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『極道農家のスローライフ〜ただ畑を耕していただけなのに、なぜか三国を無血制圧する覇王として崇められています〜』  作者: 月神世一


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EP 9

追手襲来!? からの代引き着払い

 ビリビリビリビリッ……!!!

 ポポロ村の広場を包み込んでいた空気が、異常な静電気を帯びて激しく振動していた。

 ルナの『純金無限生成(市場崩壊)』を俺のゲンコツで阻止した直後。夜空を切り裂き、圧倒的で冷徹な『神気』のプレッシャーが、一直線にこの広場へと降下してきていたのだ。

「あ、あぁ……ウソでしょ……。すまーとふぉんのGPSは切っておいたのに……!」

 ピンク色の芋ジャージを着た世界神ルチアナが、顔面を土気色にして俺のツナギの裾にすがりついた。

「ヴァルちゃんが……怒りの天使長(委員長)が、私を連れ戻しに追ってきたぁぁぁぁぁっ!! あの規律と残業を強要する冷徹なオーラ……間違いないわ! 捕まったら、また山積みの決裁書類の前に五時間正座させられちゃうぅぅっ!」

 ルチアナはガタガタと震え、完全に俺の背後に隠れ切った。

 リーザやキャルルも、降り注ぐ異常なプレッシャーに身構え、武器に手をかける。

 ズドォォォォォォンッ!!

 凄まじい風圧と共に、広場の中央に一つの人影が舞い降りた。

 巻き上がった土煙。その奥から現れたのは、黄金の翼と聖なる槍を構えた怒りの天使長――では、なかった。

「まいどおおきにーっ! ルナ・イーツ超特急便でおまっ!」

 土煙を払って現れたのは、コテコテの関西弁を喋る、派手なジャンパーを着た男だった。

 背中には、緑色の巨大な四角い『ルナ・イーツ専用保温バッグ』を背負い、首からは業務用の魔導通信石をぶら下げている。

 その男――ロード(本名:始祖竜クロノ。時間を操るチート竜だが、現在は過去を悔やみ堅実な宅配バイト中)は、サンバイザーをクイッと上げて人懐っこい笑顔を見せた。

「……えっ?」

 俺の背後で震えていたルチアナが、恐る恐る顔を出した。

「……ヴァ、ヴァルちゃんじゃない? ていうか、アンタ誰よ!? なんでただの配達員が、天界の最高戦力みたいなオーラ出しながら降りてくんのよ!」

「あぁ、これ(オーラ)でっか?」

 ロードは背中の巨大バッグをポンポンと叩いた。

「今回の荷物、お客様から『絶対に傷つけんといてや』って特注扱いやったんでな。ワテの『気(時間停止結界)』で保護フィルム張っとったから、ちょっと魔力が漏れとったかもしれまへんな。驚かせてもうてスンマセン」

(※始祖竜の絶大な時間操作能力を、ただの荷物の緩衝材として使っているだけのプレッシャーだった)

「なんだ……配達員か」

 俺は構えていた拳を下ろし、マルボロの煙を吐き出した。

「えーっと、お届け先は……『永遠の17歳☆月人推し』様やな? いてはりますかー?」

「あ、はい……それ、私のアカウント名だけど」

 ルチアナが手を挙げると、ロードはバッグのジッパーをジリジリと開け、中から一つの長細い巨大な箱を取り出した。

「お買い上げ、地球ニホンからの直輸入プレミア品! 『朝倉月人・等身大抱き枕(添い寝ボイス付き初回限定版)』でおまっ!」

「ああああぁぁぁぁっ!!」

 ルチアナが、悲鳴のような歓声を上げて箱に抱きついた。

「月人君の抱き枕! これ、天界の通販サイトでずっと品切れになってたやつ! これで毎晩、月人君の『お疲れ様、今日も頑張ったね♡』って囁きを聞きながら眠れるわぁっ!」

 ルチアナの顔が、アイドルの限界オタクのそれに成り下がり、箱に頬ずりをしている。

「ホンマにええ品でんな。ほな、お代いただきまひょか」

 ロードが、首から下げた端末をカチャカチャと操作した。

「代引き決済で、送料込み『金貨五枚(五万円)』になりまっせ!」

「……え?」

 ルチアナの動きが、ピタリと止まった。

「……だ、代引き?」

「せや。お客様のクレジットカード、限度額いっぱいでエラー弾かれたみたいやさかい、自動的に代引き(着払い)に変更されとりますわ」

 その言葉を聞いた瞬間、ルチアナの顔面から一気に血の気が引いた。

 そうだ。昨日の夜、俺の赤提灯屋台でハイボールを煽って泥酔していた時、「クレカがダメでも代引きならポチれるじゃない!」と、ヤケクソになって注文ボタンを押した記憶が、走馬灯のように蘇ってきたのだ。

「あ、あわわわわ……っ」

 ルチアナは、自身のジャージのポケットをひっくり返した。

 出てきたのは、ホコリと、パチンコ屋で拾った銀玉が数個だけだ。

「ど、どうしよう……! さっきのご利益造花の売上、ニャングルが全部天界の『借金返済口座』に強制送金しちゃったから……今、手持ちの現金が一円(同粒一枚)もないわ……ッ!」

「……はぁ?」

 ロードの顔から、エセ関西弁の愛想笑いがスッと消え失せた。

「なんやて? 代引きで注文しといて、ゼニがないやと?」

 その瞬間、ロードの背後から、先ほどの神気とは違う、始祖竜としての純粋な『水爆ブレス級の殺気』がチラリと漏れ出した。

「ワテはな、ルナキン(ファミレス)の朝食セット食うてから、休憩挟んでずっと走り詰めなんや。……ワテの貴重なタイム・イズ・マネーを、巻き戻せ言うんか、ワレ?」

「ヒィィィィッ!? ご、ごめんなさい! でも本当にないの! お願い、少し待って! また造花作るから!」

「んなアホなこと言われても困るんや! キャンセルならペナルティ料金もらいまっせ!」

「バカじゃないのルチアナ!?」

 リーザが横から強烈なツッコミを入れた。

「借金でマグローザ漁船行きになりかけてたのに、なんで五万円もする抱き枕なんてポチってんのよ! ポイ活同盟の恥よ!」

「だってぇ! 推し活は生命維持に必要な経費だもん!」

「ふざけんな! 金払わんかい!」

 世界神と始祖竜(配達員)と人魚姫が、広場の真ん中で「金がない」「払え」「バカ」という、あまりにも底辺すぎる醜い言い争いを開始した。

「……世も末ですわ」

 キャルルが本日何度目か分からない絶望のため息をつく。

「……おい」

 俺は、真鍮製のライターをカチリと鳴らし、ゆっくりと三人の間に割って入った。

「俺のシマで、みみっちいカネの話で喚き散らすんじゃねぇ」

 俺の低くドス黒い声に、ルチアナとロードがビクッと肩を震わせる。

「なんや兄ちゃん? ワテは正当な業務をしとるだけやで」

「あぁ、分かってる。配達の兄ちゃんには何の非もねぇ。悪いのは、金もねぇのに代引きでポチったこのポンコツジャージ女だ」

 俺は、作業着のポケットからジャラッと音を立てて『金貨五枚』を取り出し、ロードの手に無造作に押し付けた。

「ほら、金貨五枚だ。釣りは要らねぇ、とっておきな」

「おおっ!? 兄ちゃん、ホンマでっか!?」

 ロードの顔がパァッと明るくなり、再びエセ関西弁の愛想の良い兄ちゃんに戻った。

「兄ちゃん、ええツラしとるな! 毎度おおきに! ほな、ワテはこれからルナキンで夕食Cセット食うてサウナ行ってきまっさ!」

 ロードは金貨を大切に懐にしまうと、上機嫌で夜空へと飛び去っていった。

「お、おじさぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 ルチアナが、朝倉月人の抱き枕の箱を抱きしめながら、俺の足元にスライディング土下座をかました。

わたしの救世主ぅぅぅっ! ありがとう、ありがとう! おじさんのこと、天界のVIPリストに登録しておくからねっ!」

「勘違いすんな」

 俺は、すがりつくルチアナの頭に、ゴツン!と軽めのゲンコツを落とした。

「痛っ!」

「極道は、借りをそのままにはしねぇ。これは明日からの『大根引き抜き作業』の給料の、前借りだ」

 俺はマルボロの煙を吐き出し、ニヤリと笑った。

「金貨五枚分。……腰が砕けるまで、キッチリ働いてもらうからな」

「ええええええっ!? 金貨五枚分の農作業ぉ!? それ、一生終わらないんじゃないのぉぉっ!?」

 月明かりの広場に、ポンコツ女神の絶望の悲鳴が響き渡る。

 市場崩壊の危機をゲンコツで救い、神の代引きを立て替えてやる。極道農家のコンプライアンスは、相手が神だろうが竜だろうが、決してブレることはない。

 ……だが、この醜くも平和なドタバタ劇の裏側で。

 天界の執務室のデスクでは、クレジットカードの明細と山積みの書類を前に、天使長ヴァルキュリアの『本物の怒り』が、いよいよ臨界点を突破しようとしているのだった。


 推し活の代償として、永遠の農作業ループに囚われた家出女神。

 だが、ポポロ村の平穏な日常の裏で、いよいよシリアスな「天界の監査」の足音が、確実に迫りつつあった。

お読みいただきありがとうございます!


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