第123章 裁かれた者たち、裁けない者達
第123章 裁かれた者たち、裁けない者達
処罰が下された日、アルケオンは医療院の一室にいた。
両目は厚い布で覆われ、右腕は胸元へ固定されている。
治療を担当した医師は、視力が戻る可能性はないと告げた。
右手もまた、杖を握れるほどの機能を取り戻すことは難しいという。
それでもアルケオンは、処分に関する報告を最後まで聞いた。
処罰は、下った。
それも——
決して軽いものではなかった。
アストリア帝国(ローマ帝国型)の裁き
アストリアでは、
国家秩序を内部から揺るがした者に対し、
**思想ではなく「行為と結果」**が裁かれる。
教授アウルスは、
•官位の剥奪
•研究資格の永久剥奪
•公的記録からの名誉抹消
•国外追放(終身)
という判決を受けた。
彼の名は、
今後一切、学術書にも、講義録にも残らない。
「存在したが、語られない者」
それが、アストリアにおける
最大級の断罪だった。
エイドリア王国(唐型)の裁き
一方、エイドリアでは——
秩序を乱した思想そのものが問題視される。
アデルに下されたのは、
•魔法能力の封印
•官職・補佐職の永久剥奪
•厳重監視下での終身拘束
•名を記録に残すが、功績は一切記さない
という処置だった。
「誤った思想の見本として、記録され続ける」
それは、
死よりも重い罰とされた。
過激派一派の処罰
軍部過激派は、
両国共通で裁かれた。
•全員免職
•軍法会議による重刑
•一部は終身拘束
•一部は辺境への流刑
戦争を理由に、
学園と未来を利用しようとした行為は、
どの国でも容認されなかった。
⸻
ここまでで、
事実はすべて明らかになった。
誰が、
何をし、
なぜ起きたのか。
処罰も、
責任の所在も、
制度としては完結している。
——それでも。
校長は、
重く息を吐いた。
「……終わっていない」
問題の核心は、
そこではなかった。
⸻
教授の思想を、
受け継いだ人間がいる。
彼らは——
•犯罪者ではない
•禁忌魔法も使っていない
•命令されたわけでもない
ただ、
「あの考えは、正しかったのではないか」
そう思っているだけだ。
努力できない者は淘汰されるべきだ。
弱い精神は、壊れて当然だ。
国のためなら、個人は犠牲になってもいい。
彼らは、
自分たちを悪だと思っていない。
だから——
止まらない。
⸻
暴力では、終われない。
牢に入れても、
処刑しても、
この考えは消えない。
むしろ、
殉教者を生むだけだ。
校長は、静かに結論づけた。
「これは、裁判の問題ではない」
「教育の問題だ」
学園という場所が、
何を教え、何を否定するのか。
それを、
言葉と時間で示さなければならない。
そうしなければ、
また——
同じことが繰り返される。
静まり返った学園に、
目に見えない問いだけが、
確かに残っていた。
「これは、裁判の問題ではない」
「教育の問題だ」
アルケオンは、光を失った目を閉じたまま告げた。
傍らに立っていた副校長ミレーヌは、返事をしなかった。
その沈黙を待ってから、アルケオンは続ける。
「だから、君に任せたい」
ミレーヌの表情が固まった。
「何を、でしょうか」
「この学園をだ」
迷いのない言葉だった。
「私は禁忌を使った。学園を守るために必要だったという考えは、今も変わらない」
「だが、規律を破った者が、この先も生徒へ規律を説くわけにはいかない」
「それに、この身体では以前と同じ責務を果たせない」
ミレーヌは、すぐに首を横へ振った。
「辞任なさる必要はありません。校長を支えるために、私たちがいます」
「支えられなければ務まらない者が、先頭に立ち続けるべきではない」
アルケオンは穏やかに笑った。
「次は、君の番だ」
「私は、あなたのようにはなれません」
「なる必要はない」
その返答だけは、驚くほど早かった。
「私のような者が必要な時代は、ここで終わらせる」
「君は君の方法で、この学園を守ればいい」




