EP 4
深夜のガチャ同盟。底辺アイドルとクズ冒険者
草木も眠る、深夜二時。
ポポロ村の静寂を包む満月の光の下、農業用大型倉庫の裏手で、怪しげな青白い光がボゥッと浮かび上がっていた。
「……ひっひっひ。来たぜ、この時間がよぉ」
月給三十万で雇われた自警団リーダーでありながら、夜回りのパトロールを完全にサボり、木箱の陰に隠れている男。A級冒険者、フェイト・ラックである。
彼の顔を青白く照らしているのは、手元の『魔導通信石』の画面だった。
「深夜二時は、アクティブユーザーが減ってサーバーの負荷が下がる。つまり、乱数調整によって最高レアリティ(UR)の排出率が密かに上がるという『深夜ガチャのオカルト』……! そして何より、今の俺にはこのコインがある!」
フェイトは、親指で一枚の銀色のコインを弾き上げた。
チンッ……。
高く舞い上がったコインを手の甲でキャッチし、息を呑んで確認する。
「よしっ! 『表』だ! これで俺のステータスと運気は二倍! 深夜のオカルトと、運気二倍のバフ……! この完璧な布陣なら、期間限定の『伝説の聖剣ピックアップガチャ』で、間違いなくURを引き当てられるぜ!」
フェイトが歓喜に打ち震え、ガチャの『10連を引く』というボタンに震える指を伸ばそうとした――まさにその時だった。
「ちょっとお待ちになってぇぇぇぇっ!!」
ズサァァァァッ!
突如、倉庫の角から、真っ赤な芋ジャージを着た人魚姫――底辺ポイ活アイドルのリーザが、凄まじい勢いでスライディング土下座のような体勢で飛び出してきた。
「ひぃッ!? な、なんだ!? 魔物か!?」
「フェイトさん! 貴方、今そのままそのボタンを押そうとしましたわね!? 信じられませんわ! そんな無計画な引き方、ドブに魔力石(課金アイテム)を捨てるのと同じですわよ!」
リーザはフェイトの手から魔導通信石をひったくり、画面を血走った目で睨みつけた。
「な、なんだよ急に! 俺は運気二倍なんだぞ! 今引けば絶対に出るんだ!」
「運気に頼る前に、もっと現実的な『数字』を見なさいな! ほら、この画面の隅の極小文字のバナー! 『ポポロ・ポイントモールを経由して決済すれば、今ならガチャ石の購入金額から15%がポイント還元』って書いてありますわよね!?」
「えっ」
「さらに! 今日は火曜日! 火曜日は『ゴルド商会カード』で決済すると、ポイントがさらに2倍! つまり、実質17%の割引状態でガチャが引けるという最強の錬金術が発動する日なんですわ!」
リーザの目は、完全にドルマーク(Gマーク)に染まっていた。
「それを、なんの経由もせずに定価で引こうだなんて……! 底辺アイドルの私から言わせれば、言語道断の愚行! 運気二倍を誇る前に、まずはポイント還元率を極限まで高めるのが『ガチャの嗜み』というものですわ!」
「な……っ! 17%還元だと……!?」
フェイトは、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
ギャンブルの快感(運)だけを追い求め、そうした地道な「ポイ活」を一切無視してきた彼にとって、リーザの提示した圧倒的な『数学的アドバンテージ』は、まさに目から鱗の戦術だった。
「す、すげぇ……。あんた、ただのジャージ着たアイドルじゃなかったんだな……。俺の『運気二倍』と、あんたの『ポイント還元術』を組み合わせれば……俺たちは、無限にガチャを引き続けられる最強のチームになれるんじゃねぇか!?」
「ええ、その通りですわ! 私を『ポイ活の師匠』と呼びなさいな!」
「おおっ! 一生ついていきます、師匠!」
フェイトとリーザは、夜更けの農業倉庫の裏で、熱い抱擁(ダメ人間同士の魂の共鳴)を交わした。
完全に仕事を忘れ、ガチャとポイントという名の欲望の沼に沈んでいく二人のクズ。
「さぁ、フェイトさん! 私が今、ポイントモールを経由して画面をセットしましたわ! 貴方の『運気二倍』のバフが切れる前に、一気に引くのですわ!」
「おうよ、師匠! 俺の右手に、すべての運命を懸けるぜぇぇっ!」
二人が魔導通信石の画面に顔を寄せ合い、『10連ガチャ』のボタンを力強く押し込もうとした。
――その瞬間。
メシャァァァァァァァァァッ!!!!!
フェイトとリーザが寄りかかっていた農業倉庫の分厚い鉄壁が、外側から紙切れのように爆砕された。
飛び散る鉄の破片。吹き荒れる夜風。
そして、ひしゃげた壁の向こうに立っていたのは――。
「……あははははは。やっぱり、こんなところにいましたのね、泥棒猫ども」
タローマン製の特注安全靴に、一億ボルトの紫色の電撃をバチバチと纏わせたヤンデレ村長、キャルル・ムーンハートであった。
「ひぃッ!? ウ、ウサギの村長!?」
「キャ、キャルル様!? なぜこんなところに!」
フェイトとリーザが悲鳴を上げて抱き合う。
キャルルの青い瞳からは完全に光が消え失せ、ハウス栽培のキノコのようにドス黒いヤンデレオーラがモクモクと湧き上がっていた。
「フェイト。貴方が月給三十万の仕事(夜回りのパトロール)をサボるせいで……この私が、龍魔呂様の温かいベッドの隣(※勝手に添い寝しようとしていた)を離れ、代わりに村の見回りをしなければならなくなりましたわ……」
ギチリ、ギチリ……!
キャルルが腰のダブルトンファーを引き抜く。その柄が、怒りでミシミシと悲鳴を上げている。
「龍魔呂様との甘い夜の時間を邪魔する者は、誰であろうと万死に値しますわ。……しかも、よりによって龍魔呂様のシマ(倉庫)の裏で、下らないゲームのガチャなどで盛り上がっているなんて……。龍魔呂様の労働コンプライアンスに対する、重大な冒涜ですわね」
「ま、待ってくれ! 俺は運気二倍なんだ! 今ならURが……!」
「運気二倍? ふふっ、関係ありませんわ」
キャルルが、マッハの速度で地面を蹴った。
「私の龍魔呂様への愛(殺意)は、常に『無限大』ですものぉぉっ!」
「極道流・就業規則違反への制裁――月影流『確定天井トンファー』!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
紫色の電撃を纏ったキャルルのダブルトンファーが、ガチャボタンを押そうとしていたフェイトの顎と、リーザの脳天に、寸分の狂いもなく同時炸裂した。
「あべしっ!?」
「ふえぇぇぇっ! 私の還元ポイントがぁぁっ!?」
運気二倍のバフなど、ヤンデレの純粋な暴力の前には何の役にも立たなかった。
二人の身体は、ガチャの虹色の演出を見ることなく、夜空の彼方へと美しい放物線を描いて吹き飛んでいき、そのまま畑の泥沼の中へと頭から突き刺さった。
「はーい、みんな起きてるー? 深夜のゲリラ配信だよー! パトロールをサボってガチャを引こうとしたクズ冒険者と、それに便乗した底辺アイドルが、ヤンデレウサギに物理的に『天井(昇天)』させられちゃいましたー!」
上空では、一部始終を撮影していたキュララが、ドローンのライトで泥に刺さった二人の間抜けな姿を照らし出し、面白おかしく実況している。
深夜のゴッドチューブのコメント欄は、草(w)の弾幕で埋め尽くされていた。
『運気二倍(物理攻撃は回避不能)』
『深夜のオカルトよりヤンデレの殺意の方が強いww』
『ガチャ引く前に命の残機が減ってて草』
『極道おじさんの労働コンプライアンスは夜間も徹底されている……』
「……ふぅ。これで村の風紀は守られましたわ」
キャルルはトンファーの血振るい(泥払い)をすると、満足げに微笑んで村長宅へと戻っていった。
翌朝。
泥だらけのまま気絶していたフェイトとリーザは、早起きしてきた龍魔呂によって首根っこを掴まれ、さらに過酷な『早朝・堆肥運び(罰ゲーム)』のシノギを強制されることになる。
ギャンブル中毒とポイ活中毒。
似た者同士の底辺同盟は、結成からわずか五分で、極道の絶対的なルール(とヤンデレの暴力)によって完膚なきまでに粉砕されたのであった。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




