EP 10
免許取得と、デコトラ暴走祝賀会
帝都ルナミス郊外、『ルナミス魔導自動車教習所』。
鬼のハンス検定員による絶対的な採点基準(道路交通法)を、極道のコンプライアンス(合法的な武力行使)によって完膚なきまでにねじ伏せ、見事『減点ゼロ』で卒業検定を突破した極道農家・鬼神龍魔呂。
その日の夕刻。
教習所の受付ロビーには、ルナミス警察の交通課長が直々に足を運び、震える手で一枚のプラスチックカードを差し出していた。
「き、鬼神殿……。こ、こちらが、大型魔導自動車まで全てを網羅した、正式な『運転免許証』になります……。ど、どうか、安全運転で……」
「……おう。ご苦労だったな、ポリ公。これで俺も、晴れて合法ドライバー(カタギ)の仲間入りだぜ」
パジャマの上にドカジャンを羽織った龍魔呂は、真鍮製のライターをポケットにしまい、手渡された真新しい免許証を日に透かしてニヤリと笑った。
「おおっ! ついにやりましたわね、龍魔呂様! これで助手席(私の指定席)のある馬車で、堂々と公道を走れますわ!」
ヤンデレ村長のキャルルが、ウサギ耳をピンと立てて龍魔呂の手元を覗き込む。
「ふふっ、面倒な手続きを正規のルートで踏破するとは、龍魔呂も案外真面目ですのね。……どれ、免許証の顔写真を見せてごらんなさいな」
セレブエルフのルナも、アイテムボックスに金塊をしまいながら近づいてきた。
ヒロインたちが龍魔呂の免許証の顔写真を覗き込んだ、その瞬間。
「……」
「……これ」
「……完全に『国際指名手配犯』のマグショット(逮捕写真)じゃないですかー!」
ドローンを飛ばしていた天使族のキュララが、たまらずツッコミを入れた。
免許証の小さな写真枠に収まっていたのは、顔の半分にドス黒い影を落とし、眉間に深いシワを刻み、カメラマン(サツ)を今にも殺さんばかりの鋭い眼光で睨みつける、完全なる『本職の極道』の姿であった。背景の青色が、余計にその凶悪さを際立たせている。
「チッ、なんだてめぇら。写真写りが悪りぃのは昔からだ。……文句があるなら、ルナミス警察のカメラのピントをぶっ壊すぞ」
龍魔呂は舌打ちをして免許証をドカジャンの懐にしまった。
「龍魔呂様、素晴らしいお写真ですわ! この写真を引き伸ばして、村長宅の寝室の天井にポスターとして貼り付けたいくらいですわぁっ!」
キャルルだけは、頬を赤らめて両手を合わせ、狂気的な絶賛を送っている。
「ゲプッ……あぁ、大満足ですわ……」
そこへ、ロビーの奥のソファー席から、お腹をタヌキのようにポンポンに膨らませた底辺ポイ活アイドル・リーザが、フラフラと歩いてきた。
「無料の麦茶、コーヒー、ココア、オニオンスープ……。教習所のドリンクサーバーの原液タンクを、すべて空にしてやりましたわ。さらに最新号の漫画雑誌からファッション誌まで、隅から隅まで読破……! そして何より!」
バサァッ!
リーザは、扇子のように広げた大量の『お友達紹介キャンペーン・500円分クオカード』を誇らしげに掲げた。
「教習生たちに愛想を振りまき、紹介枠をフル活用してゲットしたこのカードの束! 今日の教習所でのポイ活は、大・大・大黒字ですわぁぁっ!」
「……たく。どいつもこいつも、他人のシマで好き勝手やりやがって」
龍魔呂は呆れたように煙草を咥えると、教習所の出口へと顎をしゃくった。
「行くぞ、てめぇら。ライセンスはブン獲った。……いよいよ、極道デコトラの初出勤だ」
◇ ◇ ◇
すっかり日が落ち、マジックアワーの美しい星空が広がり始めたポポロ村の広場。
そこには、朝から出番を待ちわびていた全長十メートルの巨大な『極道デコトラ・ポポロ丸』が、重厚な沈黙を守って鎮座していた。
周囲には、村の住人たちや、ゴルド商会の猫耳族ニャングルたちが、固唾を飲んで集まっている。
「おじさん! 免許、取れたんか!?」
ニャングルの問いかけに、龍魔呂は無言でドカジャンの懐から免許証を取り出し、ピラリと提示した。
「おおおおっ!!」
村人たちから割れんばかりの歓声が上がる。
その凶悪な顔写真を見て何人かの子供が泣き出したが、極道農家が自らの足と実力(と暴力)で勝ち取った合法の証明書に、村中が沸き立った。
「よし。荷台の積み込みは終わってんな?」
「バッチリやで! ポポロ村特産の『太陽芋』に『お祈りレタス』、それに『極上メロロン』から、おじさん特製の『豚汁』の炊き出しセットまで、荷台の中にパンパンに詰まっとる!」
「……上等だ」
龍魔呂はデコトラの運転席のドアを開け、巨体を滑り込ませた。
助手席には、誰よりも早く滑り込んだヤンデレ村長キャルルが、ダブルトンファーを抱き抱えながら「ここは私の絶対領域ですわ!」と周囲を威嚇して座っている。
後部の広々としたキャビンスペース(シャンデリア付きの豪華ラウンジ仕様)には、ルナ、リーザ、キュララの三人が陣取った。
「みんなー! 極道おじさんのデコトラ、いよいよ初陣だよー! 配信枠も拡大してド派手に行くからねー!」
キュララがドローンをデコトラの周囲に旋回させる。
龍魔呂はシートを限界まで倒し、左腕一本でハンドルを握った。
「……エンジン、点火だ」
キュルルルルッ……ズドォォォォォォンッ!!!!
魔導エンジンが、大地を揺るがすような重低音の産声を上げた。
同時に、龍魔呂が運転席の『イルミネーション・スイッチ』を全てオンに叩き込む。
バチィィィィィィッ!!!
「うおおおおっ! 光ったぁぁぁっ!」
村人たちが目を覆う。
デコトラのフロントグリル、ルーフマーカー、サイドバンパーに仕込まれた数千個の魔導LEDが、赤、青、緑、金と、七色の極彩色にギラギラと輝き始めた。それはまるで、地上に降り立った巨大な『光の城』、あるいは『動く不夜城(パチンコ屋)』であった。
パラパーラ・パラパーラ・パラパーラパー♪
ゴッドファーザーの愛のテーマが、大音量でポポロ村の夜空に響き渡る。
「龍魔呂様ぁっ! 最高ですわ! この圧倒的な覇気、そして隣から香る煙草の匂い……私、助手席で昇天してしまいそうですわぁっ♡」
キャルルが恍惚の表情でシートに身を沈める。
「……右ヨシ。左ヨシ」
龍魔呂は、教習所で叩き込まれた完璧な『安全確認』を指差呼称で行うと、ゆっくりとデコトラを発進させた。
ブォォォォォォン……!!
巨大な光の塊が、ポポロ村の広場を抜け、街道へと滑り出していく。
「ヒャッハー! 夜のドライブですわーっ!」
「ちょっとリーザ! シャンデリアにぶら下がるんじゃありませんわよ! 高貴なエルフの頭に土が落ちますわ!」
後部キャビンでは、ヒロインたちが酒盛り(ポポロミルク)を始め、大騒ぎしている。
配信のコメント欄は、文字通り弾幕の嵐となっていた。
『デコトラのクオリティが高すぎるww』
『完全にヤクザの凱旋パレードじゃねーか!』
『でもちゃんと一時停止で止まってて草』
『ウインカーもバッチリ! 優良ドライバー!』
『コンプライアンスを遵守する反社トラックww』
「……チッ。うるせぇガキどもだ」
龍魔呂は、ルームミラー越しに後部座席の騒ぎを一瞥し、フッと口角を上げた。
法定速度40キロを完璧に守り、歩行者がいればハザードを焚いて道を譲る。
見た目はルナミス帝国で最も凶悪な『極道デコトラ』だが、その走りは、どの一般車両よりも洗練された、安全運転の極みであった。
「おいウサギ。最初の配達先はどこだ」
「はい、龍魔呂様! まずは隣町の孤児院に、極上の豚汁とメロロンパンの炊き出しですわ!」
「……上等だ。ガキどもに、本物の『メシ』の味を叩き込んでやる」
真鍮製のライターが、カチリと小気味良い音を立てる。
夜の闇を切り裂き、七色の光を放ちながら街道を進む極道デコトラ。
道路交通法という名の絶対のルールを、圧倒的な暴力と理不尽で完璧に遵守した極道農家は、自らの育てた誇り高き『シノギ(野菜)』を荷台に詰め込み、今夜もどこかの街へ、美味い飯と騒動を届けに行くのである。
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