第60章 知られてはいけなかった一致
場所は、図書館の奥。
人の気配が薄く、声が反響しにくい机だった。
「……やっぱり、おかしい」
カイオンが、低く切り出す。
机の上には、何も置いていない。
それでも、三人は自然と身を寄せていた。
「生徒の数が合わないんだ」
「正確な名簿までは辿れないけど……」
「各学年、少しずつ減ってる」
リュシアが眉を寄せる。
「病欠や退学では?」
「それも考えた」
カイオンは首を振った。
「でも、記録官に聞いたら」
「“問題ない”“理由がある”って、それだけだった」
フェリクスが、鼻で笑う。
「都合のいい言葉だな」
「それで……」
カイオンは、少し言い淀んだ。
「アデルに、話しかけられた」
空気が、わずかに張る。
「何を?」
「“どうしたの?”って」
「ただ、それだけなんだけど……」
カイオンは、言葉を選ぶ。
「匂いがした」
「説明できないけど、嫌な感じが」
フェリクスの表情が変わった。
「……俺も、似た話を聞いた」
「最近、人がいなくなってるって」
「しかも、“気づいたら”って言い方で」
「それと」
一拍置いて、続ける。
「ローデリクが消えた」
リュシアが、はっと息を呑む。
「……完全に?」
「寮にも、教室にもいない」
「でも、誰も騒いでない」
沈黙。
その中で、リュシアが口を開いた。
「……私も、感じていました」
二人が見る。
「ユリアンの様子が、おかしいんです」
「嫌がらせは減った」
「でも、代わりに……」
リュシアは言葉を探す。
「“抜けた”みたいな」
「考えるのをやめたような目を、時々します」
三人の視線が合った。
それぞれが見ていたものが、
今、一本の線になる。
「つまり」
フェリクスが静かに言う。
「消えてる」
「でも、騒がれないように」
「気づかれないように」
「誰かが、そうしてる」
カイオンが、拳を握る。
「だから、決めよう」
「一人で動かない」
「必ず三人で」
リュシアが、はっきり頷いた。
「ユリアンを見る」
「アデルも、こっそり」
「でも、深入りはしない」
フェリクスが、少し笑った。
「しない、じゃなくて」
「今は、しない、だな」
三人は、静かに席を立つ。
外では、学生たちが談笑している。
何も知らない顔で。
だが。
その中で、
確かに“数が合わない世界”が始まっていた。
三人は、もう気づいてしまった。
そして――
気づいた者は、
もう戻れない。




