第118章 消えたのは記憶じゃない
第118章 消えたのは記憶じゃない
夜明け前の学園。
人目につかない時間帯を選び、
四人は静かに集まっていた。
リュシア。
フェリクス。
カイオン。
アイリス。
「場所は、三つに絞れた」
フェリクスが地図を広げる。
「旧研究棟の地下」
「使われなくなった回廊」
「記録上“立ち入り禁止になっていない”場所」
「つまり——」
「誰も確認しない場所だね」
アイリスが小さく答える。
彼女の顔には、もう迷いはなかった。
「行こう」
リュシアが言った。
「“消えた人”は、きっと——」
言葉を切る。
「まだ、ここにいる」
⸻
最初の場所には、何もなかった。
二つ目も同じ。
だが、三つ目。
封鎖されていないのに、
誰も近づかない古い温室跡で——
カイオンが立ち止まった。
「……いる」
「魔力が、呼吸みたいに残ってる」
扉を開ける。
中には、簡易的な寝台。
水。
最低限の食料。
そして——
「……人が、いた」
アイリスの声が震える。
座り込んでいたのは、
名前を呼べば、ちゃんと返事をする生徒たち。
ただし。
「……授業は?」
「……終わった、はず」
「僕は、もう……必要ないって」
答えは、どれも曖昧だった。
リュシアは、しゃがみ込んで目線を合わせる。
「大丈夫」
「あなたは、必要だった」
「だから、ここにいたんでしょう?」
生徒の目が、揺れた。
「……そう、なの?」
その瞬間。
フェリクスは確信した。
(これだ)
(“消える”っていうのは——)
(自分で、自分を手放すことなんだ)
「帰ろう」
リュシアが、静かに言った。
「ここは、終点じゃない」
カイオンが頷く。
「学園は、まだ——」
アイリスが、涙をこらえながら笑う。
「迎えに来たんだから」
夜が明ける。
四人の背後で、
長く止まっていた歯車が、
確かに、逆方向へ回り始めていた。




