六本目 魔王の好物!?
「勇者様! 背中が、ふ、服が丸焦げです!」
「え?」
確かに背中がスースーする。手を回すと服ではなく肌に直接触れた。なるほど、防御はカンストしても流石に服の耐久力までは上がらないのか。
「ちょっと待っててくださいね〜」
わかばは元気よく杖を振りかざした。
すると、俺の身体をじんわりと温かい黄緑色の淡い光が包み込む。
「これって、回復魔法ってやつか?」
「はい! とびっきりの魔力を込めてます!」
「いや、俺別に怪我してないけど?」
「ダメです! 炎で攻撃されたんですよ! 何かあってからでは遅いんです」
「あっそ」
口ではそう言ったものの、背中に伝わる感覚は悪いものではなかった。
「はい! これでもう大丈夫です!」
「まあ、服は丸焦げのままだけどな」
そのとき、魔王軍が陣取っていた方角が急に騒がしくなった。俺とわかばの目は自然にそこへ向く。
「勇者様! 見てください! 残っていた魔物たちが逃げていきます!」
確かに、街道から十数匹の魔物たちが一目散に逃げていく。そこには魔王軍のものと思しき、テントのほかに、赤マル……ではなく、魔王軍の旗が残されていた。
だが、その中で二台の荷車だけは、その陣地を通り越した先に止まっている。どちらも鉱山のある北を向いていた。
「や、やったあ! これでタダで剣をゲットですね!」
「ああ、そういうことになるな」
俺はもう一度、ステータス画面を見つめる。
【攻撃力:999】
【防御力:999】
【素早さ:999】
【魔 力:999】
「いや、これ剣なんていらねーだろ」
「た、確かに」
わかばは「うんうん」と頷いた。
「よし、行くぞ!」
「どこに行くんです? セブンスターに戻るんですか?」
「いや、あいつらの荷物漁りに行こう! 飯とかあるかもしれないし」
「へ?」
◆
それから俺たちは、魔王軍が撤退した跡地に向かい、テントの中の荷物を漁り始めた。けれど、食べ物はおろか、見つかるのは使い道のよくわからないガラクタばかりだった。
「なんかあったか?」
「いえ、使えそうなものは特に……」
「ちっ、しけてやがんな」
そんな俺の様子に、わかばは「ふふっ」と小さく笑った。
「……勇者様。変わりましたね」
「何が?」
「てっきり、「たばこを探しにいくぞ!」って言うかと思ってました」
「いや、どうせこの世界タバコねーんだろ? それに……」
俺はスキルパネルを操作する。すると、煌々と輝く勇者の称号が現れた。
「今の俺は、超越せし者だからな!」
「ふふっ。そうでしたね」
わかばは手で口を覆って笑う。
「あっちの荷車も見てみよう」
「は、はい!」
荷車には、厳重に封をされた木箱が山積みになっていた。俺はパワーで強引にこじ開ける。
中には、見慣れない大きな葉が、何枚も詰め込まれていた。
「なんだこれ? もしかして、タバコか!?」
「ま、まさか〜」
わかばが急ぎ足で駆け寄ってくると、葉を一枚手に取った。
「こ、これは……」
「知ってんのか?」
「はい! これはナスの葉です! 間違いありません」
わかばはそう言って、俺に葉を見せつけた。
「は? なす?」
「はい! ナスです」
「魔王軍が、運んでたんだよな……」
「そのようですね」
「これ、食えんの?」
「い、いや〜流石に無理じゃないですか?」
「よくわからん魔王だな」
「それは同感です」
俺は顔を上げて、街道の風景に目を向けた。
「てか、なんで魔王軍はこの街道を封鎖してたんだ?」
わかばは鞄から地図を取り出して広げると、目を細めた。
「うーん。この先は、しばらく北に進むと鉱山があるだけですね」
それから「あっ」と、何かを閃いたように口を開く。
「もしかして! 自分を倒そうとする勇者に武器を作る鉄を渡さないようにするためじゃないですか!?」
「いや、そんな回りくどいことせず、武器屋から直接取り上げろよ」
「そ、それはそうですよね!」
わかばは妙に納得したような顔を見せた。
「勇者様、頭が冴えてますね! さすが、ちょ、超越、ぷぷっ」
「あ?」
「さすが、超越せし者です!」
「お前バカにしてんのか?」
◆
それから、しばらくして。
わかばは、もう一台の荷車に積まれていた木箱を指さしていた。
「勇者様! これ、見て下さい!」
「なんだ?」
俺はわかばのもとへ歩いていく。
「これ、ジャガイモですよ!」
「ジャガイモ?」
「あっ、ほら! こっちにはトマトもあります!」
荷車に積まれた箱の中には、確かにジャガイモとトマトらしき野菜が詰め込まれている。
「なるほどな、やっぱり俺の睨んだ通り、この荷車は魔王軍の食料を運んでたのか」
わかばは不思議そうに首を傾げる。
「魔王の好物なんですかね?」
「そ、それは知らないが……」
俺は荷車が進んできたであろう、街道の南の果てを見つめた。
「きっと、この道の先に、この野菜たちを育てていた農家があったんだろうな」
「勇者様……」
腹は減っていた。けれど、わかばの前で、この野菜たちを持ち出すことはどうしてもできなかった。
「それよりも、気になることができた」
「なんでしょうか?」
「おい、わかば! もう一回地図見せろ!」
「は、はい」
この先、山の絵が描かれた場所までの間には、街道を示す一本の線しかない。
「この荷車、どこに向かおうとしてたんだ?」
「え? 鉱山じゃないんですか?」
「いや、武器屋の店主は「街道が封鎖されて、鉄が手に入らない」としか言ってなかったろ?」
「そ、それはそうですけど」
「つまり、鉄が手に入らないのは、鉱山自体が魔王に奪われたからではないってことだよな?」
「た、確かに」
俺はもう一度地図に視線を落とした。
「鉱山までの間にある空白。ここに、何かあるのか?」
「行ってみますか?」
「まあ、魔王討伐のヒントがあるかもしれないしな」
しかし、気づけば空はすっかり茜色に染まっていた。地図にも載っていない場所を、日が暮れてから探すのはさすがに危険だ。
俺たちは魔王軍が残したテントで一晩を明かすことにした。
そして翌朝、俺たちは北に向かって歩き始めた。




