EP 9
極道流・無課金粉砕と、全世界へのヤラセ暴露
「……お前、装備と金を全部剥がしたら、一体何が残るんだ?」
極道農家・鬼神龍魔呂のドス黒い声が、燃え盛る太陽芋の畑に響き渡った。
『光の勇者』ゼロス・ディバインの顔が、恐怖で醜く引きつる。
彼が全財産と神の予算(一兆円)を注ぎ込んだ、ステータスカンストの全力の一撃。最高純度のオリハルコンソードは今、龍魔呂の闘気を纏った素手の『指先』によって完全にロックされ、一ミリたりとも動かすことができない。
「は、離せッ! 俺様の剣からその汚い手を離せぇっ!」
ゼロスがパニックに陥り、剣を引こうと両足(厚底ブーツ)で地面を踏ん張る。
だが。
メキッ……メキョォォォ……!
「……あ?」
ゼロスの口から、間抜けな声が漏れた。
龍魔呂の指がオリハルコンの刀身に深く食い込み、絶対の硬度を誇るはずの神聖なる刃が、まるで薄いブリキ板のように拉げ、ヒビ割れ始めていたのだ。
「ば、馬鹿な! 一億Gの防御バフが剣にも乗ってるんだぞ!? ただの素手で、なんで……ッ!」
「だから言ったろ。システムが弾き出した数字なんてモンはな」
龍魔呂の腕の筋肉が、丸太のように膨張する。
「俺のシマじゃ、便所の紙より薄っぺらいってな」
パァァァァァァァァンッ!!!!
乾いた、そして絶望的な破裂音。
光の勇者の象徴であり、最強の武器であったオリハルコンソードが、龍魔呂の握力と闘気によって、粉々の破片となって虚空に散った。
「あ、あぁ……あぁぁぁ……ッ」
武器を失い、その反動で尻餅をついたゼロスは、泥だらけの畑で震えた。
剣が折られた。あり得ない。こんなことは、ワイズの台本には一行も書かれていない。
『……クソがっ! 何やってんすかゼロス!』
ゼロスの耳に装着された魔導インカムから、炎上神ワイズのヒステリックな怒声が響く。
『剣が折れたなら魔法っすよ! 全魔力を課金で膨張させて、そいつを村ごと消し炭にしろ! このままじゃ俺のPVと広告収入がパーになるっすよ!』
「そ、そうだ! 俺様には金(魔力)がある! いくらでも課金して……!」
ゼロスは慌ててエンジェルすまーとふぉんを取り出し、震える指で追加課金のボタンを連打しようとした。
その口が、極大殲滅魔法の詠唱を紡ごうと開く。
「……遅ぇ」
ドンッ。
瞬きをする暇すらなく。ゼロスの視界から、龍魔呂の巨体がフッと消えた。
次の瞬間、ゼロスの懐のゼロ距離に、赤黒い阿修羅のオーラが立ち塞がっていた。
「ひぃッ――」
「極道の喧嘩は、相手の詠唱なんて待ってやらねぇんだよ」
極限まで闘気を圧縮した龍魔呂の右ストレートが、ゼロスの顔面のど真ん中へと深々とめり込んだ。
ゴベェェェェッ!!!
凄まじい衝撃と共に、魔法整形で高く整えられていたゼロスの鼻筋が無残にひしゃげた。
カメラの前で爽やかな笑顔を作るための『真っ白なセラミックの歯』が、血と唾液にまみれてポロポロと宙を舞う。
ゼロスの身体は、オリハルコンの鎧ごと後方に吹き飛び、焦げた泥の上を水切りの石のようにゴロゴロと跳ねて転がった。
「あべばぁぁぁぁっ! 痛ぇ! 顔が! 俺様のイケメンの顔がぁぁっ!」
泥まみれになり、顔面を抑えてのたうち回るゼロス。
その顔は、魔法整形が崩れたことで、本来の卑屈で貧相な素顔へと戻ってしまっていた。
ズッ……。
龍魔呂はゆっくりと歩み寄り、もがき苦しむゼロスの足元――不自然に分厚い『厚底ブーツ』を、安全靴で容赦なく踏み砕いた。
バキィッ!
「ギャァァァッ!?」
仕掛けが壊れ、ゼロスの身長は本来の小柄なサイズ(百六十センチ弱)へとガクンと縮んだ。鎧のサイズも合わなくなり、ダボダボの不格好な姿を晒すことになる。
「てめぇを覆っていたメッキは、これで全部剥がれたな」
龍魔呂が冷たく見下ろす中、ゼロスを包んでいたギラギラとした金色のオーラは、極道の闘気によって完全に喰い破られ、彼のステータス画面には赤い文字で『ERROR(システム障害)』と表示され、強制的に課金バフがシャットダウンしてしまった。
◇ ◇ ◇
「うわぁぁぁぁっ! おじさん最強ぉぉぉっ!!」
上空では、キュララの高性能ドローンが、その一部始終を完璧な4K画質で全世界へと生配信し続けていた。
PV稼ぎのために村を燃やしたゲスな勇者が、ただの農家のオヤジにワンパンでメッキを剥がされるという、これ以上ないほどの『本物のざまぁ(エンタメ)』。
キュララの配信コメント欄は、かつてないほどの熱狂と大爆笑、そしてゼロスへの非難で埋め尽くされていた。
『厚底ブーツwwwww』
『剣素手で折られたんだけどwww』
『顔! 整形崩れて元のブサイクになってるじゃねぇか!』
『ダボダボの鎧ww クソダサいww』
『これが俺たちの推してた光の勇者……? ただのイキリチビじゃん……』
『自分で火をつけてボコられるとか、ダサすぎて草も生えない』
さらに、ゼロスにとって致命的だったのは。
顔面を殴られて吹き飛んだ際、彼の耳から『魔導インカム』が外れ、泥の上に転がり落ちていたことだ。
そのインカムのスピーカーから、炎上神ワイズの怒声が、ドローンの高性能マイクを通して全世界に垂れ流されてしまっていた。
『おいゼロス! ふざけんな! てめぇがやられたら俺のPVと広告収入がパーになんっすよ! さっさと立ち上がって死ぬ気で戦えゴミカス! 俺の書いた【台本】通りにやれって言っただろ!』
その醜悪な黒幕の音声が配信に乗った瞬間、ゴッドチューブの視聴者たちは完全に真実を理解した。
『台本!?』
『やっぱりヤラセかよ!!』
『「ワイズ」って、最近神界に入ったっていう炎上神か!?』
『神様が裏で糸引いて村燃やしてヤラセ配信してたんか! 最低だ!』
『通報しろ! 天界の監察局に即通報だ!』
――大炎上。
それはワイズが望んだ「悲劇の炎上」ではなく、彼ら自身の悪行が暴かれたことによる、完全なる『社会的抹殺の炎上』であった。
◇ ◇ ◇
「ひ、ひぃぃぃぃっ……! ごめんなさい! 許して! もうしませんからぁっ!」
全てを失い、ステータスも本来の貧弱なものに戻ったゼロスは、泥水と血と鼻水を顔中になすりつけながら、龍魔呂の足元に縋りついて土下座をした。
「俺は悪くねぇんだ! 全部ワイズ様……炎上神の命令でやっただけなんだ! 俺様は命令に従っただけで……ッ!」
見苦しく命乞いをし、責任をなすりつけるその姿に、同情の余地など一ミリも存在しない。
「……泣いて謝って許されるなら、極道は要らねぇんだよ」
龍魔呂は、冷酷な目でゼロスを見下ろした。
そして、極限まで闘気を練り上げた右足を、ゆっくりと持ち上げる。
「俺の畑の肥料にしてやる。……極道流、太陽芋の追肥(顔面蹴り上げ)」
ドゴォォォォォォォォォォォッ!!!!
「あべぼばぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
龍魔呂の無慈悲なフルスイングの蹴り上げが、ゼロスの顎を完璧に打ち抜いた。
凄まじい衝撃音と共に、オリハルコンの鎧を着たハリボテの勇者は、空高く――それこそ雲を突き抜けるほどの高さまでカチ上げられ、白目を剥いて完全に気絶した。
ドシャァァァァッ!
数秒後、畑の隅の肥溜めに、頭から見事に突き刺さる。
「……ふぅ」
龍魔呂は、闘気をスッと収めると、首のタオルで汗を拭い、真鍮製のライターで新しいマルボロに火をつけた。
燃え盛っていた太陽芋の畑の火は、龍魔呂の放った闘気の余波によって、すでに完全に鎮火している。
「……信じられない」
その一部始終を。
泥だらけになって座り込んでいた天使長ヴァルキュリアが、呆然と見つめていた。
天界の最高戦力である自分が、手も足も出なかった課金ステータスのバケモノを。
ただの農家が、一切の魔法も使わず、ただ純粋な『理不尽な暴力』だけで、真っ向から粉砕してしまったのだ。
「お、おじさぁぁぁぁんっ!! カッコいいぃぃぃっ!!」
「最高よおじさんっ! やっぱり神様なんてロクなもんじゃないわね!」(※自分も神である)
遠くの縁側から、ルチアナとカグヤが芋ジャージ姿で飛び跳ねて喝采を送っている。
極道農家のブレない規律と、圧倒的な実力。
それは、天界の法やシステムすらも凌駕する、絶対的な『コンプライアンス』の証明であった。
そして、この光景をモニター越しに見せつけられた天界の黒幕は、ついにその偽りの余裕を完全に崩壊させることになるのである。
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