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『極道農家のスローライフ〜ただ畑を耕していただけなのに、なぜか三国を無血制圧する覇王として崇められています〜』  作者: 月神世一


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EP 5

竹林の強制労働と、極上タケノコ土鍋ご飯

 ポポロ村の裏山には、長年放置され、うっそうと生い茂った巨大な竹林が広がっていた。

 太陽の光すら遮るほど密集した青竹の林の中で、「カーッ! なんで私がこんなことぉぉっ!」という、下品で泥臭い絶叫が木霊していた。

「あぁぁっ! ネイルが! 昨日ルナミスのサロンで一万Gかけてやってもらったばかりの、月人君のイニシャル入り3Dネイルが泥だらけぇぇっ!」

 紫色の芋ジャージに身を包んだ月の女神カグヤが、UR農具のクワを放り出し、泥まみれになった自分の爪を見つめて大泣きしていた。

「うるさいわね新入り! アンタが愚痴ってる間にも、マグローザ漁船(借金取り)の足音は迫ってきてるのよ! ほら、ノコギリ貸してあげるから、そこの太い竹を切りなさい!」

 ピンク色の芋ジャージを着た世界神ルチアナが、額の汗を拭いながら先輩風を吹かせる。彼女はすっかり農作業の所作が板についており、手際よく竹の枝を打ち落としていた。

「誰が新入りよこのドンキ女! だいたい、なんで借金の額が少ない私まで、こんなドロドロになって働かなきゃいけないのよ!」

「車のスクラップ代と竹取パフェの代金、それに『農家のオヤジ(龍魔呂)への慰謝料』が含まれてるからに決まってるでしょ!」

「……てめぇら、口を動かす暇があるなら手を動かせ」

 カチッ。

 竹林の静寂を切り裂く、真鍮製のオイルライターの音。

 俺――鬼神龍魔呂は、切り株の上に腰掛け、マルボロの煙を細く吐き出しながら二柱の神を睨みつけた。

「竹林ってのはな、手入れをサボると根を張って他の畑まで侵食してくる厄介なシロモノだ。間引いて日当たりを良くしねぇと、春の恵みである『タケノコ』が美味く育たねぇんだよ」

 俺は立ち上がり、足元の盛り上がった土のひび割れを指差した。

「そこを掘ってみろ。ポポロ村特産『大名タケノコ』が眠ってる。ただし、傷つけたら商品価値が下がる。慎重に周りの土を退かして、根元の赤いイボイボのところを一刀両断するんだ」

「タ、タケノコ……っ! これを掘れば借金が減るのね!」

 カグヤは目の色を変え、クワを握り直して土を乱暴に掘り返した。

 ザクッ! バキィッ!

「あーっ!」

 カグヤが力任せにクワを振り下ろしたせいで、土の中から顔を出していた立派なタケノコの先端が、無残にも真っ二つにへし折れてしまった。

「……てめぇ」

 俺の背後から、阿修羅の如き極道の闘気が立ち昇る。

「バカ野郎。タケノコは傷が命だと言っただろうが。売り物にならなくなったじゃねぇか」

「ヒィッ! ご、ごめんなさい! だって土が固くて……!」

「貸してみろ。手本を見せてやる」

 俺はカグヤの手から専用の細長いクワ(タケノコ掘り用)を奪い取ると、別の土のひび割れの前にスッと腰を落とした。

 極道の刃物捌きに、力みは不要だ。

 クワの刃先を、タケノコの曲がり具合から推測した『根元』の急所へと、正確無比な角度で滑り込ませる。

「極道流・タケノコ狩り(一刀両断)」

 スパーーーンッ!!

 テコの原理と極道の体重移動が完璧に融合した一撃。土の抵抗を全く感じさせない滑らかな音と共に、大人の太ももほどもある巨大な大名タケノコが、傷一つない完璧な状態でスポーン!と土の中から飛び出してきた。

「「おおおおおぉぉぉっ!!!」」

 ルチアナとカグヤが、あまりの美技に拍手喝采を送る。

「見たか。これがプロのシノギだ。お前らもこれくらい綺麗に掘り出せ。……夕方までにこの斜面のタケノコを全部掘り尽くし、古い竹を三十本切り倒せば、今日の晩飯はとびっきりのご馳走にしてやる」

「ご……ご馳走……ッ!!」

 その単語を聞いた瞬間、二柱の神の瞳に、ギラギラとした『飢えた野獣の光』が宿った。

 昨夜の極道・竹取パフェの記憶、そして今朝のふろふき大根の圧倒的な旨味が、彼女たちの脳髄にフラッシュバックする。

 借金返済など、もはや二の次だ。美味い飯を食うために、働く。ただそれだけが、今の彼女たちを突き動かす原動力となっていた。

「どきなさいよルチアナ! そこのデカいタケノコは私が掘るわ!」

「アンタはあっちの竹でも切ってなさいよ! タケノコ掘りのキャリアは私の方が長いのよ!(二日目)」

 神と神が、互いに意地を張り合いながら、凄まじいスピードで竹林を開拓し始めた。

 紫ジャージとピンクジャージが、泥まみれになりながらクワを振り下ろし、ノコギリで竹を切り倒していく。神特有の無尽蔵のスタミナと、飯への執念ヤケクソが合わさることで、鬱蒼としていた裏山の竹林は、あっという間に見通しの良い美しい竹林へと生まれ変わっていった。

 ◇ ◇ ◇

 そして、夕暮れ時。

 ポポロ村の広場にある赤提灯の下に、二つの泥人形がヘナヘナと崩れ落ちた。

「ぜぇ、ぜぇ……。やった……斜面のタケノコ、全部掘り尽くしたわよ……」

「古い竹も……三十本、キッチリ切ってやったわ……。指の皮がズルズルよ……」

 ルチアナとカグヤは、全身を泥と汗でドロドロにしながら、精根尽き果てていた。

 だが、その顔には、都会のタワマンでギャラ飲みをしている時には絶対に得られない、奇妙な『達成感』と『爽快感』が浮かんでいる。

「……まぁ、口だけじゃなく、キッチリ手は動かしたようだな」

 俺は、裏で井戸の水を浴びてこいと手ぬぐいを投げ渡し、厨房で飯の支度を整えた。

 二人が泥を落として縁側に戻ってくると同時に、俺はドンッ!と巨大な土鍋と、湯気を立てる大鉢をテーブルに置いた。

「今日のシノギの報酬だ。たっぷり食いな」

 俺が土鍋の蓋を開けると、フワァァァァッ……と、出汁の香りと焦げた醤油、そして竹の爽やかな香りが、暴力的なまでに広場に充満した。

「極道特製・豚バラと大名タケノコの土鍋ご飯。そして、ワカメとタケノコの極上若竹煮だ」

 土鍋の中では、黄金色に色づいた銀シャリの上に、今日二人が掘り出したばかりの『大名タケノコ』が、これでもかとゴロゴロ乗っている。さらに、分厚く切った『シープピッグのバラ肉』が一緒に炊き込まれており、豚の甘い脂がご飯の隅々にまでコーティングされ、テカテカと黒光りしていた。

 大鉢の若竹煮は、透き通ったカツオと昆布の合わせ出汁の中で、タケノコの穂先と、ポポロ村特産の肉厚な魔法ワカメが、上品に煮含められている。

「タ、タケノコご飯……ッ!」

 カグヤの喉が、ゴクリと大きく鳴った。

 俺がそれぞれの茶碗に、おこげがたっぷりついた部分をよそってやると、二人は狂ったように箸を突き出した。

「い、いただきますっ!」

 カグヤが、豚バラ肉とタケノコを一緒に白米ごと掻き込む。

 サクッ、ジュワァァァァァァッ……!

「……ッッ!!!」

 カグヤの瞳孔が限界まで見開かれた。

 掘りたてのタケノコは、エグみが一切なく、まるでとうもろこしのように甘い。そして、歯を立てた瞬間の「サクッ」という小気味良い食感が、脳髄を直接マッサージしてくるかのような快感をもたらす。

 そこに、シープピッグの暴力的な豚の旨味と脂、出汁を限界まで吸い込んだ米の甘み、そして焦げた醤油の香ばしさが、口の中で渾然一体となって爆発したのだ。

「あぁぁぁぁぁ……っ! 美味しいぃぃぃっ!」

 カグヤの目から、再び大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

「タケノコがサクサクで甘いぃっ! 豚バラの脂がご飯に染み込んでて、無限に食べられちゃうわぁぁっ! 若竹煮のお出汁も、優しくて上品で……っ! ルナミスの超高級料亭のコース料理なんて、ただの塩水に思えるわぁぁぁっ!」

「ハフッ、んぐっ……! やばい、今日の大根定食を超えてきたわ! おじさん、おかわり! おこげ多めで!」

 ルチアナも、顔を茶碗に突っ込むような勢いで土鍋ご飯を平らげていく。

 自分が汗水垂らし、爪に泥を詰まらせて掘り出した食材。

 それが、極道農家の腕によって究極の料理へと昇華され、極限まで空腹になった胃袋に流し込まれる。

 カグヤは、もはや自分が気高き月の女神であったことなど、完全に忘却の彼方へと投げ捨てていた。

「はぁぁ……っ♡」

 茶碗を三杯おかわりしたカグヤは、パンパンに膨れたお腹をさすりながら、紫ジャージ姿で縁側に寝転がった。

「……ルチアナ。アンタが借金してまで、この村に居座りたがる理由……ちょっと分かった気がするわ」

「でしょ? ここのご飯食べたら、天界のネクタル(神酒)なんてただの泥水よ」

「明日も……明日もタケノコ掘るわ。私、タワマン解約して、この紫ジャージで生きていく……」

 パリピ気質でマウントを取っていたカグヤは、こうして完全に極道の胃袋に捕らえられ、ポポロ村の竹林という『新たな資源』の開拓要員として調教されてしまった。

 しかし、神々が満腹になっていびきをかき始めたその夜、彼女たちの借金フルローンの取り立てという現実が、容赦なく襲いかかってこようとしていることなど、まだ誰も知る由はなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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次回もお楽しみに!

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