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境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


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第122章 禁忌魔法による確定


禁忌魔法は、

万能ではない。


それは

「すべてを暴く魔法」ではなく、

ひとりの精神を起点に、事実を遡る魔法だった。


今回、対象に選ばれたのは——

教授、アウルス・セプティム・ヴァレリウス。


⸻


魔法が起動した瞬間、

教授の身体が、わずかに震えた。


「……っ」


短く息を吸い、

歯を食いしばる。


抵抗している。


精神を閉ざし、

思考を折り畳み、

記憶の奥へ奥へと沈めようとしているのが、

はっきりと分かった。


「無駄だ」


校長の声は静かだった。


「これは尋問ではない」

「君の“意図”を問うものでもない」


「ただ——起きたことを見る」


⸻


禁忌魔法は、

教授の表層の思考を越え、

意識の“接点”を探し始める。


そして見つける。


——繰り返し、思い出されていた場面。


王都。

軍部の一室。


過激派の将校が、

資料を差し出している。


声は、くぐもっている。

だが、教授の内心が補完する。


「精神魔法の実用化」

「戦争を想定した制御技術」

「学園での検証」


教授は、即答していない。


だが、否定もしなかった。


——可能性を計算している。

——成功率を見積もっている。


「……理論上は、成立する」


その一言が、

すべての始まりだった。


⸻


場面が揺らぐ。


次に現れたのは、

研究室。


アデルが立っている。


教授は、意図せず、

そのときの自分の言葉を“再体験”する。


「君の考えは、間違っていない」


「弱い精神が壊れるのは、選別だ」

「残る者のための、必要な過程だ」


その言葉を発した瞬間の、

自分の感情まで、

禁忌魔法は容赦なく引きずり出す。


——正しいと、思っていた。

——研究者として、誠実だと。


教授の顔が歪む。


「やめろ……!」


精神抵抗が、強まる。


だが、もう遅い。


⸻


映像は続く。


拘束後のアデル。


彼の言葉は、

教授の記憶を通して再生される。


「僕が全部やったと思われてる」

「それでいい」


その言葉に、

教授自身が安堵していた事実が、

はっきりと映し出される。


——責任が一点に集約される。

——思想そのものは、裁かれない。


禁忌魔法は、

教授が“そう理解していた”事実を示していた。


思想を読んだのではない。

教授の心が、

そう受け取っていたという証明だった。


⸻


限界が訪れる。


教授の膝が崩れ、

床に手をつく。


「……っ、ぐ……」


視線が定まらない。


呼吸が乱れ、

言葉が、意味を成さなくなる。


禁忌魔法の副作用。


精神を覗かれ、

抵抗し、

なお破られた者に残る——

深刻な認知疲労。


校長が、魔法を解除する。


⸻


残ったのは、

静寂と、確定した事実だけだった。

•教授は、過激派と接触していた

•思想レベルで、アデルを肯定していた

•アデルは「自分が盾になる」構図を理解し、受け入れていた


それ以上でも、それ以下でもない。


⸻


処分は、淡々と告げられた。


教授。

アデル。

過激派一派。


全員に、正式な処罰が下される。


誰かの感情ではなく、

事実によって。


⸻


床に座り込んだ教授は、

しばらく立ち上がれなかった。


禁忌魔法は、

真実を映す。


そして同時に、

それを見る資格がなかった者の心を、確実に壊す。


そのことだけが、

重く残っていた。

 魔法が途切れた瞬間、アルケオンの視界が白く染まった。


続いて、焼けた鉄を押し込まれたような激痛が、両目の奥を貫いた。


「……校長!」


誰かが叫んだ。


アルケオンは答えようとしたが、右手の感覚がすでに消えていた。


杖が指の間から滑り落ち、乾いた音を立てて床へ転がる。


両目から流れた血が、頬を伝っていく。


禁忌魔法は、真実を無償では与えない。


覗かれた者の精神を壊し、覗いた者からは、その真実に見合う何かを奪う。


アルケオンは最初から知っていた。


それでも、使うことを選んだ。


「……事実は、確認できた」


光を失った目を閉じたまま、アルケオンは静かに告げる。


「それで十分だ」

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