EP 2
「カタギは守る。天災エルフとの遭遇」
「ポポロ村か。風の匂いがいい。極上の土ができそうだ」
ドゴォォォン!! という爆発音とともに、のどかな村の空が真っ赤に染まった。
「……あ? 誰が俺の予定地に火ぃつけてんだ」
山を越え、三国の緩衝地帯である『ポポロ村』に辿り着いた俺の目に飛び込んできたのは、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
のどかな田園風景が広がるはずの村の中央広場に、全長二十メートルはあろうかという巨大な『炎の龍』がとぐろを巻いている。
「逃げろ! 火炎龍だ!」
「馬鹿な、なぜこんな緩衝地帯に災害級の魔法が……ッ!」
「水魔法部隊、前へ! くそっ、魔力が足りねぇ!」
広場の周囲では、ルナミス帝国の騎士、レオンハート獣人王国の獣兵、そしてアバロン魔皇国の魔族兵といった、三国の国境警備隊が入り乱れて消火と避難誘導にあたっていた。だが、彼らの放つ貧弱な水魔法など、火炎龍の熱線にあっという間に蒸発させられている。
そして、その火炎龍の足元——炎の渦の中心で、一人の少女がへたり込んで大泣きしていた。
プラチナブロンドの長い髪に、長く尖った耳。ふりふりの過剰に豪奢なドレスを着た、美しいエルフの娘だった。
「うわあああん! ごめんなさぁぁい! 村の子が『寒い』って言うから、ちょっと焚き火を作ってあげようと思っただけなのにぃぃ! なんで龍になるのぉぉ!」
(焚き火に牙は生えねぇだろ、馬鹿野郎)
俺は内心で冷静にツッコミを入れた。
どうやら、あのエルフの嬢ちゃんが規格外の魔力を暴発させたらしい。方向音痴ならぬ、出力音痴というやつか。悪気は100パーセント無いようだが、結果的に村を焼き尽くす天災と化している。
「おい、そこ退け」
「ひっ!? な、なんだ貴様は!?」
「一般人は下がっていろ! 焼け死ぬぞ!」
俺は腰の引けている三国の兵士たちを掻き分け、広場の中心へと歩みを進める。
真鍮製のオイルライターを取り出し、マルボロ・赤に火をつけた。
カチッ……カチッ……。
「カタギの村を燃やすたぁ、筋が通ってねぇな。そこは、俺の極上農園の予定地なんだよ」
ズォォォォォォォォ……ッ!!!
俺の全身から、あの赤黒い闘気が間欠泉のように噴き上がった。
周囲の空気が重圧でひしゃげ、火炎龍の放つ熱波すらも、俺の闘気の前ではぬるま湯のようにかき消される。
「な、なんだあの禍々しいオーラは……!?」
「魔王……いや、それ以上の怪物か!?」
「待て、奴が手に持っている武器を見ろ! あれは……鍬!?」
兵士たちが俺を見て震え上がる。
やかましい。ただの『UR農具(鍬)』だ。農業系大学生の必須アイテムだろうが。
俺はマルボロの煙を細く吐き出し、大上段にUR鍬を振りかぶった。
「火事にはなぁ——」
極道のオーラを限界まで鍬に注ぎ込み、俺の足元にある村の広場の『大地』そのものに刃を突き立てる。
「土掛け(物理)だ、オラァァァァァッ!!!」
ドッバァァァァァァァァァァンッ!!!!
鍬で跳ね上げられたのは、土塊などというチャチなものではなかった。
広場一帯の『地層』が、まるで巨大な津波のようにめくれ上がり、火炎龍の頭上から一気にのしかかったのだ。
数万トンはあろうかという土砂の質量兵器。
ギャァァァ! という火炎龍の断末魔は、土砂の崩落音にかき消され、炎は一瞬にして圧殺(鎮火)された。
ついでに、デコボコだった広場の地面は、UR農具の隠し効果によってフカフカの極上の腐葉土へと均されていた。
「……ふぅ。いい土だ。これなら極上の大根が育つぜ」
俺は満足げに頷き、鍬を肩に担ぎ直した。
◇ ◇ ◇
[幕間:ルナミス帝国 国境警備隊 斥候部隊長 視点]
「……見ましたか、隊長」
「あぁ。俺の目玉が腐っていなければ、今、歴史が変わる瞬間を目撃した」
村の端の茂みに身を隠していた俺たちは、ガチガチと鳴る歯の根を必死に噛み締めていた。
世界樹の森の次期女王、ルナ・シンフォニア。彼女の放つ戦略級魔法『火炎龍』を、突如現れた巨漢の男が、たった一撃で……それも、ただ地面をめくり上げるという純粋な暴力のみで消し飛ばしたのだ。
あの禍々しい、天を焦がすような赤黒い闘気。
そして、男の持つ奇妙な杖(鍬のような形をした神話級のアーティファクトに違いない)。
昨日、行商人たちの間で「山を消し飛ばした怪物がいる」という噂が流れていたが、まさか本物だったとは。
「信じられません。エルフの姫君の圧倒的な力を、あのような暴力でねじ伏せ、屈服させるとは……! あの男、エルフの国を丸ごと手中に収める気です!」
「いかん! これは三国間のパワーバランスを根底から覆す異常事態だ! あの謎の覇王が、この緩衝地帯に『領土宣言』をしたのだ!」
俺は震える手で魔導通信石を起動した。
「至急、帝都のマルクス皇帝陛下にお繋ぎしろ! ポポロ村に、三国を脅かす未知の覇王が降臨したとな!!」
◇ ◇ ◇
周囲の兵士たちがなぜか青ざめた顔で後ずさりし、蜘蛛の子を散らすように逃げていく中、俺はただ一人残されたエルフの嬢ちゃんを見下ろした。
俺の190センチの巨体と、顔の傷(ただの転び傷だ)のせいか、嬢ちゃんは完全に腰を抜かしていた。
「おい、嬢ちゃん」
ひぃぃぃぃぃぃぃっ!
俺がドスの効いた声で呼ぶと、エルフの嬢ちゃんは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、地面に額を擦り付けた。
「た、食べないでぇぇぇ! 私、お肉固いし、美味しくないですぅぅ!」
(誰が泣いてるガキを食うか。俺はただの農家だぞ)
俺は深いため息をつき、胸ポケットから『エンジェルすまーとふぉん』を取り出した。女子供を泣かせる趣味は、俺にはねぇ。
「……ポチッとな」
お読みいただきありがとうございます!
評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。




