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『極道農家のスローライフ〜ただ畑を耕していただけなのに、なぜか三国を無血制圧する覇王として崇められています〜』  作者: 月神世一


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EP 14

「血を流さぬ大侵略。BBQによる無血開城」

[幕間:三国合同・覇王討伐軍 視点]

「……見えてきたぞ。あれがポポロ村のドーム要塞か」

 ルナミス帝国のキュロス近衛騎士団長は、愛馬の上でゴクリと生唾を飲み込んだ。

 彼の隣には、レオンハート獣人王国のハガル近衛騎士団長と、アバロン魔皇国の貴公子ルーベンスが並んでいる。かつては互いの首を狙い合った三国のトップエリートたちが、今は「覇王」という共通の絶望を前に、固い絆で結ばれていた。

「見ろ、要塞の前から尋常ではない『煙』が立ち昇っているぞ!」

「まさか、例の精神汚染ガス(メロロン)の強化版か!? 全軍、防毒マスクを装着しろ!」

 キュロスの号令で、数万の精鋭部隊が一斉に構えを取る。

 だが、風に乗って彼らの鼻腔を撫でたその『煙』は、毒ガスなどではなかった。

「……な、なんだ、この匂いは」

「肉が……極上の獣の脂が、炭火で焼ける匂い……それに、この脳髄を直接刺激するような香ばしい香りは、いったいなんだ!?」

 ルーベンスとハガルが、目を見開いて震え出した。

「馬鹿な……我々は死地へ赴いているのだぞ! なぜ、こんなにも腹が……胃袋が鳴るのだ!」

 キュロスは必死に理性を保とうとしたが、圧倒的な暴力とも言える『バーベキューの匂い』は、防毒マスクのフィルターすら容易く貫通して彼らの食欲を蹂躙した。

 そして、煙の向こう側の光景を見た討伐軍の首脳陣は、完全に絶望の底へと叩き落とされた。

 すでにポポロ村に駐留していた国境警備隊の兵士たちが、武器を完全に投げ捨て、よだれを垂らしながら行儀よく一列に並んでいたのである。

「あぁっ……ルナミスの精鋭たちが、完全に牙を抜かれている!」

「我が国の戦士たちもだ……おのれ、覇王め! 我が軍の兵士を完全に洗脳し、盾にする気か!」

「待て、あの男だ! 要塞の前に立つ、あの巨漢の男が……!」

 三国の首脳陣の視線が、巨大な鉄の網(BBQコンロ)の前で、肉を焼いている男に集中した。

 身長百九十センチの巨体。男の放つ赤黒い闘気は、離れた場所にいる彼らの肌をビリビリと焼くほどに強烈だった。

 これが、一夜にして要塞を築き、兵站を支配し、莫大な軍資金を手にしたという、未知の怪物リヴァイアサン

「……行くぞ。我々が、あの男の首を……」

 キュロスが剣の柄に手をかけ、決死の覚悟で歩みを進めようとした、その時だ。

「おい、そこの物騒な連中」

 覇王の低くドスの効いた声が、戦場に響き渡った。

「俺のシマで刃物は物騒だ。武器をしまえ。ここで飯を食うなら、皆平等だぞ」

 ◇ ◇ ◇

「なんだ、あいつら。やけに物々しい格好してんな」

 俺は片手にトングを持ち、マルボロを咥えながら、村の入り口に現れた数万人の軍隊を呆れた目で見ていた。

 今日はポポロ村の『大収穫祭(BBQ)』だ。

 ロックバイソンの分厚いステーキ肉と、俺の畑で採れた新鮮な野菜を、巨大な炭火コンロで豪快に焼き上げている。

 すでに昨日の『炊き出し』で味を占めた国境警備隊の連中が、仕事もせずに列を作ってよだれを垂らしている状態だ。そこへ、さらに数万人の兵士がやって来たらしい。

「龍魔呂様。あれは三国の近衛部隊と、最高司令官たちかと存じます」

 俺の隣で、相変わらず泥だらけのスーツを着たリバロンが、うやうやしく囁いた。

「ほぉ、ご近所の偉いさん方か。ちょうどいい、俺のシノギ(農園)の顔見せにはもってこいだ」

 俺は網の上でジュージューと音を立てる肉の塊を裏返した。

 スマホ通販で取り寄せた『特製焼き肉のタレ(ニンニク醤油ベース・リンゴとハチミツ入り)』を、刷毛でたっぷりと塗りたくる。

 炭に脂とタレが落ち、ジュワァァァァァッ!! という爆音とともに、香ばしい煙が爆発的に立ち昇った。

「さぁ、焼けたぜ。せっかく来たんだ。てめぇらも遠慮せずに食いな」

 俺は紙皿に極上のロックバイソン肉と、採れたての『レ足ス』を乗せ、先頭に立っていた三人の男たち――キュロス、ハガル、ルーベンスの前に突き出した。

「な、なんだこれは……」

「我々に、この『毒(魔薬)』を食えと言うのか……!」

 三人はガチガチに震えながら、顔を青ざめさせている。

(……毒? 失礼な野郎だな。ただのBBQだぞ)

「四の五の言ってねぇで、冷める前に食え。俺の作った飯が食えねぇってのか?」

 俺が少しだけ声を低くし、赤黒い闘気を漏らすと、三人はビクッと肩を跳ねさせ、震える手で肉の乗った紙皿を受け取った。

 キュロスが覚悟を決め、目を閉じて肉を口に運んだ。

 それに続き、ハガルとルーベンスも、処刑台に上るような顔で肉にかぶりつく。

 サクッ、ジュワァァァァァ……。

「――――ッ!!?」

 三人の首脳陣の動きが、時を止められたようにピタリと静止した。

 ロックバイソンの野性味溢れる赤身肉。だが、俺が事前に施した下処理(物理的な叩き)と、極上のタレの酵素によって、その肉は驚くほど柔らかく解ける。

 噛み締めた瞬間、濃厚な肉汁が爆発した。

 そこへ、現代のニンニク醤油ダレの絶対的なパンチ力と、リンゴとハチミツの隠し味が、彼らの味覚を一切の容赦なく蹂躙していく。

 さらに、付け合わせの『レ足ス』のシャキシャキとした冷涼感が、口内の脂をスッと洗い流し、無限に肉を欲するループへと彼らを突き落とした。

「あ……あああぁぁぁっ!?」

 誇り高きルナミス帝国の騎士団長キュロスが、膝から崩れ落ちた。

「う、美味いっ! なんだこの肉は!? 硬いはずのバイソン肉が、口の中で溶けていくっ! それにこのタレの、脳を殴りつけるような旨味は……っ! 陛下……私は、もう……ダメですぅっ!!」

「ワォォォォォォォンッ!!!」

 獣人王国のハガルは、完全な獣の顔になって遠吠えを上げ、地面に落ちたタレを一滴残らず舐め回し始めた。

「あひぃっ♡ こんな美味い肉、王宮のフルコースでも食ったことねぇ! もう戦略とか誇りとかどうでもいい! 俺、ここで覇王様の飼い犬になりますぅぅ!」

「信じられん……これが……究極の美食……っ」

 アバロン魔皇国のルーベンスも、涙をボロボロとこぼしながら、恍惚とした表情で肉を咀嚼している。

「私の愛したポポロシガーすら霞むほどの、圧倒的な多幸感……。あぁ、世界は、世界はこんなにも美しかったのか……っ♡」

 悶絶、語彙崩壊、そして恍惚。

 三国のトップエリートたちは、たった一口のBBQ肉で、完全に骨抜きにされてしまった。

 彼らが武器を放り出して肉に泣いてすがる姿を見て、後ろに控えていた数万の合同軍の兵士たちも、「俺たちも食いてぇぇぇ!」と一斉に武器を捨てて大行列を作り始めたのである。

 ◇ ◇ ◇

[幕間:人狼族の執事 リバロン 視点]

(……終わった。今、この瞬間、歴史の歯車が完全に回った)

 私は、純白のハンカチで額の汗を拭いながら、目の前で繰り広げられる「無血開城」の光景に戦慄していた。

 龍魔呂様は、ただ肉を差し出し、「俺のシマで飯を食うなら、皆平等だ」と言い放った。

 その言葉の真意は、三国の首脳陣にとって痛いほどに理解できたはずだ。

 ――『我が軍門に降り、この恩恵(美食)を甘んじて受け入れよ。逆らう者は、この赤黒い闘気で塵一つ残さず消し飛ばす』。

 圧倒的な武力(恐怖)と、絶対的な兵站(恩恵)の提示。

 究極の飴と鞭を前に、三国のトップたちは自らの無力さを悟り、完全に軍門に下ったのである。

 兵士たちが武器を捨てたのは、恐怖からではない。この覇王に付き従えば、永遠にこの極上の飯が食えるという『絶対的な救済』に気づいたからだ。

(血の一滴も流さず、数万の軍勢と三国の首脳陣を、ただの「肉のバーベキュー」で完全に掌握(洗脳)してしまうとは……! 龍魔呂様、あなたこそが、このアナステシア大陸を統べる真の神に他ならない……!)

 私は泥だらけのスーツのまま、ただただ覇王の恐るべき手腕に平伏するしかなかった。

 ◇ ◇ ◇

「おいおい、そんなに急がなくても肉は逃げねぇよ。ちゃんと並べって言ってんだろ」

 俺はトングをカチャカチャと鳴らしながら、押し寄せる数万人の兵士たちに次々と焼肉を配り続けていた。

「おじしゃまー! お肉、すっごく美味しいよぉ!」

「龍魔呂さん、最高だわ! もうポポロ村の英雄ね!」

 ルナとキャルルも、口の周りをタレだらけにして肉を頬張っている。

(まぁ、ご近所付き合いのBBQが大成功したなら、それに越したことはねぇな)

 俺はマルボロに火をつけ、平和な宴の空気をツマミに、缶ビールを喉に流し込んだ。

 極道のルールその一。カタギは守る。

 俺の極上スローライフは、まだまだ始まったばかりだ。

お読みいただきありがとうございます!


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