第108章 数えられない欠落
翌朝。
鐘の音は、昨日と同じだった。
空気も、光も、学生たちの足取りも。
——違うのは、気づいてしまった者がいることだけ。
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カイオンは、
机に広げた紙束をじっと見つめていた。
名簿ではない。
成績表でもない。
自分で書き写した一覧だ。
各授業、
各履修クラス、
各課題の提出者。
「……三十六」
呟いて、線を引く。
昨日まで、
この列は三十七あった。
誰の名前が消えたのか、
それが分からない。
だが——
数だけが、確実に減っている。
「記録は合ってる」
帳簿も、掲示も、完璧だ。
だからこそ、気味が悪い。
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リュシアは、
廊下で足を止めていた。
ふと、
声をかけようとして——
「……?」
誰に、だったのか。
名前が出てこない。
昨日、
確かに会話をした。
笑っていた。
悩みを聞いた。
なのに。
(……思い出せない)
背筋が、冷えた。
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フェリクスは、
食堂で一人、座っていた。
いつもなら、
ここは混む時間帯だ。
だが、今日は違う。
「……減ってるな」
皿の数。
椅子の埋まり方。
説明できるほどではないが、
確実に“隙間”がある。
それを誰も気にしていない。
それが、一番おかしい。
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昼休み。
三人は、
人目につかない回廊で顔を合わせた。
「また、減った」
カイオンが言う。
「人数じゃなくて……“存在感”が」
リュシアが続ける。
フェリクスは、
しばらく黙っていたが——
「なあ」
低く、確信を含んだ声で言った。
「これ、“消えてる”んじゃない」
二人が、彼を見る。
「最初から“いなかったこと”にされてる」
沈黙。
否定できる材料は、なかった。
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そのとき。
通りすがりの学生が、
何気なく言った。
「あれ? この掲示……」
立ち止まり、首を傾げる。
「……いや、何でもない」
そう言って、去っていった。
掲示板には、
“欠番”のような空白があった。
何が貼られていたのか、
誰も思い出せない。
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リュシアは、
小さく息を吸った。
「これは……」
「うん」
カイオンが頷く。
「偶然じゃない」
フェリクスは、
壁に手をつき、静かに言った。
「しかも、前より巧妙だ」
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その夜。
校舎の奥で、
誰かが扉を閉めた音がした。
だが翌朝、
その部屋は——
“使用予定なし”として
最初から存在しない扱いになっていた。
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学園は、静かだった。
だがその静けさは、
“嵐の前”ではない。
すでに、
中に入り込んでいる。
それに気づいた者は、
まだ少ない。
だが確実に——
数えられない欠落は、増え続けていた。




