第117章 記録は嘘をつかない——ただし、整えられれば
第117章 記録は嘘をつかない——ただし、整えられれば
王族専用区画の奥。
厚い扉の向こうには、
学園と王都をつなぐ記録媒体の中枢があった。
古い魔導板、羊皮紙、精霊刻印の水晶。
世代ごとに積み重ねられた「学園の記憶」。
「……ひどいわね」
フローラは、静かに言った。
怒りを含まない声。
だが、そこに迷いはなかった。
「消されているわけじゃない」
「“上書き”されてる」
カッシウスが眉をひそめる。
「上書き?」
「ええ。完全な改竄じゃない」
「それをすると、必ず歪みが出るから」
フローラは指先で水晶盤をなぞる。
「だから彼らは、正しい情報の上に“別の意味”を重ねたの」
「在籍はしていた」
「でも、“途中で目的を終えた”ことにされている」
「自主退学」
「留学」
「研究参加」
一つ一つは、ありふれた理由。
だが——
「全部、同じ文脈で繰り返されてる」
フローラは顔を上げた。
「これは偶然じゃない」
「“そう見えるように整えた人”がいる」
カッシウスは息を呑む。
「……誰が?」
「問いは逆よ」
フローラはきっぱり言った。
「誰でもできる形にしたのは、誰か」
彼女は王女だった。
だが今この瞬間、
彼女は“国を守る者”の顔をしていた。
「権限を持つ者が直接やったんじゃない」
「“名前を持たない許可”を作ったの」
「だから記録官も、教授も、誰も悪意を自覚していない」
一拍置いて、続ける。
「——でも、結果は同じ」
フローラは水晶に命じた。
「記録を、重ねる前の状態に戻して」
王族の権限が、静かに発動する。
歪んでいた線が、一本ずつ正されていく。
「これで“消えた生徒”は、探せる」
カッシウスは小さく笑った。
「さすがだな」
カッシウスがニヤリと笑う。
フローラは肩をすくめる。
「当然よ」
「学ぶ場を壊されて、黙っていられるほど——」
「私は、優しくないもの」




