……集中できない)


視線が、無意識に空席へ向かう。


「……」


そこには、名前のない席がある。


最初から空いていたような。

ずっと前から、誰もいなかったような。


でも――


(違う)


(あそこ、前は誰か座っていた)


思い出そうとすると、

頭の奥が、軽く痺れる。


(……思い出せない)


リュシアは、そっとノートを閉じた。


(理由が分からない)


(でも、“なかったこと”にされている)


その感覚が、境界で感じたものと似ていた。



放課後。


フェリクスは、中庭の縁に腰掛けていた。


周囲は賑やかだ。

笑い声も、足音も、いつも通り。


その中で、ふと聞こえてきた。


「ねえ」

「去年、ここにいた子のこと、覚えてる?」


「……誰?」


「ほら、あの」

「……えっと……」


会話は、自然に途切れた。


フェリクスは、目を細める。


(思い出そうとすると、話題が消える)


(無理に掘らせない)


(……上手いな)


誰かが意図的に、

**“理由を探させない仕組み”**を作っている。


フェリクスは、立ち上がった。


(だから、誰も騒がない)


(騒げない)



その夜。


三人は、短い時間だけ集まった。


「分かったことは?」


フェリクスの問いに、カイオンが答える。


「理由がない」


「選ばれた基準が、見えない」


リュシアが続ける。


「でも」

「“選ばれている”のは、確かです」


三人の間に、沈黙が落ちる。


そして、同時に理解した。


――これは事故じゃない。

――偶然でもない。


「誰も、理由を知らない」


フェリクスが静かに言った。


「だから、誰も止められない」


カイオンは、低く息を吐く。


「……それが、一番怖いな」


リュシアは、拳を握った。


(理由がないなら)


(作られている)


学園は、今日も静かだった。


だがその静けさは、

問いを持たないことで保たれている平穏だった。


そしてそれは――

壊れる前兆でもあった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ