EP 15
「最強極道農家の宴。そして新たなる影」
「おらっ! ルナミスの旦那、遠慮せずにどんどん食え! レオンハートの獣たちも、今日は無礼講だ!」
「ウォォォン! アバロンの魔族ども、お前らもこの『びーる』とかいう神の酒を飲んでみろ! 脳みそが弾けるぞ!」
巨大ビニールハウスの前で、信じられない光景が繰り広げられていた。
つい先日まで国境で血みどろの殺し合いを演じていた三国の精鋭部隊が、肩を組み、大笑いしながら宴会を繰り広げているのだ。
ルナミス帝国のキュロス、レオンハートのハガル、アバロンのルーベンスといった首脳陣たちも、スマホ通販で取り寄せた冷えた缶ビールとサケスキーのロックを酌み交わし、完全にできあがっていた。
「ぷはぁっ……! こんなに旨い酒と肉があるなら、戦争なんてやってる場合じゃねぇな!」
「あぁ。我々が領土を奪い合っていたのが馬鹿らしくなる。覇王様のこの『シマ』こそが、世界の中心なのだからな」
「覇王様、万歳っ!」
三国のトップたちが、顔を真っ赤にしながら俺に向かってジョッキを掲げる。
俺はパイプ椅子に深く腰掛け、真鍮製のライターを鳴らしてマルボロに火をつけた。
カチッ……。
紫煙をゆっくりと夜空に吐き出す。
「まぁ、よく食ってよく飲む奴らは嫌いじゃねぇよ」
俺はただの農家として、ご近所付き合いのバーベキューを開催しただけだ。連中が勝手に感動して仲良くなっているのなら、それに越したことはない。極道のルールその一、カタギは守る。平和が一番だ。
「おじしゃま! ルナ、お肉も食べたけど、ちゅるちゅるのやつも食べたい!」
タレで口の周りを真っ黒にしたエルフの嬢ちゃんが、俺の服の裾を引っ張った。
「おう。ちょうど『締め』を作ろうと思ってたところだ。てめぇら、少し腹空けとけよ!」
俺は巨大な鉄板に、多めのラードを引き、残っていた豚バラ肉と『レ足ス』、そしてスマホ通販で仕入れた極太の中華麺をブチ込んだ。
ジュワァァァァァッ!!
強火で一気に炒め合わせ、仕上げに『濃厚特製ソース』を回しかける。
その瞬間、フルーティーな甘みと、スパイシーな酸味が混ざり合った『ソースの焦げる暴力的な匂い』が、宴会場を支配した。
「な、なんだこの香りは……っ! 今まで嗅いだことのない、悪魔のような匂いがするぞ!」
ルーベンスがジョッキを取り落とし、震える指で鉄板を指差した。
「お待ちどお。豚神風・極上ソース焼きそばだ。紅生姜を添えて食いな」
俺が紙皿に取り分けた焼きそばを渡すと、三国の首脳たちは恐る恐る麺を啜り込んだ。
ズズッ。サクッ。
「――――ッ!?」
三人の動きが、再び完全に硬直した。
モチモチの極太麺に、濃厚なソースがこれでもかと絡みつく。豚脂のコク、野菜の甘み、そして紅生姜の鮮烈な酸味が、口内で完璧なオーケストラを奏でる。
彼らの味覚は、またしても未知の領域へと強制的に引きずり込まれた。
「あ、あひぃぃぃっ! な、なにこれぇぇ!? 甘くて、酸っぱくて、スパイシーで……色んな味が口の中で暴れ回ってるっすぅぅ!」
キュロスが騎士団長の威厳を完全にかなぐり捨てて悶絶した。
「しゅごいっ! 麺が、麺が生き物みたいに喉の奥へ滑り込んでいく! もうダメ、ソースの海で溺れたいぃぃっ♡」
語彙力を崩壊させ、顔をソースだらけにしながら焼きそばを貪るエリートたち。
彼らのその恍惚とした姿を見て、周囲の兵士たちも「俺にもその麺を食わせてくれぇぇ!」と暴動さながらの行列を作り始めた。
「ほらよ、慌てんな。麺はいくらでもあるからな」
俺はトングをカチャカチャと鳴らしながら、マイペースに鉄板で焼きそばを作り続けた。
◇ ◇ ◇
[幕間:人狼族の執事 リバロン 視点]
(……完璧だ。これ以上ないほどの、完璧な統治)
私は、喧騒から少し離れた暗がりで、純白のハンカチで眼鏡を拭きながら狂喜の笑みを抑えきれずにいた。
三国の首脳陣と数万の精鋭が、ただの一夜にして、武器を捨て、憎しみを捨て、龍魔呂様が振る舞う「麺」一つにひれ伏している。
もはや、この大陸において覇王様に逆らえる国家など存在しない。
ルナミスも、レオンハートも、アバロンも、すでにこのポポロ村の軍門に下り、覇王様の絶対的な兵站(胃袋の支配)の鎖に繋がれたのだ。
「フフッ……アハハハハッ! 素晴らしい! これで世界の覇権は、我らポポロ村の手に落ちた! 龍魔呂様……あなたこそが、真の神だ!」
私は泥だらけのスーツのまま、夜空に向かって高らかに笑い声を上げた。
◇ ◇ ◇
[幕間:勇者 ゼロス・ディバイン 視点]
「……なんだって? 三国合同の討伐軍が、たった一夜で謎の男に降伏した?」
遠く離れた勇者の村。高級な宿屋のスイートルームで、白金色の鎧を着た男——勇者ゼロスは、自身の持つ『エンジェルすまーとふぉん』の画面を見て眉をひそめていた。
画面には、ゴッドチューブの裏ニュースチャンネルが表示されている。
『超速報! ポポロ村に降臨した未知の覇王、圧倒的な美食の暴力と精神汚染兵器により、三国の精鋭数万を無血で洗脳・制圧!』
「チッ……俺が魔王を倒してPVを稼ぎ、懸賞金の一億円をもらうシナリオだったってのに。どこから湧いて出たんだ、その覇王ってのは」
ゼロスはイライラとポポロシガーを吹かし、窓の外へ吸い殻をポイ捨てした。
「まぁいい。三国を落とした『覇王』を俺が討ち取れば、ゴッドチューブの再生数は天文学的な数字になる。俺のスキル【マネー】で課金しまくって、そのポポロ村の農家とやらを公開処刑してやるぜ」
ゼロスの白い歯が、邪悪な三日月型に歪んだ。
時を同じくして、地下深くの天魔窟でも、死蟲軍の魔人ギアンが「三国の魂を根こそぎ奪う贄の山」としてポポロ村に狙いを定めていた。
◇ ◇ ◇
「ふぁ……よく食って、よく飲んだな」
俺は片付けを終え、静かになったビニールハウスの前で大きく伸びをした。
周囲では、満腹になった兵士たちやキャルルたちが、そこら中で雑魚寝している。
「おじしゃま……やきそば、おいしかったぁ……」
「おう。また作ってやるから、明日も水やりサボるなよ」
俺はルナの頭を軽く撫で、夜空に浮かぶ月を見上げた。
「さて、明日は大根の間引きと、肥料の追加だな」
俺の極上スローライフは、今日も明日も変わらない。
ただ、世界が勝手に俺を「最凶の標的」として祭り上げていることなど、知る由もなかったのである。
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