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『極道農家のスローライフ〜ただ畑を耕していただけなのに、なぜか三国を無血制圧する覇王として崇められています〜』  作者: 月神世一


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EP 7

『炎上神の暗躍と、特定班のデジタルタトゥー』

 天界の薄暗い一室。

 無数のモニターが並ぶサイバー空間で、中途採用の『炎上神ワイズ』は、マイタンブラーに入れたカプチーノを啜りながら、不快そうに舌打ちをした。

「……チッ。なんだこの胸糞悪いハッピーエンドは。せっかくのヤラセ大食い企画が、極道の説教で『感動の涙の完食』にすり替わってやがる。これじゃあ炎上バズどころか、ただの好感度アップじゃねぇか」

 モニターには、昨日のキュララの大食い配信のアーカイブが映し出されていた。

 同接は過去最高を記録し、コメント欄は感動とスパチャで埋め尽くされている。だが、他人の不幸と絶望を極上のエンタメとするワイズにとって、こんな綺麗なオチは反吐が出るほどつまらなかった。

「平和に更生? 笑わせんな。神聖なるゴッドチューブを、ただのお料理チャンネルにする気かよ。……俺が直々に、最高の『絶望と胸糞ヤラセ』の舞台に書き換えてやる」

 ワイズは底意地の悪い笑みを浮かべ、専用のエンジェルすまーとふぉんを操作し始めた。

 彼のアプリの限度額は『無限』。そのチート権限を使い、アナステシア大陸の裏社会ネットワークへと不正アクセスを行う。

「おっ、ちょうどいい手駒がいるじゃねぇか。ルナミス帝国周辺を荒らしている強盗団『ブラッド・ファング』。……おい、聞こえるか?」

 ワイズは魔導通信石を通じて、強盗団のリーダーに直接タレコミを入れた。

『あぁ? 誰だてめぇ』

「神様だよ。お前らに、とびきり美味いシノギを教えてやる。今、ポポロ村って辺境の村に、ネットで一番バズってる天使の小娘がいる。……あそこには世界樹から贈られた『純金一〇〇キロ』も隠されてるらしいぜ」

『なんだと!?』

「お前らの持ってる魔導戦車を使えば、あんな田舎の村、一捻りだろ? 俺が特別に、お前らの戦車の魔力タンクをフルチャージ(課金)してやる。小娘を泣かせて絶望させ、村の財宝を根こそぎ奪ってこい。その様子を配信すれば、歴史に残る大炎上間違いなしだ」

 ワイズの狙いは明確だった。

 悪党どもに村を蹂躙させ、キュララが絶望の底で泣き叫ぶ瞬間を全世界に配信する。そして、そこにワイズの契約勇者であるゼロスを投入し、悪党を倒させてヒーローに仕立て上げる『完璧なマッチポンプ』だ。

「さぁ、極上(最悪)のエンターテインメントの始まりだぜ……!」

 神の悪意が、黒い欲望となってポポロ村へと放たれた。

 ◇ ◇ ◇

「あぁ〜っ、手が荒れちゃうよぉ〜! 天使のプルプルお肌が台無しだぁ〜!」

 その頃、ポポロ村の村長宅シェアハウス

 キュララはド派手な聖騎士の鎧の上に割烹着を羽織り、キッチンの流し台で大量の皿と洗面器サイズの丼十個を必死に洗っていた。

「ふふん、自業自得ね。おじさんのご飯を冒涜しようとした罰よ。しっかり洗いなさい」

「リーザちゃんズルい! なんでパンの耳かじりながら偉そうに監視してるの!?」

 リーザは雑草サラダとパンの耳を優雅(?)につまみながら、労働するキュララを特等席で鼻で笑っていた。

 昨日の今日で、キュララはすっかりこのシェアハウスのヒエラルキー最下層に組み込まれていた。

「おじさぁん、もう許してよぉ! 丼十個洗うの、腕がパンパンになっちゃうぅ!」

 キュララが涙目で振り返るが、俺――龍魔呂は庭で愛車のパンアメリカを磨きながら、鼻で笑った。

「食いっぱぐれたくなきゃ働け。この俺のシマじゃ、タダ飯は食わせねぇ。洗い物が終わったら、次は裏の畑で米麦草の雑草抜きだ」

「えええぇぇぇっ!? 私、一応トップ・ゴッドチューバーなんだけど!?」

 キャルルとルナが縁側でお茶を飲みながら「龍魔呂様の教育、素敵ですわ♡」「畑仕事、私もお手伝いしますぅ」と和んでいる。

 平和な昼下がり。

 このまま何事もなく、極道農家のスローライフが続くはずだった。

 ――ズドォォォォォォォォンッ!!!

 突如として、村の入り口方面から、大地を揺るがす強烈な爆発音が響き渡った。

「な、なんだ!?」

「きゃあああっ!?」

 リーザが食べかけのパンの耳を落とし、キュララが洗っていた皿を取り落とす。

 俺はパンアメリカの磨き布を置き、ゆっくりと立ち上がった。

 

 村の入り口に、分厚い土煙が舞い上がっている。

 その煙を切り裂いて姿を現したのは、鈍色の重装甲に身を包み、大口径の魔砲を天に突き上げた鋼鉄の怪物――『魔導戦車』だった。

「ヒャッハー! 神様のタレコミ通りだぜ! 防壁すらない、ただの田舎の農村じゃねぇか!」

 戦車のハッチから身を乗り出したのは、モヒカン頭に傷だらけの顔をした、いかにも絵に描いたような悪党――強盗団『ブラッド・ファング』のリーダーだ。

 その後ろには、武装した荒くれ者たちが数十人、バギーや武装バイクに乗ってヒャッハーと雄叫びを上げている。

「おい、あのバズってる天使の小娘と、金になりそうな女どもをひっ捕らえろ! 少しでも抵抗する奴がいりゃ、このドンガン地下帝国製の魔導戦車で、畑ごとミンチにして肥料にしてやるぜェ!」

「ひぃぃっ!? な、なんかヤバそうなのが来たぁぁっ!」

 キュララが腰を抜かして震え上がる。

 だが、彼女の『ゴッドチューバーとしての本能』が、恐怖をわずかに上回った。

(ま、待って。今ここで逃げたら、またリスナーが離れちゃう! 逆に、ここで私が村を守るために戦う姿を配信すれば……好感度も同接も、爆上がり間違いなしじゃない!?)

 キュララは割烹着を脱ぎ捨て、魔導通信石を自律浮遊のドローンモードに切り替えた。

 そして、カメラのレンズに向かって、バッチリとキメ顔を作る。

「みんなー! 緊急事態だよ! ポポロ村に悪い強盗団が攻めてきちゃった! でも安心して! この村と、昨日美味しいカツ丼を作ってくれたおじさんは……天使キュララが、絶対に守ってみせるからっ☆」

『おおおおっ! キュララちゃんカッコいい!』

『相手、本物の魔導戦車だぞ!? 逃げろ!』

『いや、天使の力を見せてやれ!』

 コメント欄が一気に沸騰する。

 キュララは背中の小さな羽を広げ、悪党たちの前に立ちはだかった。

「悪い強盗さん! これ以上、この村を荒らすのは私が許しませんっ! 天界の裁きを受けなさい!」

 彼女のド派手な聖騎士の鎧が、眩いほどの光を放ち始める。

 周囲の空気が振動し、圧倒的な光属性の魔力がキュララの手に集中していく。そのエフェクトの派手さは、神話の英雄すら凌駕するほどの圧倒的な『映え』だった。

「食らえっ! 究極光魔導――『ホーリー・スプラッシュ』ぉぉぉぉっ!!!」

 ズッバァァァァァァァァァァンッ!!!!

 キュララの手から、極太の光のレーザーが放たれた。

 それは周囲の空気をプラズマ化させながら、魔導戦車の正面装甲へと一直線に突き刺さった。

 目も開けられないほどの閃光が辺りを包み込み、リスナーたちも「勝ったな!」と確信するほどのド派手な一撃。

 ――そして、光が収まった。

「……ふぅ。決まったねっ☆」

 キュララがドヤ顔でVサインを作った。

 しかし。

「…………あ?」

 土煙が晴れた後、そこにあったのは。

 傷一つ、いや、すす一つ付いていない、新品同様にピカピカの魔導戦車の姿だった。

「……えっ?」

 キュララの笑顔が引きつる。

 彼女の放った『ホーリー・スプラッシュ』は、確かに圧倒的な魔力を消費する技だが……その魔力の九九パーセントを『光と音の派手なエフェクト(映え)』に全振りしているため、実際の物理的・魔法的破壊力は『ほぼゼロ』なのだ。

 言ってしまえば、ただの『超ド派手なフラッシュ・カメラ』である。

「……おい。今、なんか眩しかったな」

「あぁ、目がチカチカしたぜ。……で? 今のカメラのフラッシュみたいなのが、てめぇの必殺技かァ?」

 強盗団のリーダーが、心底呆れたように鼻で笑った。

「え、うそ、フルパワーだったのに……っ! ノ、ノーダメぇぇぇっ!?」

「ギャハハハハッ!! 笑わせるぜ、ただの目眩ましかよ! おい野郎ども、こんな小娘ほっといて、まずはあの目障りな畑から火炎弾で焼き払ってやれ!」

「了解だァ、頭ァ!」

 魔導戦車の砲塔が、キュララを通り越し、俺が昨日開拓したばかりの『極上米麦草の畑』へと向けられた。

 砲口に、灼熱の魔力が集束していく。

「ああっ! おじさんの畑がぁぁっ!」

 リーザが悲鳴を上げた。

 ドォォォォォンッ!!

 戦車の主砲から、容赦のない火炎弾が撃ち出された。

 だが。

 その火炎弾が畑に着弾するより、ほんのコンマ一秒早く。

 ――バチンッ!!

 放たれた火炎弾は、空中で『見えない壁』に衝突したかのように、いとも容易く握り潰され、ただの火の粉となって虚空に消え去ったのだ。

「……あ?」

 強盗団のリーダーが、間抜けな声を漏らす。

 火炎弾を握り潰したのは、陽炎のように立ち上る『赤黒い闘気』の巨大な腕だった。

 ――カチッ。

 ――カチッ。

 静まり返った村の入り口に、冷たい金属音が響く。

「……おい。てめぇら、今、どこに向かって弾撃ち込んだ」

 土煙の中から、首にタオルを巻いた巨漢がゆっくりと姿を現した。

 俺――鬼神龍魔呂は、左手に真鍮製のライターを持ち、右手に『ペッタンコに潰れた鉄板入り手持ち鞄』をぶら下げていた。

「俺のシマ(村)でデカい音を立てたのは百歩譲って許してやる。だが……俺が手塩にかけて耕した『畑』に、キャタピラで踏み入った挙句、火を放とうとしたな?」

 俺の背後で、赤黒い極道のオーラが、戦車の何倍もの大きさを持つ阿修羅の幻影へと膨張していく。

「命の源である土を、食い物を育む畑を……遊び半分のドンパチで荒らそうって野郎は。神が許しても、この俺が許さねぇ」

 炎上神の仕組んだ最悪のヤラセ・シナリオは。

 畑を何よりも愛する『極道農家の逆鱗』に触れたことで、完全に予測不能の暴力の渦へと叩き落とされようとしていた。

お読みいただきありがとうございます!


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