EP 10
極道流・石焼き太陽芋と、破壊された台本(ノートPC)
ポポロ村の太陽芋の畑。
極道農家・鬼神龍魔呂の容赦ない『追肥(顔面蹴り上げ)』によって、肥溜めに頭から突き刺さった光の勇者ゼロス・ディバインは、二度と立ち上がることはなかった。
ステータスカンストのメッキを完全に引っ剥がされた彼は、もはやただの気絶したみすぼらしい小男でしかない。
「はい、みんな! というわけで、ヤラセ放火魔の成敗完了だよっ☆ 炎上神ワイズの悪事も全部録画して天界の監査局にデータ送っといたからね! それじゃあ、今日の配信はここまで! チャンネル登録と高評価よろしくねー!」
上空で一部始終を撮影していたキュララが、ウインクと共にドローンの配信を終了した。
ゴッドチューブの歴史に残るであろう、最高同接数と最悪の大炎上を記録した『神回』は、こうして幕を閉じたのである。
「まったく、とんだ三流の茶番でしたわね」
畑の入り口から、ヤンデレ村長のキャルルと、執事のリバロンが歩いてきた。
「キャルル様。あの肥溜めのゴミ(ゼロス)と、村の入り口で眠っているゴロツキどもは、すでに冒険者ギルドとルナミス警察に引き渡しを手配いたしました。ついでに、ゴルド商会のニャングル殿を通じて、奴らの口座と資産も全て凍結させております」
リバロンが、乱れ一つないスーツ姿で完璧な事後処理の報告を行う。
「ご苦労様ですわ、リバロン。……龍魔呂様、お怪我はありませんか?」
「あぁ。こんなモン、準備運動にもならねぇ」
俺はマルボロの煙を吐き出し、焼け焦げた畑を見下ろした。
「……信じられない」
泥だらけになった純白の翼を震わせながら、天使長ヴァルキュリアがよろよろと歩み寄ってきた。
「天界の法でも、私の全力でも止められなかった課金ステータスの暴力を……貴方は、たった一撃で……。一体、貴方は何者なのですか?」
「何度も言わせんな。ただの農家だ」
俺は、呆然とする天使長に背を向け、焼け焦げた太陽芋の畝の前にしゃがみ込んだ。
「おじさん……お芋、全部燃えちゃったわね。明日の焼き芋、楽しみにしてたのに……」
紫ジャージのカグヤが、悲しそうに焦げた葉を見つめる。
「馬鹿野郎。極道のシノギを舐めんじゃねぇぞ」
俺はUR農具のクワを取り出し、まだ熱を持っている土を慎重に掘り返した。
「表面の葉と茎が燃えただけで、地中深く根を張った芋までは火は届いちゃいねぇ。むしろ……奴の放った火炎魔石の熱が、土の中で最高の『石焼き効果』を生み出してやがる」
ザクッ、と土を退けると、そこからは黄金色に輝き、甘い蜜が皮の表面からプクプクと滲み出ている、完璧な状態に焼き上がった『石焼き太陽芋』がゴロゴロと顔を出した。
「おおおおぉぉぉっ!!!」
ルチアナとカグヤ、そしてキュララたちが歓声を上げる。
「災い転じて福となす、だ。この熱々のうちに、極上のオヤツにしてやる」
俺は、掘り出した石焼き太陽芋を真っ二つに割り、そのホクホクの黄金色の断面に、用意しておいた『シープピッグの特製塩バター』をたっぷりと乗せた。
ジュワァァァァァッ……!
熱々の芋の上でバターがとろけ、甘い蜜の香りと塩気のある乳脂肪の匂いが、暴力的なまでに混ざり合う。
「ほら、食いな」
俺が芋を差し出すと、神々は我先にと群がり、ハフハフと火傷しそうになりながら芋を口に運んだ。
「あぁぁぁぁっ! 甘いぃぃっ! お芋のホクホク感とバターの塩気が悪魔的だわぁぁっ!」
「ハフッ、んぐっ……! ヤバい、これ無限に食べられちゃう!」
その光景を、ヴァルキュリアはただ無言で見つめていた。
天界の絶対的な規律。法。数字。それらが全てハリボテの勇者に蹂躙された時、この農家だけは、自らの『極道のルール』という揺るぎない信念と、圧倒的な暴力で世界を正した。
そして今、焼け野原になったはずの畑から、こんなにも温かく、生命力に満ちた美味しい食事を生み出している。
「……」
「おい、羽虫。てめぇも突っ立ってねぇで食え。冷めるぞ」
俺が、バターがとろけた太陽芋を無造作に差し出すと、ヴァルキュリアの青い瞳から、ポロリと一筋の涙がこぼれた。
「……いただきます」
彼女は、泥だらけの手で芋を受け取り、大きく一口かじった。
その瞬間、天使長の顔に、規律の仮面ではない、心の底からの「美味しい」という無邪気な笑顔が咲き誇った。
「あの、龍魔呂殿……。私に、その……『白いジャージ』は、支給していただけるのでしょうか?」
「あぁ? 食った分はキッチリ働いてもらうって言っただろ。明日から大根引きの刑だ」
「はいっ! 謹んで、大根を引かせていただきますわ!」
かくして、天界最強の執行者であったヴァルキュリアまでもが、極道農家の『胃袋コンプライアンス』と揺るぎない信念の前に完全陥落し、ポポロ村の第三の「ジャージ労働神」として迎え入れられることになったのである。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
ポポロ村の平和な晩餐とは打って変わり、天界セレスティアの中枢、『第一会議室』は、地獄のような惨状と化していた。
「な、なんでだ……なんでこんなことになってんすかぁぁぁぁっ!!」
炎上神ワイズの狂ったような絶叫が、会議室に響き渡っていた。
彼の目の前にある専用のノートパソコンの画面には、無慈悲なシステムメッセージが赤文字で点滅している。
『アカウント凍結。ヤラセ行為、放火教唆、天界法違反の通報多数により、貴方のゴッドチューブ権限及びシステム予算は全て剥奪されました』
「俺の……俺の一兆円が! 最強のステータスを与えた勇者が、なんでただの農家のオヤジにワンパンで負けてんすか! 台本と違う! 俺の完璧なヤラセの炎上計画が、あんな泥臭ぇ芋畑で終わるなんてあり得ねぇぇぇっ!」
ワイズは血走った目で髪を掻き毟り、デスクの上にあったお気に入りのマイタンブラー(カプチーノ入り)を、壁に向かって全力で投げつけた。
ガシャァァァァァァンッ!!
陶器が砕け散り、壁に茶色い染みが広がる。
さらに彼は、狂乱状態のまま立ち上がり、自分の命綱である専用のノートパソコンを床に叩きつけた。
「クソがぁぁぁぁっ! クソッ! クソッ! クソおおおおおっ!!」
バキィッ! メキョォォォッ!
ワイズは革靴で何度も何度もノートPCを踏みつけ、液晶を割り、キーボードを粉々に粉砕した。
基盤がひしゃげ、火花が散り、彼の「炎上神」としての権限と接続端末は、文字通り完全にスクラップとなった。
「……あのクソ農家ァァァ! 絶対に許さねぇ! 俺のエンタメを、俺の数字を壊しやがって! 次こそは本物の悪党(魔王軍幹部)を使って、あの村ごと地獄に叩き落としてやるっすよぉぉぉっ!」
よだれを垂らしながら絶叫するワイズ。
その滑稽で哀れな姿を、会議室のモニター越しに、天魔窟の奥底から冷ややかに見つめている眼差しがあった。
インテリヤクザ風の邪神、デュアダロスだ。
『……クククッ。言ったじゃろうが、ワレ。刺される覚悟のないガキが、安全な場所から他人のシマで火遊びするから、こういう痛い目を見るんじゃ』
デュアダロスは、アルマーニのスーツの胸元からトカレフを取り出し、指先で弄びながら嘲笑した。
『数字や台本なんて薄っぺらいモンで、本物の【暴力】が支配する極道の世界を御せるわけがねぇ。……まぁええ。てめぇが捨て駒にしたもう一人の契約者、『妖刀のミラース』は、俺の部下としてキッチリ使わせてもらうぜ。……せいぜい、監査局の取り調べで泣き喚くこったな』
通信がプツリと切れ、破壊されたノートPCの残骸の前で、ワイズはただ一人、絶望のままに泣き崩れた。
命を数字としか見ない三流の炎上神の企みは、極道農家のたった一つの『指先』と『拳』によって、これ以上ないほど無残に、そして完璧に叩き潰されたのであった。
読んでいただきありがとうございます。
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