EP 4
「異常な農作業。URスコップによる一瞬の整地」
「ここが北の廃棄区域か。確かに、石っころと魔獣のフンだらけで酷ぇ有様だな」
俺はマルボロの煙を吐き出しながら、自分の背丈ほどもある雑草の海を見渡した。
「だが、極上の土台だ。数秒で更地にしてやる」
ポポロ村の北側に広がる荒れ地。
普通の農家なら、雑草を刈り、石を取り除き、土を耕すだけで数年がかりの大事業になるだろう。だが、俺はただの農家ではない。農業系大学生にして、女神直通のチート農具を持つ男だ。
「さぁて、シノギ(農作業)の時間だ」
俺は背中から『URスコップ』を引き抜いた。
ズズズズズ……ッ!
再び、俺の全身から赤黒い極道の闘気が立ち昇る。
この闘気は殺気ではない。これから極上の野菜を育てるための、大いなる『気合』だ。
俺はスコップを大上段に構え、広大な荒れ地の中央に向かって、力任せに振り下ろした。
「土均しだ、オラァァァッ!!」
ドッゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!
大地が爆発した。
スコップの刃が地面に触れた瞬間、放射状に凄まじい衝撃波が走り抜ける。
だが、これはただの破壊ではない。UR農具の隠しスキル『絶対農地化』の力だ。
衝撃波は、農地にとって不要な大岩や魔獣の骨だけをピンポイントで粉砕し、雑草を一瞬で微細な有機肥料へと分解していく。
「おらおらおらおらッ! 気合入れろや土塊どもッ!」
ドガン! バガン! ズドォォォン!
俺が荒れ地を歩きながら数回スコップを振るうだけで、長年放置されていた不毛な大地が、見る見るうちに黒々と輝く、ふかふかの極上腐葉土へと変貌していった。
時間にして、わずか三分。
東京ドーム数個分に匹敵する荒れ地が、完璧な畑へと整地されたのである。
「……ふぅ。まずはこんなモンか」
俺はライターを鳴らし、新しくマルボロに火をつける。
「次は、ハウスの設営だな」
俺は胸ポケットから『エンジェルすまーとふぉん』を取り出し、女神のカード決済で『農業用鋼管パイプ』と『超強化農業用ビニール』を大量にポチった。
空中に魔法陣が浮かび上がり、現代日本のホームセンターから直送された大量の資材がドサドサと積み上げられる。
ここからはスピード勝負だ。
俺は『URハンマー』を取り出し、闘気による超高速移動(縮地)を発動させた。
「オラァッ!」
カンッ! カンッ! カンッ!
赤黒い残像を残しながら、俺は鋼管パイプを正確な間隔で地面に打ち込んでいく。
骨組みができたら、超強化ビニールを一気に被せ、ロープで固定する。
夜の荒れ地に、俺の赤黒い闘気と、尋常ではない金属音がけたたましく響き渡った。
「お、おじしゃま……なにをしてるの……?」
背後から、間抜けな声が聞こえた。
振り返ると、プラチナブロンドの髪に泥をつけたエルフの嬢ちゃん——ルナが、ふりふりのドレスの裾を引きずりながら立っていた。
その目は、俺の手元ではなく、俺のポケット(角砂糖が入っている場所)に釘付けになっている。
「あ? 見て分からねぇか。ビニールハウスを建ててるんだよ」
「びにーる、はうす……? そんなことより、あの、その……白い、甘いブロックは、もうないの……?」
「あぁ、あれか」
俺はポケットから角砂糖を一つ取り出し、指先で摘んで見せた。
ルナの翠緑の瞳が、ハシビロコウのようにスッと細くなり、ロックオン状態になる。ヨダレが口の端から垂れていた。
「……おじしゃま、それ、ちょうだい。私、世界樹の次期女王だから、なんでも言うこと聞くからぁ……」
「馬鹿野郎。俺のシマ(畑)じゃ、肩書きなんざ関係ねぇ。働かざる者食うべからずだ。これが欲しけりゃ、お前も手伝え」
「て、手伝う! なんでもする!」
「よし。じゃあ、俺が種を撒いた端から、お前の魔法で適度に水を撒け。絶対に暴発させるなよ。少しでも苗を傷つけたら、砂糖は抜きだ」
「はいっ! ルナ、一生懸命お水撒きますぅぅ!」
チョロい。
こうして俺は、角砂糖一つでエルフの次期女王を『水やり係の住み込みバイト』として雇い入れることに成功した。
◇ ◇ ◇
[幕間:月兎族の村長 キャルル 視点]
「……なんなの、あれは」
私は村の長屋の屋根に上り、北の荒れ地の方角を見て、絶望的な声を出していた。
先ほどまで、あそこは石と魔物が蔓延る不毛の地だったはずだ。
だが今、私の目の前には、月光を反射して異様な光を放つ『巨大な半透明のドーム』が、突如として出現していた。
そのドームからは、先ほどの男が放っていた赤黒い禍々しいオーラが、結界のように立ち昇っている。
(たった数十分よ!? たった数十分で、地形を変え、あんな巨大で強固な『魔法防壁』の基地を築き上げるなんて……!)
私の兎の耳が、危険を知らせるようにピリピリと震えていた。
ドームを覆うあの透明な物質は、いかなる魔法も物理攻撃も弾き返す、未知の超魔法素材に違いない。
それに、ドームの内部からは、恐ろしいほどの魔力反応(ルナちゃんが水やりをしている魔法の余波)が感じられる。
(あの男……『ただの農家』だなんて、とんでもない嘘つきね! あんな難攻不落の軍事要塞を一夜にして作り上げるなんて、完全に三国の国境を制圧する気じゃない!)
心音からは嘘は聞こえなかった。
だが、現実がこうして目の前にある。
(もしやあの男は、己の恐るべき野望すらも完全に隠蔽できる『真の覇王』だというの……!?)
私はブルリと身震いし、このポポロ村の、いや、世界の明日に思いを馳せざるを得なかった。
◇ ◇ ◇
「よし、終わったぜ」
キャルルが勝手に恐怖に震えていることなど露知らず、俺は完成したビニールハウスの中で、額の汗を拭っていた。
見渡す限りの完璧な畝。すでにルナの魔法によって適度な水分が含まれ、黒々とした土が生命の息吹を待っている。
ルナは疲れ果てたのか、ハウスの隅っこで「砂糖ぉ……えへへぇ……」と呟きながら丸くなって寝ていた。
「さぁて、インフラは整った。次は種まきと……極上の男飯の準備だ」
俺は腹の虫が鳴るのを聞きながら、スマホの『食品』カテゴリーを開き、ニヤリと笑った。
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