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境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


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第107章 学園で再び起きる“小さすぎて見逃される異変”


学園は、平常に戻った——

少なくとも、そう見えていた。


授業は再開され、

廊下には笑い声が戻り、

掲示板には次の試験予定が貼り出された。


「やっと落ち着いたね」


誰かが言う。


それに、誰も反論しなかった。


⸻


最初の異変は、

あまりにも取るに足らなかった。


朝の出欠確認。


教官が名簿を読み上げる。


「……では、次」


一拍。


「……あれ?」


教官は眉をひそめ、

名簿をもう一度見た。


「……失礼。読み飛ばしたかな」


そう言って、何事もなかったように続ける。


生徒たちは気にしない。

誰も数を数えていない。


⸻


次は、図書館だった。


返却棚に、

同じ本が二冊並んでいる。


どちらも、同じ管理番号。


司書は首を傾げる。


「……登録ミスかしら」


帳簿を確認し、

しばらく黙り込み——


「まあ、いいか」


そう言って、棚に戻した。


⸻


食堂では、

配膳係が呟いた。


「今日、余る量が多いわね」


だが、誰も空席を気にしない。


“誰かがいない”のではなく、

“最初からこの人数だった”かのように。


⸻


リュシアは、

それを肌で感じていた。


数字ではない。

記録でもない。


ただ、

空気が薄い。


人の気配が、

ほんの少しだけ足りない。


「……おかしい」


声に出すほどではない。

だが、無視できる違和感でもない。


⸻


カイオンも、同じだった。


課題を集めるとき、

無意識に枚数を数える。


「……合ってる」


合っているはずだ。


だが、

“前より少ない”気がする。


理由は分からない。

記録も、名簿も、完璧だ。


完璧すぎる。


⸻


フェリクスは、

その完璧さが気に入らなかった。


「なあ」


廊下で、リュシアに低く言う。


「“戻った”って感じ、するか?」


「……いいえ」


即答だった。


「“上書きされた”感じはします」


フェリクスは、

それを聞いて、笑わなかった。


⸻


その日の夕方。


掲示板に、

新しい注意書きが貼られた。


最近、体調不良による一時離学が増えています

不安な点があれば、遠慮なく教官へ相談してください


丁寧で、優しい文章。


だが。


「……一時離学?」


誰かが呟いた。


誰だったかは、

すぐに分からなくなった。


⸻


夜。


寮の灯りが落ちていく。


その中で、

ひとつだけ、灯りが点かなかった部屋がある。


だが翌朝には、

その部屋は最初から存在しなかったかのように

鍵が外され、

割り当て表から名前が消えていた。


誰も、抗議しない。


誰も、悲しまない。


誰も、覚えていない。


⸻


リュシアは、

窓の外を見つめていた。


月は変わらず、

学園を照らしている。


「……また、始まってる」


小さく呟いた声は、

夜に溶けた。


学園は、今日も平穏だった。


あまりにも、静かに。

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